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偶然の旅人  作者: 池田瑛
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2001年4月某日 1

2001年。私は高校3年生でした。東京都内のミッション教系の女子校に通っていて、私はその高校の雰囲気が大嫌いだった。私がたんになじめていなかっただけだと思うけれど。


 2001年の入学式前だったと思う。授業はまだ始まってなかった。ただ、春休みの講習というのがあって、授業があった。何気に進学校で、みんな勉強をしていた。

 私は不真面目で、少し計算高かったと思う。春休みの講習というのは、ほぼ100%の出席率で当たり前に行くものなのだけど、出欠を取らない。あくまで自主的な講習なのだ。授業は平気で進めるけれど。だから、欠席しても親へ連絡されることはない。


 だから私は講習はよくさぼった。学校に行くフリして、映画館に行った。今から考えると、悪いことなのだろうけど、当時の映画館は指定席などなく、一度入って、そのまま座っていれば、次の映画が始まった。同じ映画を二回見ることになることもあるけれど、それも悪く無かった。時間を持てあましていたから。


 そうだ、思い出した。2001年の春に私が学校の講習をさぼって観た映画は、『偶然の恋人』という映画だ。グウィネス・パルトローが出演している。

 そうだ。私は、『大いなる遺産』でエステラを演じるパルトローを観てから、彼女に憧れていたのだ。『恋におちたシェイクスピア』とか。私が髪を長く伸ばそうと思ったきっかけだった。


 架空の人物である「私」に、描写を追加しよう。1998年に『大いなる遺産』を観てから、私は髪を伸ばし始めた。2001年時点でも髪は長かった。ショートにしたのは社会人になってからだ。当たり前だけど、髪を染めたりはしていない。


 春休みの講習をサボって映画を毎日観るわけには行かない。春休み、毎日映画を観るには私のお小遣いが足りなかった。1ヶ月八千円だった。

 バイトは校則で禁止されていて、例外は新聞配達のバイトだったような気がする。だけど、私の知る限り誰もバイトをしていなかった。私もバイトをしていなかった。


 春休みの講習に行きたくないし、映画館に行こうにもお金がない。学校の図書館は流石に不味いし、家の近くの図書館はもっと不味い。ゲームセンターなどに行ったら、補導されると当時の私は信じていた。


 そうだ、桜を観に行こう。私は、山手線に乗って上野公園に行った。

 どうして桜を観に行こうと思ったのか、覚えていない。ソメイヨシノが咲いているのを町中で見かけたからかもしれない。


 たぶん、2001年の花見の時期の上野公園の光景は、2017年の今でも大きくは変わっていないのではないだろうか。


 一言で表現すれば、サラリーマンたちが昼からお酒を飲んでいる、ということであろう。きっと会社の行事なのだろう。

 私が上野公園に到着した時間は、九時くらいで、桜の樹の下にビニールシートを貼っているスーツ姿の人が沢山いた。場所取り、という奴であろう。ちなみに、私も上野公園ではないが、新入社員の時に同じ事をやった。

 桜の下を歩くには、下に敷かれたビニールシートが邪魔だった。ビニールテープで囲み始めるスーツのおじさんなどもいて、桜の下は一種の迷路となっていた。


 私はとりあえず、不忍池の周りを歩いた。たぶん、二週した。相当私は暇だったのだろう。


 そして、ありがちな話なのだが、私の視界に、絵を描いている人が飛び込んできた。キャンバスをイーゼルに立てて、椅子に座って、前方に広がる満開の桜を描いているようだった。


 たぶん、私は桜を観るのに飽きていたのだと思う。不忍池を二週して、飽きるほど観たし、そして、桜の美しさに単純に感動するには、いささか複雑な年齢だった。

 

 キャンバスに描くほどの光景。どれほど美しいのか。当時の私も今の私もあまり変わらない性格、好奇心旺盛という性格の(さが)なのだろうが、その絵を覗きに行った。


 そしてがっかりした。まだ、スケッチを始めたというような段階で、全然絵は描かれていなかった。まぁ、不忍池の一週目の時にいなかった人だし、私が二週目をしている時にやってきて、絵を描き始めたのだろう。

 ただ、彼の動く手は早かった。後ろで私は眺めていた。彼が観ている景色は、私が観ても、大して美しい光景とは思えなかった。ありきたりな桜並木だった。

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