自己紹介
工場から離れ、僕達は舗装された道なりを歩いていた。
光太郎はリューさんに肩を貸してもらいながらも、なんとかヒョコヒョコと歩いていた。
これまでガタガタの、道とはいえない森の間を走っていたからか、この舗装された道が凄く足に優しい。
日本の道路は改めて凄いと思ったよ。
工場の中が全て鉄のようなものでできていたことから、他の所も鉄で作られたようなガッチリした作りになっていると思っていたけど、工場から少し離れるとそんな雰囲気はなくなっていた。
なんていうか……一言で表すとのどか? な雰囲気だった。
ピクニックでもできるかのような草原が周りには広がっていた。
「改めて自己紹介するよ。僕の名前はリュー。この先のパイプ町に住んでるんだ。君達は?」
光太郎を支えながらリューさんが聞いてきた。
「僕は篠崎飛鳥って言います」
「俺は片桐光太郎。よろしくなリューさん」
「飛鳥君に光太郎君か、よろしく頼む。それで、君達はなんであんな所にいたんだ? あの工場は立ち入り禁止の場所なんだが」
「それがですね…………」
僕はこれまでの経緯を話した。
気付いたら別世界にいたこと。
仮面の男に追われ、扉をくぐった先がこの世界だったこと。
リューさんは何も言わずに僕の話を最後まで聞いていた。
「以上が僕達があそこにいた理由なんです」
「別世界からやって来た……場所を移動する魔法もあるが、異世界に転移するなんて魔法は聞いたことがないな……。それに、君達が仮面の男に追われてきたという世界も聞いたことはない。本当だとしたら凄いことだな」
「凄かねーぜ。なんでこんな何回も死にそうな目にあわなくちゃならねーんだよ」
「君達が元いた世界は平和な所のようだね」
「そりゃもう。命の危険どころか、怪我することもあまりないですよ」
怪我しないのは僕が外で運動しないからなんだけどね。
「ちなみになんですけど、工場が立ち入り禁止の場所なんですよね? リューさんは何であそこにいたんですか?」
「ちょっとした偵察……かな。さぁ、そんな話をしている間にほら、僕の住んでいる町が見えてきたよ」
偵察ってなんだろう……。
リューさんが言った通り、前方に町が見えてきた。
少し奇妙に見えたのは、建物が全て鉄でできているようだった。
それこそ僕らの世界のような高層ビルなんてものはないけど、建物が全て鉄でできている景色は異様であった。
「パイプ町へようこそ!」
僕らは鉄のアーチをくぐって中に入っていった。
町の中を歩き始めてすぐ、僕達は不思議なことに気が付いた。
「なんか……人がいなくね?」
---------人が一人もいない。
いわゆる大通りと呼べるような所を歩いていると思うのだけど、誰一人として見かけないのだ。
それどころか物音一つしない。
「あの……なんでこんなに静かなんですか?」
「みんな寝てんのか?」
リューさんの顔つきが変わった。
光太郎があまりにつまらないボケを言ったから怒っちゃったのかな。
「この町にも前まで人はちゃんといたよ。ところが、君達の友達が走って言った方向には、この町を管理している国の城があるんだ。そこにいる現国王が、政策の一環として仕事のほとんどをロボットにやらせることにしたんだ。さっき飛鳥を襲ってたやつがいただろ? あれのことだな」
あのターミネーターみたいなやつのことだよね。
魔法が使える世界だっていうのに、あんなロボットが作れるなんて、もしかしたら僕らの世界よりも文明が進んでるんじゃないの?
魔法=中世のイメージが壊れちゃうなぁ。
「そのせいで大勢の人が職を辞されることになっていったんだ。元々僕らは魔法を使って生活していたわけなんだけど、今の国王はどういう意図があるのか、魔法を使わせないような生活を僕らに強いてきた。その結果、国王に対して不満を抱えていた人達が反乱を起こした」
「革命的なやつか……どこの世界でもやってることは同じだな」
「それで革命は……」
「見ての通り、結果は失敗だね。国王はいつの間にか作り上げていた大量のロボットで反乱を起こした人達を皆殺し。それを経て、町から逃げ出す人、さらに反逆者として殺される人、ロボットを作る工場を動かす魔力の供給源として奴隷とされている人。こうして、現在このパイプ町には僕と妹の2人しか住んでいない」
…………話がリアリティなさすぎて全然実感が湧かない。
結局の所、この世界でもあっさりと人が死んじゃう危ない世界だっていうのは分かった。
「ひでぇ話だな! その国王ってやつ許されねぇよ! 国王ってのはみんなのリーダーだろ? みんなのために動かなきゃならねーはずだぜ」
光太郎がそれ言っちゃうんだ……。
「妹さんと2人ってことは……お父さんやお母さんは……?」
「母は妹を産んですぐに亡くなってしまってね。父はある日をおいて行方不明になってしまったんだ」
「不躾な質問ですいません……」
「いやいいんだ。それに今は僕ら2人で力強く生きているからね」
こんな世界に来て、僕達は一体何を求められているんだ……?
仮面の男が言っていた【グローリーワールド】っていうのはこの世界も含めた総称なんだろうか。
それよりちょっと待って。
今のリューさんの話が本当なら…………城があるほうに走っていった周が危ないんじゃないの!?
「大変だ! 今すぐ周を助けに行かないと!」
僕が引き返そうとするのをリューさんが止めた。
「無理だ。今、君が行っても間に合わない」
「でも……!」
「僕もどうにかしてあげたいけど、あの城に行くのに工場を越える必要がある。あそこには大量のロボットがいる。いくら僕でもロボットを一度に複数体相手にするのは厳しいんだ。例え友達が捕まったとしてもすぐに殺されるわけじゃない。しばらくは奴隷として捕らえられるはずだ」
「………………」
「光太郎君だって怪我しているんだ。一度、僕の家で休んだほうがいい」
僕はリューさんの言う通り、引き返すのをやめた。
僕には周を助けに行く力を持ってない。
またしても、ハルを犠牲にした時と同じ状況だ。
何もできない自分に腹が立つ。
「ここが僕の家だ」
パイプ町入り口から歩いて10分ほどで、リューさんの家に到着した。