45.お嬢様と本当の想い
「ご主人様、眠れないんですか?」
「んー……ほらだって、いろいろ考えちゃうと……」
「どうしたいのか、本当はもう決まってるんじゃないですか?」
「決まってるっていうか……でも、そんなに簡単な事じゃないでしょ!」
私たちは、部屋のベッドの上でヒソヒソ話をしている。
すぐ横には、ナナミちゃんもいて。
気持ちよさそうに寝ている。
「それより、キナコ。そろそろ自分のベッドに戻ったら?」
「えー? このまま寝るよ~?」
最近、特に三人で寝ることが多い気がする。
すごく大きなベッドなんだけど、さすがに狭いよね。
くっついて寝てる感じだし。
それは別に、今は良くて!
えーと。
えーと。
とりあえず、招待状をもらってるし。
正式に王宮に招かれてるんだから。
行かないっていう選択肢はないわけだし。
行くんだったら……。
ちゃんとした返事をしなくちゃいけない。
十五歳になって、魔法学校の高等部に入るとき。
つまり。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』のスタート時点で。
私は……。
……。
…………。
どうしたいのかなぁ。
どうなってればいいのかなぁ……。
色々、問題が多すぎて。
わからないよ……。
**********
「だいぶお悩みですね、クレナちゃん」
気が付くと。
目の前に、大きな瞳の愛らしい女の子の顔があった。
よく見ると、頭にドラゴンのような角が見える。
って!
近い!
顔近すぎだから!
慌てて、両手で押し返す。
「もう、相変わらず照れ屋さんですねー」
「違うから! かみたちゃんの距離感、おかしいから!」
なんで、両手で頬を抑えて顔を赤くしてるのさ。
出会ったころはあんなに威厳があったのに。
……ううん。
思い出してみたら、最初からなかったような気がする。
神様みたいなものなのに!
「失礼ですね、これでも、ほぼ神様ですからね」
そうだった。
心を読めるんだった。
「そうですよ、本当はすごいんですから。モグモグ」
いつのまにか白い空間にテーブルと椅子があって。
ドラゴン姿のキナコが果物をもぐもぐ食べている。
キナコの意見は、すぐに買収されそうだから信用できませんけどね!
「まぁ、すわってくださいー。今お茶を淹れますのでー」
かみたちゃんは、イスに座ると、くるりと指で円を描く。
テーブルの上がキラキラ輝きだして。
花柄のオシャレなティーセットと、ケーキスタンドが出現した。
こういうところは、神様っぽいなぁっておもうんだけど。
「ありがとう、かみたちゃん」
いろいろ言いたいことはあるけど。
ここは、笑顔でお茶会に招待されておこう。
かみたちゃんの淹れてくれる紅茶、美味しいし。
「で。今日はなんで呼ばれたの?」
「なぜって、さっきも言いましたよ? クレナちゃんが悩んでいたからですー」
心配そうな顔で覗きこんでくる。
……悪い子じゃないんだよね。
むしろ。
色々アドバイスしてくれるし。
「あのね、かみたちゃん……」
「なんでしょー?」
「私ね……シュトレ王子は、本物の星乙女ちゃんと結ばれるのが一番だってわかってるの」
「それは、どうしてですかー?」
「だって! ゲームでもそうだったし!」
「ゲームと一緒じゃないといけないんですか? クレナちゃんなんてゲームと違って女の子ですよー?」
かみたちゃんは、不思議そうに首をかしげる。
「だって! ゲームと一緒だったら!」
「だったら?」
「シュトレ王子は攻略対象なんだし。星乙女とラブになれば強くなれて、この世界が救えるじゃない!」
思わず大きな声で叫んだ。
……これは私の本心。
星降る幻想的なこの世界を。
大切な人たちがいるこの世界を。
――私は守りたい!
「でも。それだけが、理由じゃないですよね? 攻略対象は他にもいるんですからー」
え?!
驚いて顔を上げると。
かみたちゃんが優しい顔で微笑んでいる。
……ずるいな。
そんな顔されたら、なんでも話したくなるよ。
でもダメだ。これ以上は言っちゃだめ。
私が、何もしゃべらずに下を向いて黙っていると。
かみたちゃんはふいに立ち上がり、後ろから優しく抱きしめてきた。
「ねぇ。我慢しなくていいんですよ。ここには私たちしかいないんですからー」
透き通るような柔らかい声が白い空間に響き渡る。
心にずっと閉じ込めていた想いが、溢れそうになる。
……。
…………。
そうだよ。
ずっと、ずっと気づいてた。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』では、四人の攻略対象がいるけど。
別に、ハーレムエンドじゃなくても良くて。
攻略対象一人とラブラブなルートでも、難易度が上がるだけでちゃんとラスボスは倒せるし。
世界はそれで救うことが出来る。
だから……。
世界を救うことだけじゃなくて。
それだけが理由じゃなくて!
シュトレ王子のことで、ずっと目を逸らしてたことがある。
「だってね……」
「ハイ」
「だって……ゲーム画面の……シュトレ王子が……すごく幸せそうだったから……」
ゲームを進めることで見ることのできるスチル画面。
どのシーンでも。
王子はとても嬉しそうで。
でもその横には、いつも星乙女がいて。
当たり前なんだけど。
……あの笑顔は。
星乙女に向けらていたものだから。
シュトレ王子には幸せになってもらいたいよ。
誰よりも幸せに笑顔で笑っていてもらいたいよぉ……。
だから。
私はゲームの予言を実現させたいんだ。
たとえ、50%の確率であっても……。
あふれ出した涙が止まらない。
いつからこんなに……好きになったんだろう。
ゲームの展開なんて知ってるはずなのに。
こうなることはわかってたはずなのに。
何でこんなに胸が苦しいんだろう。
「えい!」
いきなり、かみたちゃんが、泣いている私の頭をぽかんと叩いた。
「……もう。クレナちゃんは、肝心なところでおバカですねー」
「いだいぃ……もうぅ、なにするのざぁ……」
「これを見てください」
かみたちゃんが大きく円を描くと。
白い空間に、たくさんの画面が浮かび上がった。
映っているのは。
私と……シュトレ王子だ。
初めてウチのお屋敷の花畑で出会った場面とか。
星降りの夜に二人で夜空を眺めたこと。
影竜から助けてもらったこと。
楽しく笑いながら生徒会活動をしていたこと。
それ以外にも沢山。
本当にたくさんの二人の思い出が、白い空間全体に映し出されている。
「ねぇ。クレナちゃんの目には、彼はどう映ってますか? ゲームの画面に負けてますか?」
シュトレ王子?
私と一緒にいる時のシュトレ王子は……。
王子は……。
幸せそうに。
すごく幸せそうに……笑ってるよぉ。
「もう……答えは出ましたよね。あとはクレナちゃん次第です」
「まぁ、ボクは最初からわかってたけどね。ご主人様鈍いから……」
キナコが肩に飛び乗ってきて、頬の涙をペロッと舐めた。
「かみたちゃん……私……」
「もう! 本当はクレナちゃんを王子なんかに渡したくないんですからねー。だから」
かみたちゃんが、強く抱きしめてくる。
急に視界が眩しくなって。
思わず目を閉じると。
優しい感触が、唇に伝わった。
「今度こそ、幸せになってくださいね……お願いします……」
いつものかみたちゃんとは違う柔らかな、でも切ない声。
あたたかい光の中で意識が遠くなっていった。




