緋色と紅色
洞窟の中、光ある方へと歩いていくアレンはとても気分が良かった。
なぜなら村の誰も知らなさそうな洞窟を見つけたからである。
さらに歩いていくと光の正体がわかった。光は洞窟の奥ではなく洞窟の壁が原因であった。洞窟の壁には所々に魔鉱石が埋まっており、足元まで明るく、ここが洞窟の中だとは思えないほどに明るくなっていた。
自然の光あふれる洞窟はとても幻想的で綺麗であり、アレンは俄然洞窟探索にやる気を出した。
「もしだれもいなかったらきょうからここはぼくのひみつきちだ!」
そんなことを呟きながらアレンは歩を進めていった。
洞窟に入ってから10分ほどだろうか、ここまでまっすぐ歩いてきたアレンの目の前には扉があった。その扉から光が漏れていることがわかる。だが、扉から漏れる光は先ほどまでの魔鉱石のような自然の光ではなく赤く不気味な光である。
「ちぇ~、やっぱりだれかさきにいたのか~」
だが、アレンにとって問題なのはその光ではなかった。
少し残念に思えてきたがアレンは先に洞窟を見つけた人の顔が見たいと思った。
「こーんにーちはー!だれかいますかー!」
ノックよりも先に大きな声であいさつをするアレン、だが扉の奥からは誰の声も聞こえてこない。
誰もいないのだと思いアレンは扉を開けた。
「おじゃましまーす!」
そんな掛け声とともに扉の奥に入っていくアレン、そんなアレンの目に真っ先に飛び込んできたのは赤く不気味に光を放つ魔法陣であった。
その部屋はただの四角い形をした部屋で、中には装飾品や家具などは見られず、ただ部屋の真ん中にその不気味な光を放つ魔法陣があった。
だがアレンには魔法陣の意味など分かるわけもなかった。
アレンはこの魔法陣しかない部屋へと入っていき、部屋の真ん中にある魔法陣の前まで来た。
すると───
「これはこれは、こんにちは。小さい勇者君。」
「うぇっ!!?」
唐突にアレンの後ろから声がかけられる。
アレンはびっくりして声にならない声が出た。
そしてゆっくりと後ろへと振り返る。
そこには足元まである紺色のローブを着た整った顔立ちの少し耳の長い白い髪の青年が立っていた。
もしもこの青年が女の人の格好をしていれば女の人にしか見えないほどの整った中性的な顔立ちであった。
「かってにはいってごめんなさい。おにいさんはだれ?」
「勝手に入っても大丈夫だよ、それとおにいさんはナールサス、魔法使いだよ。君の名前はなんだい?」
「えー!おにいさんまほうつかいなの!?まほうつかいはすごいんだってそんちょーさんがいってたんだー!そんちょーさんはまほうつかいのひとはあたまがよくなきゃなれないっていってた!あっ、あとねぼくのなまえはアレン!」
先ほどまでの戸惑いはどこ吹く風、魔法使いという単語にテンションを最高潮まで上げたアレンは初対面のナールサスに怒涛の如く喋りまくった。
「そっかそっか、それでアレン君はどうしてここに来たんだい?」
ナールサスはアレンのマシンガントークを軽くスルーし、あっけにとられることなく聞いた。
「んとね、あそんでたらちょうちょがいて、おいかけたらここについたの!」
「そうかそうか、ここは人里から離れているし危ないから帰るんだ。おにいさんが連れていってあげるからね。」
「えー!まだあそんでいたい!」
「うーん……なら少しだけだよ。勝手にこの部屋から出たら駄目だからね?」
「うん!」
アレンは元気よく返事をしてから部屋の探索を始めた。
魔法陣の上に載ってみたり、四方の壁をぺたぺたと触ってみたりと子どもながらの好奇心を発揮した。
そんな中ナールサスはドアの前から一歩も動かずただただ魔法陣の奥の壁だけをじーっと見ているた。
遊び始めてから5分ほどたったころ、ナールサスはアレンに声をかけた。
「アレン君、そろそろ帰ろう。」
「えー、もうちょっとだけあそびたーい」
「駄目だアレン君、もう帰らなくては本当に危ないんだよ。」
「うーん、わかった。ねえ、おにいさん、またここにきてもいい?」
「うん、来てもいいけれど、たぶん次に来るのはかなり先のことになると思うよ。」
苦笑しながらナールサスはそう言った。
なぜ苦笑しているのかはアレンにはわからなかった。この時はまだ。
「さあ、行こうか」
ナールサスはアレンの手を握り洞窟の外へと歩き出した。
――洞窟の外に出たアレンに対しナールサスは少しだけ焦ったように話しかけた。
「アレン君、ここから先は一人で行くんだ。」
ナールサスがそう言うと、ナールサスの指をさした方向の木が根元からぐにゃりと曲がった、それも一本や二本だけでなくその方向にある木がすべて曲がったのだ。そうして森の中にまっすぐの不自然な道ができあがった。
「僕はここから離れることはできない。だからアレン君はこの道をまっすぐ行くんだよ?わかったね?」
アレンにそう優しく諭したナールサスは別れの挨拶もせずに踵を返して洞窟の中へと歩いて行った。
「じゃあね!おにいさん!」
アレンは少し寂しく思うもナールサスに言われたとおりに道をまっすぐに歩き出した。
――洞窟の奥にまで戻ってきたナールサスは魔法陣の奥へと進み壁に手を当てた。
すると壁に穴が開いた。その穴の先には今居た部屋とまったく同じ広さの部屋があり、その中央には黒い鎖に体中を巻き付けられた一体の大きな獣がいた。
伝承にはその獣は見るものによって姿かたちが変わると言われている。曰く、其れは毛の長い狐であった。曰く、其れは首が三つもある巨大な蛇であった。だがその獣には誰が見ても共通するものがあった、その獣の目は血よりも紅く、その獣の毛並みは炎のようで、太陽よりも赤いことである。
「……よりによってコイツに目を付けられるとはね、アレン君。」
誰ともなく呟くナールサス。
目の前にいるにもかかわらずその獣はナールサスを見てはいなかった。ただ、ナールサスの背後にある扉へと視線を向けていた。
「本当にギリギリだったんだよ、アレン君、君が壁を触ったときは思わず背筋がひやりとしたね。」
誰に聞かせるわけでもなくただそうつぶやくナールサス。
「でもね、アレン君。君に謝らないといけないことがある。」
バキンッ!!!!!
鎖の一つが弾け飛び、ナールサスの頬を一筋の汗が伝う。
「ごめん、アレン君。もうこいつを抑えていることが難しいみたいだ。こんなに興奮しているのを見るのは初めてだよ。紅い眼をした君はとても特別なんだ。ここに君が来なければあと200年はコイツを抑えられていたんだけどね。」
誰に聞かせるわけでもなくただ呟く。
言い訳をするように。
バキャンッ!!!!!
「コイツ、最初から本気で捕らえられていた訳じゃなかったようだね。」
怯えるように、静かに怒るように呟く。
バギンッ!!!!!
「でも、僕にも意地がある。ここを400年間守り、コイツを封印し続けてきたんだ。そうそう簡単にいかせはしないよ。」
ナールサスの声に焦りが透けて見える。
バキンッ!!!!!
残りの鎖はあと一本だけ。
「お前に紅眼はやらせはしないぞ、緋色の魔獣!!!!」
バギャンッ!!!!!
「オ˝オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォォォォッッッ!!!!!」
洞窟内に咆哮が響き渡った。
少年期は割と続ける予定です。