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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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95話 再会までの軌跡~耀弥、動く~

何話か、耀弥の回想話が続きます。

 時は遡り、悠灯が引越してからそう時間を置かず、数日が経ったある日。

 耀弥はとある行動に出た。


「携帯がほしい」


 それは、耀弥が何年かぶりに両親に伝えた自身の欲求だった。

 ふたりはそれに異も唱えなければ理由を追及もせず、耀弥の望みを受け入れた。そもそも、これまで耀弥が携帯を必要としていなかっただけで、もとより耀弥が中学に上がる時点で買い与えるつもりだったのだ。

 そうして、人生初の自分の携帯――スマホを手に入れた耀弥は、母の手伝いのもと必要な初期設定を終えると、何よりも先に1本の電話をした。

 自室に保管していたメモを見ながら、画面に映るキーパッドをタップしていく。


『もしもし?』


 スピーカーの奥から聞こえるはっきりとした女性の声。

 たった4文字でその明るい性格を認知させるその人は、耀弥の恋人である悠灯――その母親の好恵だ。


「あ……沖田耀弥、です」

『耀弥ちゃん? もしかして、携帯買ったの?』


 表示された携帯電話からの着信を示す番号を見て耀弥だと思っていなかったのだろう、好恵は真っ先に自身の疑問をぶつける。


「……ん」


 耀弥が肯定すると、そっかぁとなぜか感慨深げになる。


『電話かけてきてくれたのは初めてね。あの時の紙切れが役立ってよかったわ』


 紙切れとは、好恵のスマホの連絡先が記されたメモ用紙のこと。先ほど耀弥が見ていたのは、以前サクラモールで好恵から受け取った連絡先だ。


『それで? 悠灯じゃなくて、私への用事は何かしら?』


 あえて「悠灯」の部分を強調して、自分でないといけない用向きなのだろうと示す。


「織宮くんの誕生日、教えてほしい」


 そんな意図を察しているのかいないのか、耀弥は特に言い淀むことなく要件を伝える。

 そう。耀弥が悠灯に内密に、好恵にコンタクトをとったのはその悠灯の誕生日を訊きたかったからだ。


『なるほど。サプライズ、したいわけね』

「もしかして、もう……」


 過ぎている……耀弥がそう言いかける。

 暦はもう11月も下旬。1年はほとんど終わりに近い。過ぎている可能性の方が圧倒的に高い。

 だが好恵は耀弥の言葉を遮って、


『大丈夫よ、まだだから』

「そ……っか……」


 その言葉に、耀弥は内心ほっとする。自分の行動が無駄にならなかったと。


『フフ。悠灯の誕生日は12月24日……ドンピシャのクリスマスイヴよ』

「クリスマス……」


 クリスマスイヴという言葉を聞いて、耀弥は少し思案する。


『耀弥ちゃん?』


 必然、思考に入れば会話も止まる。

 好恵は突然黙りこくってしまった耀弥を呼ぶ。


「ううん、大丈夫。少し考えてただけ」

『そう? それならいいんだけど』


 耀弥は問題ないと返し、好恵もそれ以上追求することはしなかった。


『プレゼントはもう決めてるの?』

「ん。でも……秘密」

『そっかぁー、それはザンネン』


 言葉とは対照的にそれほど気にした様子はなく、好恵はあっけらかんとしている。

 この時、耀弥は不思議な感覚に陥った。


 ――なぜ、好恵にプレゼントが何かを教えなかったのか。


 自分でもその理由がわからないまま、スルリと言葉が口から出ていた。


『じゃあ、私もプレゼント、楽しみにしてるわ』

「……ん」


 だがそれが電話の向こうに伝わるはずはなく。

 それじゃあねと、好恵は電話を切ろうとする…………直前。


「あっ……」


 耀弥の口から、何かに気づいたとも、呼び止めたともとれる声が零れた。


『ん? どうかした?』


 遅かったと思われたが、好恵はそれを聞き逃すことなく確認をとる。


「えっと……メール……」


 この類の話には慣れていない耀弥。自分から連絡先を訊くことにさえ、言葉の選び方がわからなくなる。

 だが、「メール」の一単語が出れば十分と言えるもの。


『あぁ。内緒話するなら電話よりメールの方がいいわよね』


