3つの鍵
「なんつーかよ、さすがに気分良くないよな。悪いことしたっつーか…………」
走りながら光太郎が反省の色を見せた。
なんと光太郎にも人の気持ちを考えることができたようだ。
「だけどこれはチャンスと思うべきだ。村に仮面の男が来ているということは……」
「塔には誰もいないってことか!」
「その可能性は高い。もしかしたら化け物を置いている可能性もあるがな」
「うう…………でも村の人達を犠牲にしてそんな……」
「村の人達も何も、この世界で何が起ころうが、そもそも俺達には関係のないことだ」
「まぁあれだ。今の俺達に他人を構っていられるような余裕なんかないんだよ」
光太郎の言う通り、僕には誰かを助けられるような力もなく、それどころか自分を守ることすらままならないんだ。
なんて歯痒いんだろう……。
漫画のように異世界にいるというのに、出来ることは周りに流されることと逃げ回ること。
現実と何も変わらない。
「村の人達には悪いが…………俺達は塔を目指す」
「絶対何かあるはずだもんな!」
僕らは少し迂回するようにして塔を目指した。
森や塔が動く前に走りながら。
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塔に着くと、そこには仮面の男の姿も化け物の姿もなかった。
入り口は誰かを待つかのように開け広げられている。
「よっしゃ! 早く入ろうぜ!」
「何かいるかもしれないし、気をつけよう」
「俺が先に行くからよ、お前らは少し遅れて来いよ」
「大丈夫?」
「余裕だっての!」
光太郎が1人で塔へと近づく。
何か起きるかと思ったけど、特に何もなかった。
光太郎がこちらに向けて手を振る。
「行こう、周」
僕と周は光太郎のもとへと走り、ついに塔の入り口へとたどり着いた。
下から見上げると、かなり高く見える。
マンションで言うと20階ぐらいありそうだ。
「よし、中に入ろうぜ」
中に入った僕らは固まった。
外から見ても横幅はあまりなかったが、塔の中にあったのは上へと続く螺旋階段のみだった。
ざっと上を見ても部屋らしい部屋も見当たらない。
というよりも、部屋があるようなスペースはなかった。
塔の壁にくっつくようにして階段が続いていたのだから。
「これ……登るの?」
「……それしかないだろ」
「でももし……もし上に何もなかったら……」
「逃げ場がないから仮面の男に殺られるな」
「っ!」
命をかけた判断。
僕らは今試されている。
「一面森のこの世界で生きていくのは……ほぼ不可能だよな」
「……なら賭けるしかない」
「ここに希望があるかどうか…………ってことにだね」
僕らの意見は一致した。
長く続く階段に向けて歩み始める。
「走ってばっかりの後に、この階段。ほんっと休ませる気ねぇな」
「正直限界だけど……ゆっくりでいいから登ろう」
「…………」
どうやら僕以上に周が限界のようだ。
「周、大丈夫?」
「…………問題ない」
「そんならさっさと登ろうぜ」
「ちょっ光太郎……」
人の気持ちを考えることができるようになったかと思ったけど、光太郎は相変わらずだった。
階段をひたすら登り続けて数分。
だいたい半分くらいまで登ったのだろうか。所々空いている隙間から外を見るが、やはり一面森景色で他に目立ったものは見当たらなかった。
「やっと半分くらいか……上まではまだかかりそうだな」
「でもポジティブに考えればもう半分だよ。頑張ろう」
「そうだけどなぁ---------」
ドガァァァァン!!!!
突如として下から爆音が鳴った。
「貴様らぁぁぁ!! 逃しはせんぞぉぉぉ!!」
(仮面の男だ!)
仮面の男が入り口を破壊しつつ階段を登ってくるのが見えた。
その勢いたるや、登ってきた階段が次々と崩れ落ちていってしまっているほどだ。
「やべぇ来た!!」
「急ごう!」
僕達は登るスピードを切り替え、駆け上がった。
「貴様らはこの世界から出さん!!」
どんどんと階段が崩れていっているのが分かる。
周が心配になって見たが、周は誰よりも早く階段を駆け上っていた。
まるで僕らを置いていくかのようなスピードで。
「お前めっちゃ走れんじゃん!」
「命が懸かってるんだ。当たり前だ」
頂上までたどり着いた僕らが目にしたのは、壁に張り付いている一枚の扉だった。
他には何もない。
「こっから先に部屋があるなんてスペースないぞ! まさか外にでも繋がってんのか!?」
「そんなん絶望じゃん!」
「あるいは元の世界か、だ」
周の一言に僕と光太郎は顔を見合わせた。
そして光太郎は扉に飛びつき、ドアノブを回した。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!」
しかし、光太郎がいくら引いてもドアは開かなかった。
「何だ!? いくら引いても開かねぇぞ!」
「押すんだったりして」
「んなわきゃねぇだろ!」
「おい、横に鍵があるぞ」
周が指指した方向には、赤、黒、青の3種の鍵があった。
「どれがどれなんだ?」
「逃さんぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
気付くと仮面の男がすぐ近くまで駆け上ってきていた。
なんて早さなんだ!
「あいつが来たぞ! おい飛鳥、何でもいいから持ってこい!」
そう言われて、僕はとっさに黒の鍵を掴んだ。
「早くしろ!!」
「待ってよ!」
僕は鍵を差し込み、扉を開けた。
「よっしゃ空いた!」
「何だこれ…………これ入っても大丈夫なの!?」
扉の先は外ではなかったが、黒く渦巻いている何とも形容し難いものが広がっていた。
「いいから入れー!!」
僕達は扉の中へと飛び込んだ。
僕らが飛び込むと同時に、悔しそうな仮面の男の声と扉が閉まる音が聞こえた。
そして僕らは地面に揉みくちゃになって倒れていた。
入る前は地面なんか見えなかったけど、実際は別のどこかに繋がっていたようだ。
「た……助かったー!」
光太郎が息をつきながら言った。
しかし、周は辺りを見回し、怪訝な顔をした。
「助かったはいいが……ここ、元の世界じゃないぞ」
「え?」
僕と光太郎が辺りを見回す。
「何だここは!?」
そこは、全てが鉄で作られた世界のようで、とても僕達の元の世界とは思えない風景だった。
(そんな!? 僕のとった鍵は正解じゃなかったってこと!?)
僕達はさらに意気消沈とした…………。