とある薬師のVR①
主人公が変わります。
最初に私の瞳に映ったのは、ヨーロッパの雰囲気が漂う家々が並んでいる光景だった。
――――☆時計塔ホロロギウム。
次に時計塔。高さは5メートル程の他の家々と比べると低いものですが、石畳の広場の真ん中に建てられたそれは、かなり目立っていた。
私はゲームの世界へ降り立ったと改めて実感する。
本当は友達と一緒に遊びたかったこのゲームだったのだけど、肝心の一緒にやろうと言った友達が急遽プレイ出来なくなってしまったので、1人で遊ぶこととなってしまったけど……。
この景色を見て、私は決断した。友達には悪いがこのゲームを楽しんでやろうと。
「だって、この美しい光景を災害で失いたくないもんね」
とつい声に出してしまった決意は、周りにいた他のプレイヤーに聞かれ笑われてしまった。
かぁーっと顔が赤くなるのを感じた私は、ひとまずこの場所から退散する。撤退、撤退であります!
騎士の都『ペルセウス』を降り立つ場所に選んだ私は、回復薬を売っているお店を探していた。
目的は、回復薬の作り方を教えて貰うためなのです。おそらく、戦闘が苦手な私が災害『メテオラ』に対して協力出来ることは、みんなをサポートすることだと思ったからです。そのために私は、回復薬を売っているお店に掛け合って回復薬の作り方を一から教わろうと思いました。
「あのーすみません。この辺に回復薬を売っている場所があると聞いたんですけど……」
先程、歩いている人から教えて貰ったお店が見つからないので、私は再度道行くお姉さんにお店の場所を聞いてみた。赤い髪の白くて軽そうな鎧がよく似合っている身長の高いお姉さんです。
「あら。回復薬のお店? だったらほらあそこに見える看板のお店がそうよ」
「む。あんな近くに…あの、ありがとうございました」
指差して場所を教えてくれたお姉さんに私はペコリとお辞儀をする。
「いいのよ。貴方見たところ『星渡りの旅人』さんでしょう? 旅人さんは災害から私達を守るためにやって来たんだから、旅人さんを助けることは私達の努めみたいなものよ。まさか、こんな小さい子まで旅人さんとは思わなかったけどね」
と、優しい顔で微笑むお姉さん。お、お優しい。小さいのは余計ですけど。
「あと道が分かりにくかったら雑貨屋かどこかで、この町の地図を買うのもオススメよ」
最後までお姉さんは親切に接してくれた。
カランコロン。
とベルが付いているお店のドアを開けるとカウンターに20代くらいの赤毛のお姉さんが座っていた。
「いらっしゃいませ。何をお求めかな?」
「……」
てっきり回復薬を作っているのは、高齢のおばあさんというイメージがあったので、若い綺麗なお姉さんが出てきたので、少々思考が停止してしまった。が、気を取り直して…。
「あ、あの私、カナと申します。回復薬を作りたくて…。その回復薬の作り方を教えてください」
と私は少々テンパりながら頭を下げた。
ゴンッ!
