表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
1/130

1話 幕開けは不思議な出会いから

初の連載投稿になります。故に不定期更新です(汗)。

無表情ヒロインを書きたかったので書きました。

 19


 上の数字は、俺がこれまでの人生の中で経験した転校の総回数だ。小学校10回、中学校6回、高校3回。


 うちは転勤族だ。母親は専業主婦で、父親だけが働いている。そして、その父親の度重なる異動により西から東へ、東から西へと引越しを繰り返し、それだけ色んな学校を回ってきた。

 中学もそうだが、小学校10とかもう異常だろ。2桁だぞ2桁。ちなみに、具体的な数字が出せるのは小学校の紅白帽だったり、中学高校の制服ボタンが残ってるからだったりする。

 そんなわけあって、転校先の学校で作った友達とはすぐに別れ、それ以降連絡を取り合うこともない。今となっては名前を覚えているのはひとつ前の学校のクラスメイトの数人と、それ以前は両手で足りる。


 ──そんな関係は果たして友達と言えるのだろうか。


 いつからかそう考えるようになると、俺はあることに気づいた。


 ──俺がこれまで作ってきたのは、友達なんかじゃなかったんだ。


 それが明確にわかって以来、次第に自分から友達を作るのをやめるようになった。自分から歩み寄ることはせず、向こうから話しかけてきたら「それなりの関係」を築く。それに留めていた。

 たとえ、その学校で一番よく喋る相手でも、イベント事で楽しい時間を共有した相手でも、友達と思わないようにした。いや……思わないようになった。



 そして高校2年の初夏。今、俺は実に20回目の転校先──4校目の高校、遠柳(とおやぎ)高校の正門前に立っていた。




 ◆◇◆◇




織宮(おりみや)悠灯(ゆうひ)です。宜しくお願いします」


 挨拶を終えると疎らな拍手が耳に入った。歓迎の拍手だろうか。


(このセリフ言うの、もう飽きたなぁ)


 心中でそんなことを呟きながらも表は愛想を良く、苦笑いにも似た微笑で一礼し指定された席に進む。場所としては窓側2列目の最後部。ひとつ内の列から飛び出ていて、左隣はいるが右隣はいないといった位置だ。

 休み時間は毎回、転校生という新鮮さと夏という妙な時期に転校してきたことへの物珍しさからか、終始質問攻めをくらっていた。これも(こな)れたもので、応答がある程度パターン化している。対応が楽になったと喜ぶべきか、何度繰り返すのだと嘆くべきか。

