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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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4話 少女が抱いた違和感

今回は耀弥をメインに三人称形式でお送りします。

 無口。無表情。他人に無関心。


 この3つが、中学高校と周囲の人間が少女──沖田(おきた)耀弥(かぐや)を表す形容詞となっていた。

 事実その通りだった。必要最低限のことしか口にしない。いつも表情を変えない。どんな話題を振っても全く興味を示さず、視線さえ合わさない。

 耀弥自身意識したことはないが、耀弥は他の同年代の女子たちより整った容姿をしていた。それ故に、男女問わず仲良くなろう、お近づきになろうとする人間は少なからずいた。しかし、語らず、笑わず、関わらずを続けているから当然、そうやって近づく誰も、すぐに耀弥と距離を置いた。そして周囲の人間も耀弥から興味を失くしていった。


 ──別に構わない


 なぜなら、そもそも耀弥の方から距離を近づけようとしていないのだから。


 どれだけ友達と謳っても、大事な約束と小指を交わしても、笑って泣いて喧嘩しても、そして仲直りしても……そんな仲良しごっこは結局はまやかし、偽物なのだから。


 そうあの日(・・・)気づいた時、耀弥は人と関わることを極力やめることにした。


 他人との関わり合いを断てば、自然と他人への興味は失せ、やがて耀弥は表情を失い、長く語ることさえ容易に出来なくなった。

 されど、後悔はなかった。なぜなら、それが耀弥自身が確立した、「沖田耀弥」という人間なのだから。



 そうやって過ごしてもう6年になる高校2年生のその初夏。


「織宮悠灯です。宜しくお願いします」


 耀弥のクラスに転校生が来た。

 こんな時期に珍しいものだと、そう思い、それ以外は特に何も思わなかった。

 転校生がひとり来たところで耀弥の生活に影響を及ぼすわけでも、劇的な変化をもたらすわけでもない。


 しかし、転校生の少年の目を見た時、耀弥の中でふたつの感情が蠢いた。


 教壇に立って教室を見渡す少年の目は一見普通の目をしているのに……どこか虚ろげで、どこか諦めたような目をしていた。


 ──まるで私だ


 織宮悠灯と名乗ったその少年の、その瞳は……耀弥と同じ色に曇っていた。耀弥にはそう感じられた。

 その瞬間、耀弥はほんの少しだけ少年──織宮悠灯に「興味」を抱き、そんな自分自身に「驚いた」。




 ◆◇◆◇




 転校生(悠灯)が来た日の放課後。耀弥はいつもの場所──屋上の塔屋のその上──にひとり、いた。昼休みと放課後は教室と廊下の喧騒と雑踏から外れるためここに来る。

 昼休みはそこで昼食をとり、放課後は特に何をするでもなくただじっと、そこにいるだけ。静かなその開放された空間で気を休める。強いて言うなら、代わり映えのしない町景色を見ているか少し眠る。


 ふと、今朝の転校生のことを思い出す。教室の前に立っていたあの時、ごく自然に、けれども少し苦しそうに微笑み顔を作っていた。しかし、耀弥にはそれがとても不自然に思えた。

 あの場でそう感じたのは耀弥だけだろう。きっと他の生徒から見れば普通の微笑、もしくは緊張して僅かに引き攣ってる程度にしか感じない。そして恐らく、そう感じたから耀弥の「興味」が顔を出したのだ。


 その日は珍しく、軽い眠気が襲った。最近はあまり感じなかったので少し久しぶりな感覚になる。

 眠っていたのはせいぜい数分程度。夢など見る暇はなく、暗闇の中、何かに導かれるように目覚めた。

 誰かいる。朧気な視界には梯子から、肩から上だけ見せた誰かがいた。

 まだ朦朧とする意識の中、次第にその人物の姿をはっきりと捉えられるようになった。


「……転校生」

「えっ? ああ、うん。そうだけど」


 その人物は、先ほど脳裏を過った少年、悠灯だった。しかし、誰とわかったところで別に話すことなんてない。故に、必要以上に関わることもない。

 塔屋から下りて顔を上げると、何故か悠灯が動揺しているように見えた。


「……どうかした?」


 耀弥は何を思ったのか、柄にもなく訊いた。その理由は自分でもわからない。


「い、いや。なんでもない」


 それに対して悠灯は、若干動揺の色を見せながらも否定の意を示す。応答を聞き、ならもう用はないとばかりに耀弥はそのまま屋上を後にした。


 静かに扉を閉め、一歩を踏み出す前に少しだけ立ち尽くす。思い出すのは悠灯の顔。正確にはその目だ。


 ──やっぱり、他の人とは違った


 一見なんの変哲もない普通の目なのだが、どこか虚ろげで、薄らと影が差し、僅かに諦めを含んだような……そんな目をしている。


 耀弥には、あの少年の目が、色褪せているように思えた。




 ◆◇◆◇




 悠灯は次の日からも毎日、屋上へやって来た。そう、毎日だ。それも昼休みに限っては毎回だ。放課後も来ない日はあれど少なくない頻度で来ている。

 誰かが来ることは今までに何度かあった。でも、振られた話題に対して心そのままに返していたらその中のいずれも来ないようになった。中には、流石にしつこいと思う者もいたが、1週間もすれば同じことだ。


 だが、悠灯は2週間近く経つ今でもまだ足を運んでいる。比較的静かで、隣で騒ぐこともなく、話しかけては来るものの、いつも通りただ淡々と返すと会話を長引かせようとはしない。どこまでも深追いはしてこない。これまでに比べたら、過ごしやすいとさえ感じられた。


 しかし、ある日。それが若干の変化を起こした。


 悠灯が屋上に来るようになって何日が経つだろうか。その日何か変わったことがあったかと言われると、耀弥が日直で、その仕事で昼食が遅れたこと……もうひとつ、放課後だ。


「もしかして俺、結構邪魔だったりする、かな?」


 いつも通り塔屋へ登ろうと梯子へ向かう途中、先に来ていた悠灯に言われた言葉だ。昼休みのことだろうと耀弥は察する。

 悠灯は付け加える。自分がいるから先に教室に戻るのではないか、と。

 耀弥にとってそれは唐突で、そんなことを言われるとは思っても見なかった。自分はただ昼食をとって、予鈴がなる前に帰るだけ。しかし悠灯は自分の存在が耀弥の邪魔をしているのではないかと感じていたのだ。

 だから耀弥はこう答えた。


「別に、どうとも思ってない」


 耀弥が悠灯に持つ印象は自分と同じ(色褪せた)目をした人、それと「つまらない女(耀弥)」に関わり続ける「変わった人」。それ以外、ない。


 思ったことをある程度端的に伝えると、悠灯は声を上げて笑った。

 耀弥には理解が及ばなかった。なんの前触れもなく、目の前の少年は笑ったのだ。


 でも。


 耀弥には、この時初めてその目の影が消え、褪せた色を取り戻したように見えた。



 織宮悠灯という少年の存在は、耀弥の中に正体不明の違和感を残した。

最近、書き置きって大事だなぁ~って思い始めました。心にゆとりが生まれる……

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