そして響く鈍い音。
「うっ……」
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
「だ、大丈夫です……」
私は頭を下げた時に盛大にカウンターに頭をぶつけたのだった。
うー。恥ずかしさと痛さで泣きそうだ。
結局、心配されたお姉さんに回復薬を飲まされた。初の負ったダメージがテーブルに頭をぶつけるとか、超恥ずかしい。良かった友達に見られなくて。絶対に馬鹿にされるもん。
「あ、ありがとうございます。だ、代金払います」
先程歩いている時に発見したメニューから所持金の欄を私は開こうとする。
「良いの良いの。一番安いポーションだったからさ」
優しい笑顔を振りまきながら手を振って大丈夫と答えるお姉さん。
「それより、カナちゃんだっけ? 何? ポーションの作り方を知りたいの?」
「は、はい」
「えーと、今日は、生産ギルドの方で初心者向けの薬学講習をやるみたいなんだけど……もしかして知らなかった?」
少々困り顔で、私にそう尋ねてくるお姉さん。
「え!?」
何それ? 講習? しかも生産ギルド? 絶対にそっちが本命のやつじゃん。
「その様子だと知らなかったみたいだね。講習は9時からだったはずだから、まだ行けば十分間に合うよ。それに私は薬師じゃなくてただの店番だしね。どっちみちカナちゃんには教えられないなぁ」
お姉さんは、微笑みながら丁寧に教えてくれた。
「あ、あのありがとうございました。それと、回復薬もありがとうございます」
お姉さんにペコリペコリと何度も頭を下げて私はお店を後にした。
生産ギルドの建物は、周りの建物より少し大きい建物だった。通りに面した壁には、フラスコに液体が入った絵と、その横にハンマーと糸が通された針の絵が交差したエンブレムが描かれていた。建物の入り口付近にも同じエンブレムの旗が立てられていた。それを見て、どこかの食堂みたい…と思ったのは私だけではないはずだ。
生産ギルド内は、私と同じ格好をしている人たちでいっぱいだった。みんな、白いシャツに茶色いズボンを着ているので、私と同じプレイヤーさんたちだろう。
「おはようございます。こちらは生産ギルドです。あなたは星渡りの旅人様ですね? 本日はどのようなご用件でしょうか? 当ギルドへの登録でしょうか?」
とりあえず、ギルド内の行列が出来ている場所へと並び待つこと15分。私の番まで来ると受付カウンターの向かいにいる職員さんが私にそう尋ねてきた。実は、日本人らしく行列があったから、その場の雰囲気で並んでしまったのだけど、どうやら行列の先は、生産ギルドへの登録だったようなので結果オーライだね。
私はギルド職員さんに勧められるまま、そのままギルド登録をすることにする。
「では、ギルド登録のためにあなたのステータスの確認します。こちらの『水晶』に触れて下さい」
ギルド職員さんのスラスラとした説明で、私はカウンターの横に鎮座していて、ずっと気になっていた青い水晶に触れる。職員さんの話から察するに、おそらく、この水晶は魔法的な道具なのでしょう。これでギルド登録が出来ると。良かった。指先の針をチクッ血で登録のタイプじゃなくて。小説とかのギルド登録だとそういう表現が多いからね。痛そうなのは極力勘弁です。まぁ、異世界に来たんじゃなくて、ここはゲームの世界だからVRの規制やら何やらで、本当に血は出ないんだけどね。例え、傷ついたとしてもキラキラと綺麗なエフェクトが出るだけだろうしね。一部のゲームでは多少血の描写がされるゲームもあるらしいけど、私には縁のないゲームの話です。
私が水晶に触れたことで、水晶の色が青色から上に向けてだんだんと赤色になってきた。
「え? え?」
「大丈夫です。そのままお待ち下さい」
私が驚いて手を離そうとすると、職員さんが手慣れた様子で私に言った。私の他にも手を離そうとした人がいたのだろうか。随分と慣れているご様子です。あ、でも私の前にも沢山プレイヤーさんに説明しているんだろうし、私のような反応をした人もいたのかも知れない。
ピコん!!!
水晶がすべて赤くなると、私の頭の中で携帯のポップ音のような音が響いた。
☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆
☆名前:カナ
☆ステータス☆
・体力:1
・魔力:1
・筋力:1
・知力:1
・魅力:1
・器用:1
・運 :1
☆使用可能ポイント:3
☆スキル:なし
☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆
すると、先程見た青い枠のステータスウィンドウとは違う、赤い枠のステータスウィンドウが私の目の前に出てきた。
「では失礼して……カナ様ですね。はい。では、これにてステータスの確認は終了です。ちなみに、この赤いステータス画面について説明致しますと、カナ様だけでなく第三者にも見ることが出来るステータス画面となっております」
