仮面の男
塔に近づくと、その大きさがよく分かった。
だいたい10階建てのビルほどの高さで、円形状の形をしている。
横幅はそんなに無いため、本当に上に登るためだけに作られたものみたいだ。
「うぉー! でっけぇなぁ! 上に行きゃあ何かあるかもしれねぇな!」
「原始人でもあるまいし、こんなもので騒ぐなよ。ただ上に何かあるかもってのは同意見だ」
「とりあえず塔がまた動き出す前に登ろうよ!」
僕らが喜びに浸りつつも塔に近づくと、入り口の所に一人の男が立っていた。
その男は全身をマントで包んでおり、フードを深く被っているせいで顔が見えないため、まるでスター◯ォーズに出てくるジェ◯イの騎士みたいだった。
「何だあいつ」
「さぁ……? この世界の人間じゃない?」
「お前達が新しくこの世界に入り込んできた者か」
僕らが戸惑っていると、そのマントの男が恐ろしく低い声で僕達に聞いてきた。
「誰だよお前!」
光太郎が大声で聞く。
「黙れ! 私が質問しているのだ。黙って質問に答えろ!」
逆に大声で返されてしまった光太郎はシュンとしてしまった。
なので僕が代わりに前に出て答えた。
「知らないよ。僕達は気づいたらここにいたんだ」
「ほう…………。では別世界の人間で間違いないということだな。ククククク」
マントの男は不気味に、不敵に笑う。
怪しさマックスだけど、可能性としてもしかしたらこの人は、僕らのような迷い込んだ人を元の世界に返してくれる案内人のような人なんじゃないかな……?
だったらここは下に出て助けてもらえれば……。
「何か知ってんのかてめぇ!?」
ああ!
なんでそんな口の聞き方しちゃうの!
さっきビビっちゃって恥ずかしいのはわかるけど、もうちょっと言葉遣いをさぁ!
「ククク。この世界のことや、貴様らが何故この世界に飛ばされてきたのかなど、貴様らが知りたい事は何でも知っている」
まだ笑ってくれてる。
とりあえず機嫌損ねたわけじゃなかったからセーフ!
「この世界とは一体何だ」
周が聞いた。
「それを知ったところでどうするつもりだ?」
「なんだよそれぐらい教えろよ!」
「威勢がいいな。いいだろう。1つだけ、そちらの質問に答えてやろう。だが、こちらからも1つ見返りを求める。それでいいな?」
「ああ」
あれま。
本当にいい人かもしれない説が出てきた。
なんだかんだで質問に答えてくれるんじゃん。
光太郎の物を上から頼むスタイル結構いけるね!
「この世界がなんなのか教えろ!」
「おい、何勝手に決めてるんだ」
「ん? さっき周がこれを聞いてたろ? だから聞いてんじゃん」
「1つだけ答えてくれるなら、もっと確信をついた質問とかあるだろ。元の世界への帰り方とか------」
「答えてやろう」
周と光太郎があれこれ話している間に、こちらの質問は決まってしまったみたいだ。
周が光太郎を睨みつけるように見たが、光太郎は全く気にしていない様子だった。
「貴様らがいるこの世界は【グローリーワールド】と呼ばれている」
「【グローリーワールド】だと? 飛鳥、聞いたことあるか?」
「いや、全然ないよ」
僕が検討も付かないといったように首を振る。
「おい、【グローリーワールド】ってなんだよ!」
「残念だがそれは2つ目の質問に該当するなぁ」
顔が見えずとも、意地悪く笑っているのが容易に想像できる声で男が言った。
「ちっ……だから言ったんだ」
周が不満を漏らすのが聞こえた。
「さて、それではこちらの見返りを要求しよう。こちらの要求も1つのみ。貴様らの命だ」
「今、あいつ命って言った?」
「ああ、言った」
僕達は顔を見合わせた。
マントの男が片手を挙げると『ゴウッ!!』という突風とともに、地面から植物で作られたような怪物達がゾロゾロと現れ始めた。
その突風でマントの男のフードがとれ、素顔を露わにしたかと思ったが、男は顔に仮面をつけていた。
口元のみが見えるタイプの仮面を。
マントの男じゃなくて仮面の男だあいつは!
それに全然いい人じゃない!
ジェ◯イじゃなくてシ◯だ!
「おいおいおいおい、まじかよ!」
「殺せ」
マントの男もとい、仮面の男の一声で、怪物達が一斉に走り出した。
「やべぇよ! 戻れ戻れ!」
僕達も光太郎の一声で、もと来た道を走り出す。
「くそぉ!」
「うわぁぁぁ!」
僕達は無我夢中で走ったが、怪物達の足は速く、徐々に迫られてきていた。
「くっそ! さっき走ったばっかりだぞ!」
「このままだとまずいぞ、光太郎!」
「分かってらぁ!」
すると前方に先ほど僕らを案内してくれた女の子、ハルがいた。
「あ! おい! 助けてくれ!」
「なんでこっちに来るのよ……」
ハルは反転して走り出した。
彼女は再び軽い身のこなしで木に飛び乗ると、僕らを案内した時よりも速く木々を飛び移っていった。
「ちょっと待てよ!」
「さっきみたいに案内してくれるのかな?」
「だとしても速すぎる」
怪物達との距離は確実に近づいてきている。
僕達は木の根っこに躓かないようにしながらハルを追いかけた。
走ったばっかりでまたこのダッシュ。
僕達の体力は限界だった。
それでも何とか彼女の姿だけは見失わないように、僕らは必死で走った。
人間、命が懸かっている時はいつも以上に力が出るというけど、本当らしい。
ついに怪物達との距離が30mほどになった。
(やられる!)
そう思った矢先、前方に村があるのが見えた。
森に隠れるようにして存在する村。
「みんな、あの村に入れ!」
光太郎が叫んだ。
「村なら誰か助けてくれる人達がいるはずだ!」
僕らは微かな希望を持ち、村の中へと滑りこんだ。
「怪物は!?」
僕が振り返った。
見ると、怪物達はなぜか村の柵の外でうろついているだけで、中に入ってこようとはしなかった。
「やったー!」
僕達は喜びあった。
「喜ぶのはまだ早いらしい。どうやらここの人達も俺らの味方ってわけじゃないみたいだぜ」
周の一言で僕達は周りを見渡した。
そこには険しい顔を人達が、僕らに対して槍や弓を向けていた。
「厄介な物を連れてきてくれたな貴様ら……」
僕らの窮地はまだ脱していないようだった。