鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます
『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
とある世界の大きな町、ノナテージの裏路地で鍛冶屋として働くライ。
今までは、気分次第で仕事をほったらかしにして寝ていられたのに!
※この作品は本編である『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』の「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」の後の物語です。そこまで読んでいないと理解できない部分があるので、先に本編の方をお読み下さい。
古びた灯りに照らされながら、俺は少し傾いたテーブルに肘をつき、頭を抱えてため息をつく。目線を移した先は、今日のうちに修繕を頼まれた武器や防具、そして新しく作るものの注文書の山。
「はあ……いくらなんでも多過ぎだろ……」
この町で鍛冶屋を始めてから、こんな量の仕事が舞い込んできたのは初めてのことだった。普段なら、1日に1件有るか無いかという具合なのに。
これも全て、昨日の夜の出来事の影響に違いない。魔王軍の騎士団とやらが町を攻撃してきたのだが、あのカズヤという少年に頼まれて作った……えーるがん? とかいう武器に娘のレイが電気を流したら、弾が物凄い速度で飛んでいって敵を何体も仕留めたのだった。
戦いが終わった後、それを見ていた冒険者達が一斉に俺の店に駆け込んできたのだ。折角の客を追い返す訳にもいかず、全部受けてしまった。
この金属の山をどうやって片づけるか考えていると、ドアに取り付けたベルがチリンと鳴った。客が増えたら大変だから、外に「本日の営業は終了しました」という看板を出しておいたはずだが……。
「まだ閉める時間じゃないでしょ? これ、頼みたいんだけど」
目の前に立っていたのは、青い縞模様の変わった服が特徴の少女だった。いつも通り、白と黒の大人っぽい傘を左手に持って。
「なんだ、エリーかよ。その傘の修理か何かか?」
「なんだとは失礼ね。これでも数少ない常連客の1人なのよ?」
初対面の時に少し話しただけなのに、その後ずっとタメ口をきき、人前では俺のことを「おっさん」呼ばわりするようなヤツだ。鍛冶屋という職業か体格の問題なのか、多くの人から「怖い」という印象を持たれてしまっている俺は、怯えたりもせずにむしろ煽ってきたりするコイツの度胸だけは認めている。
「棒の部分に使ってる金属と結晶を、さらに良いものに変えて欲しいの」
「お、昨日賞金が入ったからって奮発か?」
傘をテーブルの上に乗せ、彼女は「まあね」と答えた。
そう、騎士団長にトドメを刺したのは紛れもなくエリーだ。しかも、俺が作った装備を通して放たれた魔法によるものなのは、鍛冶屋としては嬉しい限りである。
「あれ? その大量の武器は……」
「ああ、えーるがんの宣伝効果ってやつだな」
「レールガンね」
おっと、惜しかったようだ。れーるがん、れーるがん、れーるがん……よし、覚えたぞ。鍛冶屋たるもの、武器の名前を間違えてたまるか。
受け取った傘の布部分を丁寧に外し、骨などのパーツを分解していく。乱雑そうに見られがちな俺だが、修繕の技術と細かい作業には自信がある。自慢になってしまうが、縫い針の穴に糸を通すのは百発百中だ。
「今までは仕事サボって寝ている余裕もあったみたいだけど、そんな時間も無くなりそうね」
酷い言われようだが、本当のことである。何というか、仕事へのモチベーションが高い時でないと、良いものを作り上げられない、そんな気がするのだ。やる気が出ないときはどんなに半端でも作業を止めて休憩をする。それが俺のやり方だ。
しかしこの量では、そんな風にやっていたら何か月も掛かってしまうに違いない。睡眠時間も削って、できるだけ1つ1つを速く片付けなければ……。
悩む気持ちが表情に出てしまっていたのか、エリーは解体中の傘から俺に目を移し、こう言った。
「もしかして、『急いで仕事を終わらせよう』とか思ってるの?」
これを聞いた瞬間、ギクッとしたのをまたも見抜かれたのか、彼女は話を続ける。本当、この子の鋭さには感心する。
「私があなたにこの傘を作って貰ったのも、そのやり方が気に入ったからなのよ。他の常連さんも多分そうじゃないかしら」
「俺の仕事の仕方が……気に入った?」
そんな、どうして……。仕事を放置して寝てたり、気分で営業終了の看板をだして遊んでいたりする……俺のやり方が?
「だってそれって、『どんな時でも最高の状態で作ってくれる』ってことでしょう? ちょっと時間が掛かったとしても、良いものが出来れば満足して貰えるんじゃないかな」
それに「明日受け取りにくる」と付け足して、彼女は出ていってしまった。
どんな時でも最高の状態で作ってくれる……か。
何だか、急にやる気が出てきたな。今日は飽きるまで仕事するか!