コント:コンプライアンスに配慮しすぎ
ツッコミ:やぁ、やぁ。ようこそお越しいただきました。今晩皆さんに集まってもらったのは、他でもない……。
ボケ:まさか……犯人が分かったのか!?
ツッコミ:えぇ。フフ……第三の殺人。みなさん、覚えていますか? あそこで犯人は、致命的なミスを犯してしまったんですよ。
ボケ:致命的な、ミスだって? それってどういう……。
ツッコミ:その前にみなさん……第一の殺人から振り返って行きましょうか……フフフ。
ツッコミ:まず第一の殺人。犯人は被害者の女性の首を後ろから絞め……。
ボケ:ちょっと。
ツッコミ:え?
ボケ:『首を絞める』っていう表現は……教育上どうなのかな?
ツッコミ:は?
ボケ:つまり……子供達が真似したら、危ないでしょう?
ツッコミ:はぁ。
ボケ:そもそも殺人事件だなんて、そんな物騒なもの、コンプライアンス的におかしいよ。
ツッコミ:おかしいと言われても、実際に事件は起こってるわけで……。
ボケ:だからって、もっとソフトな表現があるんじゃないか? たとえば、『天国への片道切符』とか。
ツッコミ:優しい言い方をすれば、事件が帳消しになるとかありませんよ!?
ボケ:でも、刺激が強すぎるのも問題だろうよ。とにかく直接的表現はダメだ。最近はコンプライアンスが厳しいんだから。
ツッコミ:分かりましたよ。犯人は、被害者の女性に『天国への片道切符』を手渡し……。
ボケ:待ってくれ。その『被害者』という言葉も、少々毒気があるな。今現在様々な被害に遭われている方に、配慮がなさすぎる。
ツッコミ:だったら、何と言えばいいんですか?
ボケ:そうだなぁ……『先を往く者』とか、『神に呼ばれし者』とか。
ツッコミ:……何か、配慮しすぎて逆に不遜になってません?
ボケ:最初のよりは全然いいよ。コンプライアンスにガンガン配慮していこう!
ツッコミ:……犯人は神に呼ばれし女性に、『天国への片道切符』を手渡し……。
ボケ:待って。冷静に考えて、その『犯人』っていう呼び方も、今思うとどうなのかな?
ツッコミ:またですか?
ボケ:犯人にだって、家族や友人がいるわけだろう。彼だって一人の人間だ。罪が確定する前は、もっと人権を尊重した呼び方を……『道に迷いし者』とか。
ツッコミ:悪いことは悪いとはっきり言ってやるのも、コンプライアンスじゃないんですか?
ボケ:だけど『道に迷いし者』は、まだ罪が確定したわけじゃないからね。
ツッコミ:もう『道に迷いし者』で定着してる……。
ボケ:さらに僕に言わせれば、『女性』という性別を限定するような表現も、今や全く時代に合ってない。
ツッコミ:もう何とでも呼んでください。
ボケ:だからコンプライアンス的には、『道に迷いし者が、神に呼ばれし子羊に、天国への片道切符を手渡し……』と、こうなるな。
ツッコミ:それじゃ何のこっちゃ分からないじゃないですか!?
ボケ:でも、コンプライアンスは大事だから! 被害に遭われた方、子供への影響、それから犯人が捕まった時、彼の親族や友人への対応……全部配慮してこそ、新時代の殺人事件と言えるんじゃないかな!?
ツッコミ:全部配慮って……大体なんで、あなたは犯人が男だって知ってるんですか?
ボケ:え? あ……。
ツッコミ:まさか……。