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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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28話 アクアリウム・前

筆者の都合上、小説タイトルを変更しました。

 目が覚めたその瞬間から心が踊っているのが分かった。理由は勿論、今日は沖田さんと水族館に行くからだ。

 よし、今日という日は、初めて一緒に遊びに出かける日として心のカレンダーに記念日登録しておこう。

 シャワーを浴びて眠気を覚まし、簡単に朝食を済ませる。

 約束の時間は9時50分だからまだ2時間程余裕がある。空いた時間で所持金の確認や場所の確認などをする。


 水族館があるのは特急電車で5駅行き、駅から徒歩10分ほどのところ。口コミサイトやSNSを見ても好評価がほとんどなので期待大だ。

 比較的規模が大きい、少し値の張るところだから割引券があるのは僥倖だ。身分確認のため学生証も忘れない。

 昼食は水族館内のレストランで取ることにしているのでお金は少し多めに持っていく。

 沖田さんがいつ頃来るかわからないので取り敢えず15分くらいは早めに行っておこう。


「こんなとこかな」


 確認はひと通り済ませた。とはいえ、まだまだ時間の余裕が有り余っている。ただ呆けていても仕方ないのでほとんど時間潰しのためにスマホのチャットアプリを開いた。


『一緒に水族館に行くことになった』


 相手は言わずもがな瀬良だ。誰ととは書いてないが、瀬良のことだしこの一文でまあ察しがつくだろう。母といい瀬良といい、俺の周りには察しの良すぎる人が多いように思える。


『いつだ?』


 意外にも早く返ってきた返信。今日は日曜、時刻は朝の8時半になろうかという頃。普段の俺ならまだ寝ている頃だが瀬良は既に起きているようだ。……もしかして俺って、結構怠惰? まあ今はいいか。


『今日、これからだ』


『何故今になって報告する……』


『時間潰し。特に意味はない』

『ただ、楽しみの共有というか自慢というか、そういうやつだ』


『なんだ? そんな自慢話をひけらかしてくるお前に、俺はお土産をねだればいいのか?』


『まぁいつも来てもらってるお礼にそれくらい構わないが』

『なんならお前の彼女とペアルックでなんか買って送ってやるよ』


『おう。サンキュー。期待しないで待ってるわ』


『魚がでっかくプリントされてるTシャツとか』


『それはいらん』


 とまぁ、なんとも無為な会話をして時間を消費する。ちなみにそんなTシャツがあるのかは知らない。取り敢えずコップかペンか、ストラップあたり買っていけばいいか。

 最後に瀬良から『楽しんでこいよ』との言葉を貰い、それに『うぃー』と返してチャットを終了した。

 それ以降は本当にすることもなく、読みかけの本を読んで過ごした。


 家から待ち合わせの駅前広場までは15から20分程で着く。9時半には着くように9時を過ぎた辺りから着替えを始める。

 今日の服装は、トップスは紺のワンポイントTシャツの上から薄めの長袖パーカーに袖を通して前は開けておくスタイル。ボトムスはどこにでもあるようなジーンズだ。俺はそこまでオシャレに気を使うタイプの人ではないので、豊富な量の服は持ち合わせていない。

 あとはいつも通り、ショルダーバッグを肩から提げて準備は完了だ。

 逸る気持ちを抑え、踊る鼓動を携えて、外への一歩を踏み出した。




 ◆◇◆◇




 無意識に速足になっていたためか、30分より早く集合場所に着いた。駅前広場と称される場所にある、鳩の像前。平和の象徴でもしているのだろうか。……いや、今はそんなことはどうでもいい。もう一度言うが、9時半より前なのだ。もう少し具体的に言うと、集合時間よりは30分ほど前ということになる。流石に俺も早く来すぎたかなと思っていた……のだが。


(いくらなんでも早すぎるよ……沖田さん)


