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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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38話 偽らざる心

 俺──織宮悠灯は、沖田耀弥が好きだ。


 実を言うと、そうではないかと薄々感じていた。それに、そう確信してしまえば納得のいくことが多かった。


 寝顔でもなければ顔を直視出来ない。

 目を合わせると顔が紅潮し、逸らしてしまう。

 一緒にいるだけで動悸が激しくなる。

 態度がぎこちなくなってしまう。

 あの綺麗な髪に触れたいと思ってしまう。


 これら全て、「恋」というたったひと文字で説明がついてしまうのだ。愛だの恋だのは大人になって自立するまで無縁なものだと思っていた。

 今考えると実に簡単で、実に単純で…………なんてチョロいんだ、俺……


「まぁ間違いなく、あの笑顔だろうな」


 普段笑わない子の笑う姿にコロッと落ちてしまう……実にチョロい。


 多分俺の彼女への感情は結構前から変わりつつあったんだと思う。

 静かな少女への「好奇心」から、友達という「好意」へ、そして今俺が抱える「恋情」へと至ったのだ。


 夕食を食べにうちに来たこと。

 毎日弁当を作ってきてくれたこと。

 沖田さんの家に行き、一緒に料理をしたこと。

 サクラモールで沖田さんの好きなことを知ったこと。

 俺の言葉がきっかけで髪を伸ばしたこと。

 水族館に行ったこと。


 全てがこの感情・・・・に至る要因だったのだ。それらがあの笑顔をトリガーに全て解き放たれたのだ。



 でも、不安もある。


 この気持ちを彼女に伝えるべきか否かということだ。そう考える理由はふたつ。

 ひとつは、受け入れてもらえるかということ。沖田さんは「友達」に対して傷を持っている。それ故に、それ以上の関係・・・・・・・を望まないのではという可能性は否定しきれない。

 もうひとつは、俺が彼女の元から離れる可能性が高いということ。気持ちを伝え、結果がどうであれ、俺が転勤族である以上転校する可能性は非常に高い。ならば、関係をこれ以上進めないことも選択肢には存在し得る。


「でも、どっちにしてもすべきことは……いや、しておきたいことはあるんだよな」


 文化祭まであと2週間と少し。今のところ転勤の話はない。

 少しでも長く、彼女と時間を共にしたい。




 ◆◇◆◇




 文化祭が近くなり、生徒たちのテンションも一段と高まっている。俺のいる2年5組も例外ではなく、準備の方もほとんど終わっている。

 更に日が経つと、どこの学年のどこのクラスが何をするなどの話題も上がり、当日どこに行くかなどの話も聴こえる。


「悠灯ー、お前も一緒にまわろーぜー」


 例のトリオ――3バカがやってきた。こいつらも文化祭の話題で盛り上がっていたグループのひとつで、どうやらさっきからの会話の流れで俺を誘いに来たようだ。


「時間ができたらいいけど……」

「ん? 織宮って確か、俺ら全員と時間が違うことってなかったよな?」

「まぁそうだけど」


 五十谷の確認は正しいのだが――というか、この3人金土両方とも午前午後で2:1に分かれてるから3人全員と違う人なんていない訳だが――俺にはまだ未定の予定があるので返事は曖昧になってしまう。


「じゃあなんか予定が……あぁ、沖田か!」


 芽野が気づいたようで納得したようにポンと手を叩く。


「いやぁそりゃ悪かったな〜。じゃあ断られたらそんときは一緒に回ろ〜ぜ〜」

「なんか言い方に悪意を感じるが……まぁそれだったら――」


 ニヤついた3人に多少イラッとしつつも誘いを受けようとした時、前方から声がかかった。


「織宮くーん、やめといた方がいいよー」


 突然呼ばれて反応すると、声の主は友達と談笑していた柿ノ江さんだった。なぜかその顔は実に楽しそうだった。


「? やめといた方がいいってどういう……」

「おい柿ノ江やめろッ!」


 反対に3人はなぜか慌てた様子だ。


「その3人、去年の文化祭で上級生の教室で騒ぎまくって叩き出されたのよ。それも5回」

「…………」


 柿ノ江さんから語られた、漫画でも聞かないような奇行に耳を疑い確認のために3人に顔を向ける。


「「「…………」」」


 3人は見事に全員バラバラに顔を明後日の方向に向け、なんとも微妙な表情をしていた。


「それで、今の3年生からは特に目をつけられてるの。下手したら同学年も危ないかもねー」


 嬉々として3人の黒歴史だと語る柿ノ江さん。


「…………マジ?」

「マジマジ大マジ。ねっ?」


 柿ノ江さんと一緒にいた生徒たちも同意を示すように頷く。

 俺はその光景を目にし、再度3人へ顔を向ける。

 3人は恐る恐る顔をこちらに。

 俺はニコッと笑う。

 3人の顔にパァッと喜色が灯る。目尻に涙が浮かんでいるのが少し気持ち悪い。


「……やっぱパス」


 その歓喜の表情を拒否の言葉を以てバッサリと斬った。


「「「ぬ゛あああぁぁぁぁぁッ!」」」


 ドサドサと崩れ落ちた3人は、恨めしそうに柿ノ江さんを睨むが、当の本人はケタケタと腹を抱えて笑っている。……柿ノ江さん強ぇな……

 3人と一緒に行動して俺も同族だと思われたらたまったもんじゃない。下手したら1年生の出し物しか行けないとか有り得そうだ。せっかくの文化祭でそれは御免被る。


 そんな3バカと柿ノ江さんを中心に広がる賑わいを尻目に、俺の後ろを通り過ぎる気配がふたつあった。視線を転じると、ちょうど揃って教室を出ていく沖田さんと邦依田さんが見えた。最近、邦依田さんが沖田さんに対してアクティブというか積極的になっている気がする。夏休みのうちに何か彼女なりの答えを得られたのだろうか、なんにせよ良い傾向と言えるだろう。


 廊下へと姿を消したふたりは、そう時間がかからない間に戻ってきた。邦依田さんは緊張が解けたような、まるで一手のミスで勝敗が決まる頭脳戦を終えたあとのような安堵感を含ませた表情をしている。対して沖田さんは……まぁ、相変わらずだ。

 気持ちを伝えるにしろ伝えないにしろ、望み薄なのが察知できてしまいなんとも言えない複雑な心境だ。


 いつの間にか3バカの黒歴史公開ショーの賑わいは静まったようで、いつもの教室に戻っていた。

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