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原住民

 僕は周りを見渡す。

 槍や弓といった物騒な物を向けているのは、一見して人に見えるが、尻尾や耳があることからハルと同じ獣人だと思われる。

 その獣人達が僕らに向けて刃物を向けているのだ。

 こんな事は人生初めてで、まともな思考ができない。


「厄介な奴らを連れてきてくれたな……」

「し……仕方ないだろ! あの化け物共に殺されそうだったんだから!」

「貴様に言ったのではない。ハル、お前に言ったのだ」


 村の首長っぽい人が先ほどの女の子、ハルに目をやる。


 厄介な奴って化け物のことじゃないの?


「私も連れてくるつもりなんかなかったわよ。ちゃんとあの男との契約通り、こいつらはあの塔まで案内したわ」

「じゃあなぜこいつらはここにいる」

「さぁね。あの男が仕留め損ねたんじゃない?」


 仕留め損ねた。

 ちょっと待ってよ。

 そんな話方だとまるで、僕らを始末するためにハルはあの塔まで案内してたってこと?

 別れ際、もう会うことはないって言っていたのは僕らがあそこで殺されると思っていたから?


「おいてめぇ! 最初から俺らを殺すつもりであの塔に案内したってのかよ!」

「あら、あなた達は最初からあそこに行きたがってたじゃない。ちゃんと案内したのに不服なの?」

「ったりめぇだろ! あんな奴がいるって知ってたんなら先に教えろよ!」

「黙れ! 低脳の生き物が!」


 周りの男が槍を光太郎に突きつけた。

 さすがに光太郎も刃物を向けられては押し黙るしかない。


「契約と言っていたな。察するに、あんたらはあの仮面の男と何かしらの契約を交わしているために、村の中には怪物が入ってこないようにしているのか」


 周が落ち着いたように考察する。


 なるほど。

 化け物達が村の中に入って来なかったのは、そういう理由があるからなんだ。

 契約内容はさしずめ、この世界に迷い込んだ人間の排除とか?


「そっちの少年はどうやら頭がキレるようだな。貴様の言う通り、あの男ととある契約をしているために、あの怪物共はこの村には入って来ない」

「なら俺たちをここで匿ってくれよ!」

「だが、その契約内容は『見知らぬ種族が現れた時は、そいつらを仮面の男の前に連れてくること』だ。つまり、お前達のような種族を指す」

「それって…………僕らをこのまま外に放り出すってこと?」


 僕の背筋が凍る。

 まだ外には仮面の男が放った化け物達が、今か今かとうろついている。

 今放り出されれば、間違いなく僕らは食い殺されるだろう。


「それでもいいが……ワシらも猟奇殺人鬼ではない。たとえ種族が違うと言っても貴様らはまだ子供。外の化け物に食わせでもしてみろ。寝覚めが悪くて敵わんわ。契約はあくまでも『連れて行くこと』で、殺すことではない。この村の反対側から早々に出て行け」