 好恵はすぐさま耀弥の意図を察し、自身のメールアドレス、そしてチャットアプリのアカウントIDを伝えた。


「……ありがとう」

『いえいえ』


 そうして、電話越しの短い会話は終わった。

 固定電話とは少し違う、初めて聞く音が耀弥に通話終了を知らせる。


「……次」


 耀弥は小さく呟き、もうひとり電話をかけた。




 ◆◇◆◇




 好恵に電話した翌日、日曜。

 昼食を取り終えた耀弥は、外出の支度をしていた。


「もう出るの?」


 この日は仕事が休みだった耀弥の母――未弥は娘を玄関まで見送りに来た。


「うん」


 ふたり……いや、家族3人の関係性は以前よりもずっと芳しいものになり、それと同時に会話も増えた。


「いってらっしゃい。気をつけてね」

「うん。いってきます」


 耀弥は母に応え、家を出た。

 慣れた道を、徒歩で坦々と進む。家に一応自転車はあるが、耀弥は基本的に使わない。というより、もう何年も乗っていない。目的地が電車を必要としない限り20分でも30分でも歩くため、耀弥は意外と足腰が強かったり体力があったりする。

 それゆえに、無の表情を1ミリも崩すことなく約2キロメートルの道のりを歩き続け、目的地――サクラモールに着いた。


 耀弥がサクラモールを訪れる用事は基本的にふたつしかない。

 ひとつは本屋「青城書店」。この付近に本屋は2店舗あるが、もう一方はサクラモールとは真逆にあり、かつ家からの距離も大して変わらない。加えて規模も青城書店の方がやや上なので、耀弥がそちらを使うことはほとんどない。

 そしてもうひとつは、まさに今日の目的。耀弥がスーパーの次に多く足を運ぶ場所――手芸用品専門店「手芸広場 Cra-Ha」だ。


 いつもであれば、裁縫用の糸や布の補充など、最低限必要なものを買うだけで、「何かいいものはないか」なんてそれ以上何かを探したりすることはなかった。

 だが今日はいつもとは違い、裁縫用品のコーナーには目もくれなかった。耀弥が向かったのは、編み物のコーナー。裁縫用品以外気にも留めてこなかった耀弥にとっては、区画が少し違うだけで目新しい光景だった。


「えっと……」


 同じ店内の知らない場所を、カゴを右手に、メモを開いたスマホを左手に必要なものを探していく。

 耀弥は裁縫を趣味としているが、やっているのは手縫いのみで、ミシン縫いや、それこそ編み物には手をつけたことがなかった。当然、初めてやることを何の下調べなしにすることはできない。

 そのため、昨夜、手に入れたばかりのスマホを使って編み物のやり方や必要な道具なんかをひと通り調べておいたのだ。

 基本的に迷わない耀弥は、買い物の時にあれこれどれにするかで時間をかけることはないが、今回は完成形をイメージしながら、特に編み糸に関しては時間をかけて選んだ。


「……ん」


 そして、最後に白の編み糸をカゴに入れて、必要なものは揃った。




 ◆◇◆◇




 翌日、月曜。

 悠灯が転校して以来、少しだけ変わったいつも通りの学校生活が流れ、そして放課後。


「沖田さん、また明日ね」


 11月に入り、席替えをしたことで隣の席になった邦依田純乃が、荷物の整理をしていた耀弥に声をかける。

 純乃はこれから部活に行くのだろう、右手にフルートケースを持っていた。


「ん……また明日」


 笑顔の純乃に返し、荷物整理を再開する。


「わっ! ゴメンなさい」

「あぁ、いいのいいの。気にしないで~」

「……って、あれ?」


 後方の扉付近から、純乃が誰かと話す声が耳に届く。


「おっ、いたいた! おぉ~い、沖田さーん!」


 だが二言三言交わした直後には、純乃と話していた生徒は耀弥の名を叫んでいた。というか、呼んで、手を振っていた。

 予想外の珍客に、クラス全員が声の主の方を一斉に見る。

 少し遅れて、呼ばれた当人である耀弥が顔を向けると、「おぉう……なんで私こんなに注目浴びてるの?」と言わんばかりの動揺を見せる女子生徒が立っていた。そして耀弥は、その女子生徒に見覚えがあった。

 前髪を上げたカチューシャに、縁なしのラウンド眼鏡。そう……耀弥が文化祭の初日に純乃と訪れた手芸部の現部長――緑川光沙(みさ)だった。

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