 若干遠目だが分かった。あれは間違いなく沖田さんだ。鳩像の傍で何をするでもなく泰然と、またはポツリとただ立っている。

 俺は駆け足で彼女の元へ向かう。


「ごめん、待たせちゃったかな」


 くそぅ……このセリフは言いたくなかったなぁ。


「別に」


 沖田さんは小さく頭を振る。


「ごめんね。まさかこんなに早く来るとは思ってなくて……」

「まだ、時間じゃない。だから、謝らなくていい」


 そのタイミングで、沖田さんが俺の方を見据える。それに合わせて俺も改めて彼女の全身を捉える。


 水色のトップスに淡い緑のカーディガン、純白のスカートと、両手には小さめのハンドバッグ。全体的に爽やかな雰囲気でとても似合っている。俺が女の子のファッションに詳しいはずもないし、沖田さんがオシャレに興味を持っているのかは分からないが、素人の俺から見ると文句のつけようがない、可愛らしいコーデだ。

 あと、少し気になったのが、心なしか水色のトップスが膨らんでいる。胸の辺りが。夏服や部屋着の時はそんなこと思わなかったが、この夏休みで成長したのかもしくは、俺が勝手に控えめだと決めつけていただけでホントは…………いや、到着早々この思考はマズい。落ち着け煩悩働け理性……多分初めてのことで緊張しているだけだ……

 左胸をグーで殴り、逸りまくる鼓動を強引に抑えてなんとか平静を取り戻す。


「そっか、そう言って貰えると助かるよ。それと、えっと……服、似合ってるよ」

「……」


 無言が怖い。何かしら反応をして欲しい。勇気出して言った手前、とても恥ずかしい。

 もしかして俺、失敗した?


「そ、それじゃあ、時間早いけど行こっか」


 半ば誤魔化すように促した。

 あと、今度があれば1時間くらい前には来ていた方がいいのだろうかと、密かに思った。




◆◇◆◇




 意外にもいていた電車でしばらく揺られ、5駅隣の町へ降り立った。まず目に入ったのは、桁違いに広い駅前広場。車道には多くの車が行き交い、広場の中心にはよく分からない豪勢な彫像や、サクラモール前のよりずっと豪勢な噴水の両サイドに何故か石造りのペガサスとユニコーンが前足を上げて立っている。……いや、ホントになんで? もしかしてここって俺が知らないだけで結構有名なトコなのか? 駅前の噴水に有名な幻獣2頭って、どこのファンタジー世界だよ。

 噴水を囲うように設置されたロングベンチには、老夫婦から子連れの母親たち、ヘッドホンで両耳を塞ぎ本を読んでいる成人くらいの男の人まで、少なくない人が腰をかけている。

 水族館自体は9時から開館なので待つ心配はない。俺たちが到着すると、結構な人が同じ目的地へと足を運んでいた。

 20段ほどの階段を上り、「WELCOME」と書かれたアーチを潜り建物内へ。通常は券売機を使うようだが、近くの柱に割引券を持ってる人は窓口まで云々と書かれた貼り紙があったので俺たちはそっちだろう。沖田さんを促して受付を済ませる。


「こちら、特典の限定ストラップです」


 そう言って渡されたストラップは幾つか種類があるのか、俺と沖田さんのとでは違っていた。俺はアシカ、沖田さんはクリオネだ。水族館の哺乳類の中ではメジャーなアシカはともかく……クリオネとはまたマイナーなチョイスだな。

 沖田さんは特に気にした様子もなくそのまま鞄に入れた。


 後で知ったのだが、他のストラップはクマノミにイルカにシュモクザメ、コウテイペンギン、クラゲだった。全7種類、コンプリートはまぁ無理だろう。

 俺もアシカのストラップをショルダーバッグのポケットに仕舞う。

 そして俺たちは、一気に暗がる、水棲生物たちの世界へと足を踏み入れた。


(なんか、今更だけど水族館デートみたいだな……)

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