春風
今回が初投稿です。自分のできる限り、誤字脱字を減らしましたが、間違ってるところがありましたら、アドバイスお願いします。
また、技術的指導や内容に対する質問もよろしくお願いします。
春風
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・はい、分かりました。」
すっと手からスマホが落ちた。豪雨に当てられながら、僕はずっと真下に写る自分を見下ろした…。
春子が死んだ。彼女は僕の人生で1番大切な人だった…
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僕、桜木春馬と彼女、広末春子が出会ったのは、僕が大学の2回生、春子が新入生の時だった。僕らは2人とも映画鑑賞サークルに所属していた。今まで1度も話したことがなかったが、サークルの飲み会で
「え?マイケル・ウィリアムス知ってるの!?」
「はいっ!大好き何です!彼の作る映画は、ミステリーのはずなのに、どこか面白おかしくてっ」
「分かる分かる、俺新作持ってるから、明日サークルに持ってくるよ」
こんな感じで意気投合し、2人でよく会うようになった。そんな2人が互いに惹かれ合わないことはなく、付き合うことになった。そのまま特に何かあるわけもなく、僕らは大学を卒業し、僕はカメラマン、春子はアパレル社員になった。忙しくても、どこか陽気で、静かではあったが、その静けさもまた、幸せの一部だった。
僕が働き始めてから3年、ついにこの時が来た。予てから、彼女の指のサイズはバッチリ確認済みだし、夜景の綺麗な高級レストランも予約済み、身だしなみにもそれなりに入念にやった。春子はいつもどおり、それなりに大人っぽい服装と、太陽の様に眩しい笑顔で「待った?」と、僕を見上げてくる。
その笑顔に胸の鼓動が早くなるのを感じながら「いや、全然」と、そっと彼女の手を取り、既にリサーチ済みのデートプランを実行に移した。帰り道に、始めてデートした公園のベンチで、僕は彼女に小さな箱を開けて見せた。
「っ……。はいっ。」
星の綺麗な夜だった。
2人お揃いのマグカップ。その片方を持つ、彼女の左手の薬指に光輝くダイアの指輪が嵌められていた。
「結婚式はどうしたい?」と言う僕の疑問に、「ドレスが着たい!」と彼女は即答してきた。
それからは目まぐるしく忙しかった。式の予定、練習に、式用の指輪の購入、招待客の抜粋など、あっという間に月日は過ぎていき、結婚式まで後5日と差し迫った時だった。
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急な豪雨に悩まされながら、コンビニで傘を買って、家に帰るときだった。
不意にスマホが鳴った。発信者はお義母さんだった。数秒のコールの後、僕が電話に出たとき、お義母さんは初めて聞く様な重苦しい声で言った「落ち着いて聞いてね。あのね、・・・・・・・・。」
内容をまとめるとこうだ。春子が交通事故にあい、死んだそうだ。加害者は泥酔運転で、春子は即死だったらしい。御通夜は明日、葬式は明後日だ。
それを聞いて僕は、加害者への怒りよりも、春子を失った悲しみで、茫然と立ち尽くすしかなかった。あと少しで幸せになる矢先、そんな事件が僕を襲った。
葬式に参列した時、春子の顔は事故にあったとは思えない程綺麗だった。もう頬を伝う熱いものなんて、出ないと思ってたのに…。
葬式に参列したが、火葬には参列しなかった。2人の生涯を共に費やそうと誓った彼女は、僕を置いてあっさりと行ってしまった…。
もう何も見えない。もう分からない。何で、僕はまだ生きてるんだろう。そんな事を考えいると、あれから1週間が過ぎていた。
お義母さんや母さんが様子を見にきてくれたが、いくら作り笑いを浮かべても、体を見れば一目瞭然だった様で、凄く心配された。
何とかそれを振りほどいては、また茫然と過ごす日々。世界から色が消えて、白と黒の世界になった様だった。
ふと、春子との思い出が蘇った。
「人間って凄く脆いよね」春子が言った。「何言ってんだよ。【人間はあらゆる逆境にも乗り越え、強くなる強さを持っている。】ってお前の好きなマイケル・ウィリアムスが言ってたじゃないか」と、僕が応えた。
「じゃあ、春馬は私が死んだとしたら、その悲しみを乗り越えられるの?」
「当たり前さ、全然乗り越えれるわ〜」
あの時は、そんな余裕な事を抜かしていたが、現実はそんな僕とは真反対だった。
「春子、やっぱり人間は脆かったよ。」テーブルの上に置いてある、2つのマグカップに、僕はぼそりと呟いた。
そんな時、ふとスマホが鳴った。
To 桜木春馬
From 広末春子
○○大学のサークルの部屋で待ってる。
意味が分からなかった。だって彼女はもうこの世にいない。「なんて酷い嫌がらせだ」とも思ったが、結局、僕は行ってみることにした。
よくよく考えれば、アドレスは間違いなく彼女の物だ。ならば彼女の親族辺りしか考えられない。でも、なぜ僕にこんなことを?