「首長! いいのですか!?」

「よい。こいつらを殺せなかったのは仮面の男の落ち度だ。ワシらには関係ない」

「まぁ……あなたがそう言うのであれば……」


 周りの男の人達が槍を下ろす。

 どうやら首長? の方のおかげで僕らの命だけは助かったようだ。

 結果的に僕らはこの人の気分によって命を救われたわけだ。

 こんな生死のギリギリを歩くのは、もうこれっきりにしたい。


「んだよ最初からそうやって……」

「すいません! 本当にありがとうございます!」


 光太郎の相手の事を全く考えない発言を、なんとかかき消した。

 周が鬱陶しそうに光太郎を見ている。


「さっさと行け。ハル、お前が連れて行きなさい」

「なんで私が……!」

「お前がこいつらを連れて来たんだろう。だったら最後まできちんとケジメをつけろ」

「………………はい」


 ハルは渋々といった様子で僕らの前に来る。

 光太郎は今にも噛みつきそうな目で彼女を見ていた。


「二度とこの村には来るな。次来た時は、容赦はせん」


 僕らは首長と呼ばれている人の言葉を尻目に、ハルの後をくっついて村の外へと向かった。

 村の中を横切る際、小さな子供の獣人達が、隠れながら物珍しそうに僕らの事を見ていた。

 姿形は違くとも、言葉を使っていることや僕らを見逃してくれる人情は、元の世界と何ら遜色ないと思う。


 何か…………何か僕らの行動パターンに違うものがあったなら、彼らと協力できた可能性もあったんじゃないだろうか。

 最初にハルと出会った時…………あの時僕らは少なからず敵対心を持っていた。

 ハルが話を聞いてくれなかったというのもあったかもしれないが、それでも僕らの行動はとても短絡的で、深く考えることなく感情で動いてしまっていた。

 例えば僕があの時、2人がハルをボコると言っていた時に勇気を出して止めていたなら、別の結末を迎えていたのかもしれない。

 あくまで可能性の話で、僕の願望にも近い考えだけど、このままだと僕らは元の世界に帰ることができない。

 そんな風に思ったんだ。


【グローリーワールド】…………あの仮面の男が言っていたこの世界の名称。

 国や場所の名称じゃなくて、この世界の名称。

 一体どういう意味なんだろう…………。


「ここが反対側の入り口よ。ここから出ていって」


 ハルはここまで一言も話さなかった。

 僕らもまた、一言も話さなかった。

 お互いに話すことなんてなかった。


「ごめん。ありがとう」

「お礼なんていらない。私達に迷惑はかけないで」

「そうだぜ飛鳥。こいつは俺達を見殺しにしようとしてたんだ」

「それでも化け物から助かったじゃないか」

「こいつが助けてくれたわけじゃねぇだろ」

「そうだけどさ…………」


 光太郎に強く言われ、僕は萎縮してしまった。

 またしても自分の言いたい事は言えずに圧殺される。

 どうしたらいいか、頭の中で考えていてもそれを実行することはできない。

 僕は何一つ変わってはいなかった。


「行こう。今後について考える必要がある」

「ああ」


 周と光太郎が謝辞を述べるわけでもなく、村から出ようとした。


 ドン!!!!!!!


 突如後方から大きな音と人々の叫び声が聞こえてきた。


「なっ……なんだ!?」

「分かんない……。でもあんまり良い雰囲気でもない気がする」


 こちらの入り口にいた武器を持った人達が、反対側の入り口へと走り出している。

 ハルも怪訝な顔をしながら、さっきまで歩いてきていた方を見る。


 叫び声。

 怒号。

 獣の吠える声。


 様々な聞いていて不安になる音が聞こえて来る中、1人の男が言った言葉が僕らを戦慄させた。


「仮面の男だ!! 仮面の男が化け物を連れて襲っているぞ!!」


 僕らは顔を見合わせた。

 仮面の男はどうやら僕らを逃したことを、村の人達が契約を破ったと思ったのだ。


「あの野郎やりたい放題かよ!」

「まさかそうまでして俺達を殺したいのか……?」


 周と光太郎が動揺する。

 しかし、1番動揺しているのはハルだ。

 ハルは顔面蒼白としている。


「あんた達が…………」

「なんだよ」

「あんた達が来たせいでこうなったのよ!」


 彼女は僕らに憎しみのこもった目を向けた。

 尾と耳が逆立っている。


「…………ごめん」

「なんなのよ! なんであそこで素直に死ななかったのよ! 私達に迷惑かけないでよ!」

「ふざけんな死ねるかよ! 俺達だってこんなわけわかんねぇ世界来て必死なんだよ!」

「死んじゃえよばかぁぁぁ!!」

「このやろ…………」

「行こう、光太郎! 僕らはここにいたらダメだ!」

「ああ、すぐに出るぞ」


 僕らは叫び声や怒号のする中立ち尽くすハルを置いて、走って村から出た。

 とても無責任で、まるでこの村の人達を犠牲にしているかのような立ち回り、恩を仇で返したんだ。

 僕の心は締め付けられる。

 僕達は一体何人犠牲にするのだろう。

 何人の人達が、あの村で殺されるのだろう。

 こちらへ来る途中に見た子供達、あの子達も殺されてしまうのだろうか。


 僕は…………考えるのをやめた。

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