表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
5/130

5話 放課後スーパー

サブタイの通り、放課後にスーパー行きます。

5話にして急接近?

 新学校生活にある程度慣れた頃のとある放課後、その日日直だった成田に頼まれてプリントを配っていた。

 本人曰く、どうしても部活に遅れるわけには行かないそう。ちなみに成田は陸上部、芽野は卓球部、五十谷は体操部だ。3人とも部活になると人が変わり、それはもう普段の軽さからは想像出来ない程にのめり込む。らしい。見たことないからわからんけど。成績も良いとのこと。

 まぁ、それは置いておくとして、やっと配り終えた。プリントが4種類でこのクラスは40人=160枚のプリントを一枚一枚配ったことになる。更にプラスで個人のプリントも何枚かあったので座席表を照らし合わせながら配った。ちなみにこれらのプリントは本来成田が昼休みに配るはずのものだ。休み時間なら前の机に置いておけば後ろに回してくれるけど、放課後だとそうもいかない。全種類一枚一枚机の中に入れておく必要がある。

 ……というか、なんで転校生の俺に頼むかなぁ。他にいくらでもいただろうに。


「もう4時半過ぎてんじゃん」


 配り始めたのが3時40分過ぎだったから……かなり無駄な時間を消費したな。今から屋上に行ってもほとんどいられないだろうし今日はそのまま帰るか。

 鞄を持ち上げてスマホを仕舞おうとした時、ピコンと電子音が鳴った。母からメールだ。


『野菜炒めするからニラ1本ともやし3袋とピーマン3つと後味噌と七味と冷食テキトーに買ってきて~』


 お使い命令だ。どうやら今日は野菜炒めらしい。……なんだよ冷食テキトーって。本当にテキトーに買ってってやろうか。

 溜め息ひとつつき、俺は財布を確認してから教室を出た。



 下足に履き替えて校舎を出る。正門前まで来た時、別方向から来た人物に俺は足を止めた。

 沖田さんだった。向こうもこちらに気づいて足を止める。


「……」

「……」


 やっぱりこうなった。

 双方、挨拶をするでも会話をするでもなく、黙り込む。ひとつあるとすれば、沖田さんがその静かな瞳で俺を凝視していることくらい。実際、「くらい」ではすまないくらい恥ずかしいのだが。

 俺はいたたまれない気持ちになって何も言わぬまま再度歩みを始めた。しかし、幸か不幸かほとんど同じタイミングで沖田さんも足を出した。

 更には方向も同じと来た。もっと言うとゆっくり歩いていた俺と歩幅も同じなので自然と並んで歩く形になった。

 そうして気まずい空気(多分俺だけ)のまま10分近くが経ち、漸く俺の目的地であるスーパーに着いた。

 気恥しいので挨拶もなしにひとり右折して駐車場の入口から入ると、まさかまさかの沖田さんが隣にいた。

 …………。


「もしかして、沖田さんも買い物?」


 さすがに気になったので思い切って尋ねてみた。返ってきたのは無言と頷き。


「そ、そっか」


 俺たちはそのまま建物に入り、どちらが決めたわけでもなく、そのままの流れで一緒に回ることになった。


「そういえば、沖田さんって弁当だよね。毎日」


 丁度野菜売り場を回っている時、沈黙状態に堪えかねた俺は心底どうでもいいことを訊いた。

 反応はやはりコクリと頷くだけ。


「やっぱり、お母さんが作ってくれてるの?」


 今度の反応は意外にも小さく首を振るものだった。


「母親も父親も、夜中まで帰ってこない。だから、自分で作ってる」


 沖田さんは続けてそう言った。


「へ、へぇ、凄いね。料理出来るんだ」

「ん」

「……」

「……」


 会話が続かない。例の如く沖田さんは無口で、俺も別に多弁ではないので、些細な話題すらも見つからない。

 俺は誤魔化すようにピーマンを3つ物色し、もやしを3袋取って籠に入れた。近くにニラもあったので適当に1本選んだ。


「えっと、ニラにもやしにピーマン、冷食も適当に買ったし……後は味噌と七味か。っと、どこだ」


 俺はメールを見ながら確認し、味噌と七味の売り場を目で捜す。


「どっちも調味料のトコにある」

「え? あ、あぁ。ありがとう」


 俺の言葉の後、沖田さんが売り場を教えてくれた。正直意外だった。

 礼を伝えて調味料売り場に行こうとすると、沖田さんも着いてきた。


「あれ? 沖田さん、買い物はいいの?」

「ん。もう終わってる」

「えっ!? じゃあ、終わってるのにわざわざ着いてきてくれてたの?」


 沖田さんは小さく頷く。


「どうして?」

「…………何となく?」


 首を傾げて何故か疑問形でそう言った。

 他人には興味無いと言ったり、かと思えば何となくで買い物に付き合ってくれたり、つくづくわからない人だ。でも、そういうのも含めて沖田耀弥という人間なのだろう……俺はこの人の何を知ってるんだって話だけど。

 その後は、沖田さんの言った通り調味料売り場で味噌と七味を入手し、ふたりとも会計を済ませ建物を出た。夏故に空はまだ青色だった。


「そういえば、さっき両親とも夜中まで帰ってこないって言ってたけど、もしかして今日も独りなの?」

「……ん」

「じゃあさ、良かったらうち来る?」

「……」

「……」


 …………。あれ? ちょっと待て俺今なんて言った!? なんか物凄く恥ずかしいことを口走った気がするんだが……! 友達でもないのにいきなり家に誘うとかただの頭おかしい人じゃん! ただのナンパ野郎じゃん!

 ……でも、家でも独りということは、沖田さんは学校でも家でも独りということになる。……にしてもさすがに家に誘うのはぶっ飛びすぎたか?


「いやっ、別に変な意味じゃ……」

「ん」

「……え?」

「迷惑じゃないなら」


 あれ?

 予想外の返答だった。あれだけ無関心と言われ自らも謳った人だ。てっきり「いい」とか「無理」ってあっさり断られるかと思った。


「そ、そっか。良かった。うちは全然問題ないよ、多分」


 呆気に取られる俺をよそに、沖田さんは今日何度目か、無言でコクリと小さく頷いた。

 そして、俺の先導の元、俺たちふたりは俺の家に向かった。

次回、織宮母、登場です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