アレンという少年
アレンは窓から差し込む光と外から聞こえる鳥のさえずりに目を覚ました。
「んん…」
その小さい体をグッと伸ばすとベッドに手をかけ床に足をつける。
まだ眠そうな眼のままおぼつかない足取りでドアノブに手をかけ部屋から出る。
そのまま廊下を通りリビングに歩いていくといい匂いが漂ってきた。
「あら、アレン。もう起きたのね。早起きさんねぇ、もうすぐご飯ができるからパパを起こしてきてくれないかしら」
「うん、わかったぁ」
アレンはその眠そうな目をこすりながら、父親のいる寝室へと向かった。
――ここは竜王国リンドブルムの最西端に位置する村・ロッテンバーグ。
この村は訪れる人も少なく、とても静かで家が十数件ほどと小さい宿屋が建っているだけの小さな村である。
ロッテンバーグの近くにあるのは大きな森と小さな川だけで、良くも悪くも自然に囲まれたのどかなこの村で紅い眼をした黒髪の少年アレンは生まれた。
この村からさらに西に行くと隣の剣皇国・インペルとの国境となっている山脈があり、その山脈のふもとには大きな洞窟がある、その洞窟にはよく魔物や魔獣が出ることから竜王国の騎士団が演習のため遠征に来ることが稀にあり、その時は村をあげて騎士団をもてなすのが村のならわしだった。
この村で育ったアレンの遊び相手は、近所に住む年上の女の子のマリアと村の近くにある自然だけだった。
そんなアレンの日課は、朝起きてご飯を食べてから森に出かけ森の中で遊び、
森から帰ってくると今度はお昼を食べてからまた森に出かけるのが日課だった。
今日もまた朝ごはんを食べたアレンは森へと向かっていった。
「アレンー!あまり森の奥に入ってはいけませんからねー!」
「はーい!」
母親のミーネから注意される言葉を聞き流し、返事だけをして森の中に入っていく。
たまに同じ村に住むマリアにも遊んでもらう時があるが、マリアは12歳でアレンは7歳、自分よりも5歳も年上のマリアに遊んでもらうよりも自由に自然と遊ぶほうがアレンにとっては楽しかった。
「ふんふふ~ん~♪」
上機嫌に鼻歌を歌いながら森の中を歩くアレン。
たまに木の根っこに座って休憩しながら、また歩き出す。
「あっ!ちょうちょだ!」
ちょうちょを見つけたアレンはテンションが上がり、夢中になって走り出す。
そして走り出してから5分程経ち、ちょうちょを見失った頃にアレンは周りの異変に気が付いた。
昼間とはいえ太陽の光を遮るものが多い森は薄暗く、いつも自分の遊び場にしている見覚えのある景色などは見当たらない。
そこでようやくアレンは今まで来たことがないくらい深く森の中に入り込んでしまったことに気づいた。
「あれれ?ここどこだろう…」
少し不安になってきたアレンは自分の勘を頼りに森の中を歩いていく、すると今まで鬱蒼と続いて森の中で大きな一軒家ほどの広さに一切木の生えていない不思議な空間を見つけた、そこにはまるで岩をくりぬいて作ったかのような不自然な洞窟があった。
その洞窟は不気味なほど静かで木の生えていない空間の近くには動物の気配がまったくしなかった。
「んー、だれかのひみつきちかなー」
村の大人がもしもこの洞窟を見つけたのならば、10人中9人は入りたがらないだろう。
だが、アレンは7歳の子どもであった。
「こーんにーちはー!」
元気よくあいさつをしながら何も考えずに洞窟の中に入っていくアレン。
少し歩くと外の光が届かないくらい洞窟の中は暗くなっていった。
「なんかおくのほうがあかるいなぁ」
日の光が届かない洞窟が明るい場合、考えられる可能性は二つあった。
ひとつは自然に発生した魔鉱石の存在である。
魔鉱石とはその中に魔力をため込み暗い場所で発光する性質を持つ鉱石である。
もうひとつが人工的な光の可能性である。
「だれかいませんかー」
アレンが問いかける。
洞窟の奥では何者かが一人、赤く光る魔法陣の真ん中に立っていた。
「……紅目の少年……」
アレンは、どんどんと洞窟の奥へと入っていった。