その疑問を晴らすためにも、指定された場所に向かった。
着いたのは、僕たちが初めて出会った、大学のサークルの部屋だ。まだみんな授業中のはずだから、誰もいない。
凛と静まった部屋の中、またスマホが鳴った。
To 桜木春馬
From 広末春子
私がよくいた席にいってみよ。
支持されたように、席に行くと、机に『下を見よ』と書いてある紙があり、僕の真下には、『・・・市○○番○○号』と書かれた紙が貼ってあった。恐らく、次はこの場所に行けと言うことだろう。
支持された場所へ行ってみると、そこは、初めてのデートで訪れた洋食店だった。ふと、懐かしい思い出が蘇る。
この時、僕は初めてのデートに緊張し、道を間違えたり、レストランを予約し忘れたり、おまけに彼女の服までよごしてしまったのだ。春子は「もう、サイテー。新しい服買ってよね。」とかなり怒っていたので、申し訳なさのあまり、新しい服を買おうとする僕を「嘘嘘。冗談だから。全然怒ってないから。」と、彼女は笑ってゆるしてくれ、「その代わり上着貸して」と頰を少し赤く染めて俯き気味に言ってきた。
そして、服の代わりに少し高めのこのレストランに来たのだった。
店の前のメニュー表には、今日のオススメランチが書いてある。そんなことを思っていると、スマホが急に鳴った。
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From 広末春子
メニュー表横の植木鉢の葉の裏をみよ。
なんでそんな細かいところなんか、と悪態をつきつつ、鉢の土が溢れないように鉢を傾けて、葉の裏を見た。そこには、『次がどこかは、もう分かるでしょ。自分で考えてみよ。』と書いてあった。
そういえば、春子はこんなことが好きだったな。好きな映画もミステリー系が多かったし。尊敬する人物は、言わずもがなミステリー映画監督のマイケル・ウィリアムスだ。
今まで、初めて会った場所、初めてデートした時の思い出の場所ときた。「次、次か。」
しばらくして、僕は歩き出した。
僕がある場所に着いた時、辺りは夕日が沈んで、星たちが輝き始めていた。そう言えば、彼女にプロポーズした時も、こんな感じだったな。
To 桜木春馬
From 広末春子
よくここが分かったね。正解。私のこと、少しは思い出してくれたかな?
僕が来たのは、彼女にプロポーズした公園だ。このメールを読んだ時、遂に溜めてたものが全て出てきた。僕は叫んだ。
「少しは思い出してくれたかな?そんなわけあるかっ!!!もう1週間以上お前のことで頭がいっぱいだよ!!!!てか、お前誰なんだよ!!!こんなメール送ってきやがって!意味分かんねーんだよっ!!!!」
そんな声に反応して、スマホが鳴った。
To 桜木春馬
From 広末春子
ベンチを見よ。
「うるさいっ!!!春子じゃないのにっ!何で僕にそんなに指図してくるんだっ!!!」
To 桜木春馬
From 広末春子
『いいから』
この文字の打ち方には覚えがあった。春子が僕に頼み事がある時、よくこの『』の中に文字を入れて、送ってくるのだ。
まだ多少の苛つきが残っていたが、そっとベンチの方を見た。
「えっ、どうして、君は…だって…事故で……。」
そこには、死んだはずの春子の姿があった。白いワンピースで今はまだ、春先でかなり肌寒いと言うのに、寒そうなそぶり1つしない。
僕の声は途中で途切れてしまった。言葉を最後まで告げるより、彼女を抱きしめるのを優先したからだ。彼女は、その真っ白な冷たい手で、僕の体を抱きしめ返してくれた。
現実では少しの間だったかもしれないが、僕はその時を永遠の様に感じていた。しかし、その時間はすぐに終わりを告げた。春子が僕から離れたからだ。
「ごめんね。言いたい事があったから、今こうしてるんだけど、もう、時間が無いんだ。
最後まで私を思ってくれてありがとう。そして、あなたとこれからを一緒に生きて歩んで行けなくて、ごめんなさい。
でも、私は遠くからでも、あなたのそばにいるから、………………生きて」
そう言って彼女は手を差し出してきた。僕は、涙でぼやける視界を気にせず、彼女の手を取り、
「うん。君の分も幸せに生きるよ。」
と呟いた。
春子は、相変わらずの太陽の様な笑顔で笑った。彼女の手から体へと、どんどん夜空に呑み込まれる様に、色が抜けていく。
まるで、これが本当のお別れだと告げる様に…
うっすらと残った彼女は、「大好きっ!」とだけ元気に伝え、そっと夜空の中に消えて言った。虚空を掴む僕の手の中には、彼女と一緒に選んだ、結婚式用の指輪があった。
To 桜木春馬
From 広末春子
『そっちの方が高くて無くしたら嫌だから、持ってて』
実に彼女らしい頼み事だと思った。いつのまにか、僕の顔から、笑みが溢れていた。
ふっと暖かい風が吹いた気がした。
「もうすぐ桜が咲き始めるのかな」
星の綺麗な夜だった。
「行ってきます。」僕は、1人になってしまった家を出る。2人の趣味が詰まった本棚の一画に2つのマグカップとダイアの指輪が置いてある。
もう僕が彼女を悲しむ事はない。同時に、彼女の存在も一生忘れる事はない。だって、暖かい春風が、背中を押してくれるから。
1週間に1作くらいだせたらいいなと思います。
基本は短編ばかりで行きたいと思います。