 男女問わず、何人かのクラスメイトと会話もし、今回も変わらず「それなりの関係」を築いていけると思う。



 授業も滞りなく終わり、20回目の再スタートとしてはいい方だと思う。いつ終わるとも知れないが。


「織宮くん、この後職員室まで来てねー」


 ホームルームの時、先生に呼び出しを受けた。まぁ、転校初日だし話しておくことでもあるんだろう。

 俺は終礼後、クラスメイトと挨拶を交わして1棟の職員室へ向かった。

 新しい学校なんてもう何度も経験しているので、アウェーな空間にも些かの緊張感も疎外感もない。程なく職員室に辿り着き、入室する。


「これ、選択科目の教科書。音楽で間違いなかったよね?」

「はい」


 そういえば選択科目の教科書まだだったなぁ。忘れてた。


「わからないことがあったら、先生にでもクラスメイトにでも遠慮せずに訊いてね」


 わからないこと……あ、そうだ。ひとつ訊いておきたいことがあった。


「先生。この学校、屋上って使えますか?」

「屋上? 屋上は昼休みと、放課後は5時までなら第2棟だけ解放されてるよ。あ、でも放課後はたまに吹奏楽部や合唱部の子が使ってる時もあるから」


 まぁ、完全占領ってわけじゃないなら大丈夫か。


「そうですか。ありがとうございます」

「他には何かある?」

「いえ、大丈夫です。失礼します」


 俺は職員室を後にすると教科書を鞄に仕舞った。

 さてと、早速屋上に行くか。

 連絡通路を渡って2棟に戻り、生徒達の喧騒を抜け、階段を上って1年生の階を通って最上階まで到達する。

 教室の引き戸より小さい扉を押し、外に出る。

 静寂。楽器の音も、歌声も聴こえない、運動部の声が小さく聴こえるだけの空間。どうやら今日はどちらもいないらしい。まぁ、そっちの方が静かでいいけど。

 高いフェンスに指を掛け、ポツリと呟く。


「ここは、何ヶ月もつかな」


 特に意味の無い、ただ頭をよぎったから口にしただけ。

 ふと、ある1箇所が目に入った。

 これまで何度もお世話になってきた屋上の、今いる場所からもうひとつ高い場所。俺がさっき出てきた場所の、その上。即ち塔屋の屋上だ。

 俺は扉の傍に鞄を置いて右面に掛けてある鉄の梯子を登る。カンカンと10回ほど音が鳴ると頂点に顔が出た。それと同時に何かが動いた。

 その正体は、横たわり寝返りを打つ少女だった。


「寝てる……のか?」


 肩より上だけを出し、両足を梯子に置いた状態で少女を見据える。いや、見蕩れていた。

 膝を折り曲げ、寝返りにより晒された顔は目が閉じられていて、スースーと息を立てている。寝ているで間違いないだろう。何度も寝返りを打っていたのか、制服が乱れてスカートと裾の間から艶やかな肌とヘソが覗いていた。ぬぐっ……ダメだ、見てはいけないッ……!

 目のやり場に困り、どうするべきかと悩んでいると、少女はおもむろに小さく唸り、人差し指で目を擦りながら起き上がった。何この可愛い生き物。

 ショートヘア寄りの純黒の髪がふわりと風に靡く。


「んぅ……」


 上体を起こしてもう一度唸ると、少女は顔をこちらに向ける。当然俺も彼女をまっすぐ見ているわけで、必然的に目が合った。

 ドクンと、心臓が一拍大きく脈動した。


「……転校生」


 やがて小さく消えるような声で呟かれたその3文字は、緊張するさなかでもはっきりと聴こえた。


「えっ? ああ、うん。そうだけど」


 どこかで会っただろうか? いや、全くもって記憶にない。まだクラスメイトさえ曖昧なのに他の人を覚える余裕なんてない。……まぁ、全員覚えるつもりはなかったりするのだが。

 暫しの間、なんとも言えぬ沈黙という名の微妙な空気が流れる。

 こういう時って、どうすればいいの?

 ふと、少女が四つん這いで梯子の方、俺の顔のすぐ前まで近づいてきた。

 ち、近い近い……近いよ?

 完全に固まっていると、少女は口を小さく開き、


「降りたい」


 一言だけ呟くように告げる。


「ああっ、ごめん」


 瞬時に意図を察して梯子を急いで降りる。

 着地して梯子の下を避けると、頭上からカンカンと梯子を降りる音が聴こえた。なんとなしに顔を上げて少女の姿を目に映す。

 ちょうど、梯子を降りる少女のスカートが風でヒラリと揺らめく。


「うっ……」


 咄嗟に片手で目を覆って視線を下に逸らす。


(無防備だなぁ……)


 ギリギリその下が見えなかったもは幸いと言っていいのだろうか。いや、よかったとしておこう。


「……どうかした?」


 顔を上げると少女は既に降りていて、視線が少し低い位置にあった。立ち姿を見ると、やはり女の子と言うべきか全体的に華奢な体躯だ。よく見なくても整った容姿をしていて、美少女と形容しても何ら違和感がない。少なくとも、覚えている限りでこれまで転校先で見てきた女子生徒の誰より可愛いと言えるだろう。


 目を合わせる。じっと俺を見つめる感情の無い少女の目。

 ジワリと首筋に汗が滲むのを感じた。


「い、いや。何でもない」

「そう」


 俺が答えると、少女は何事も無かったように屋上を去っていった。

 バタンと、扉の閉まる音が止むと、正体不明の緊張感から解放された脱力から、尻餅をつく形で腰から崩れ落ちた。


(なんというか、変わった雰囲気の子だったな……)


 今まで会ったことのない、不思議な子だ。

 そして俺はひとつ、思い出した。


「名前、訊くの忘れた」


 結局、あの少女が何者かさえわからないまま(この学校の生徒であることは間違いないだろうけど)新たな高校生活1日目が終わった。


 静寂の空間にビュウと強く風が吹いた。どこから飛んできたのか落ち葉が舞ってフェンスに引っかかり、やがてすり抜けてヒラヒラと揺れ姿を消した。

主人公は大分重度な転勤族ですが、筆者は転勤族でもなければ転校なんてしたことありません。引っ越しはあります。

あと、筆者にはちゃんと友達います。「それなりの関係」じゃなくて「友達」います。


少しでも面白いと思っていただければ、ブックマーク登録宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