職員さんは出てきた私のステータス画面をパッと見で何やら確認すると、私が疑問に思っていることが分かったのか、間髪入れずにこのステータスウィンドウについても説明してくれた。
「な、なるほどです」
女神様に、自分のウィンドウは誰かに見られることはないと聞いていたから、職員さんが見ている事に疑問にだったんだよね…。なるほどです。この赤いウィンドウでは相手にも見ることが出来るのか。これは覚えておくべきことですな。と私は心の中でメモをする。っていうか、職員さんが、私の顔を見て即座に説明してきたということは…もしかして私って顔に出やすいタイプ? いやいや、今まではそんなこと無かった気もするし…他にも私のように疑問にいたプレイヤーさんがいたのかも知れない…とでも思っておこう…。うん、きっと職員さんが慣れ過ぎているだけなのだ。
----☆ 生産ギルドに加盟しますか? はい(YES) / いいえ(NO)
私の視界に再びウィンドウが現れたので、私はこれに承諾する。
「はい。ご登録ありがとうございます。では、当生産ギルドでご利用出来るサービスの紹介をしたいと思います――――」
私が登録をすると、さっそく職員さんは次の説明を始めた。
内容は、主にギルドにある設備についての説明だった。
冒険者ギルドにも同じ設備があるという『クエストボード』や『スキル講座の時間割ボード』、『会議室』の説明や、生産ギルドならではという『生産部屋』『素材販売所』の説明を職員さんはスラスラと説明してくれた。正直、一度に聞いても覚えられないと思ったけど、これといって特殊な機能の設備はなく、大体理解の出来る範囲での機能な設備だったので無事に覚えることが出来た。
「ではこれにてすべての説明は終了です……」
と、設備の説明をすべて終えた最後の最後のところで、今までスラスラと話していた職員さんの言葉が途切れた。
「あのーどうかしました?」
私は言葉が途切れてフリーズしている職員さんにおそるおそる話しかける。
「す、すみません。ギルドカードの説明を忘れていました」
と、私の言葉にすぐに動きを再開させて、職員さんは話し始めた。
どうやら、私にギルドカードを発行するかどうかを聞くのを忘れていたらしい。本当は最初に登録をしたあとすぐに聞く質問らしい。今日は私達、星渡りの旅人に何回も説明しているので、うっかり説明を段取りを飛ばしてしまったのだとか。うん。まぁ誰にだってミスはあるよね。仕方ないよ。
すみませんと謝る職員さんを促して説明をして続けて貰うと、ギルドカードというのは、ギルドの会員ですよという身分証明書のことで、使い道としては、一般的にクエストを受ける際などに受付に提示して本人確認をするためのものらしい。ただ、登録時に触った『水晶』でも本人確認が可能なので発行する人は少ないとのことだ。発行手数料も1000Sと掛かるらしい。
説明して貰って悪いけど、私はギルドカードを発行しないことにした。1000Sと少々お高いのも理由の1つだし、そもそもギルド職員さんが説明を飛ばしちゃうくらい発行する人が少ないってことだもんね。一応、職員さんには謝ったけど…。
「いえいえ、元々発行する人の方が少ないですから」
と、職員さんは気にしないで下さいと言ってくれた。
こうして生産ギルドへの登録は完了した。
「えっと、どこにあるかな…」
登録を終えた私はさっそく『スキル講座の時間割ボード』の場所に行き、回復薬を売っていたお店のお姉さんに聞いた『薬学』の講座を探す。
「あった。24番だね」
『本日の講座』の欄から『初心者向けの薬学講習』を見つけた私はさっそく登録するために番号を覚えて再び受付へと戻った。もちろん、さっきとは違う受付カウンターだけどね。ギルドの中に受付カウンターは沢山あって、登録用の受付やクエスト受諾用の受付、クエストの依頼なんかも頼める受付と幅広く分かれているのだ。私はその中の1つである講座受講用の受付に『薬学』の講座を申し込みに行った。
『初心者向けの薬学講習』は、生産ギルド2階にある教室で行われた。現実の学校の教室を半分にした広さほどの教室だ。9時に講義が始まるとのことだったので、私は8時50分…10分前に教室に入ったというのに、もう教室には私と同じプレイヤーさん達が何人もいた。扉を開けた瞬間、教室中の人の視線が私に突き刺さり、何となく居たたまれない気持ちになる。
それに、もう空席も1つだけだし……。
皆さん、ゲームの中だというのに真面目なんですね…。開始何分も前に教室で座っているなんて。私なんか時間まで余裕があるからって生産ギルドの中を色々と物色してましたよ。
「お隣、失礼します…」
と、私はただ1つ席の空いている、黒髪で切れ長の目をした仏頂面…控えめに言って、やんちゃそうな見た目の……ぶっちゃけるとヤンキーっぽい男の子の隣に座ります。
「……」
返答はありませんでした。いや、その、分かってはいたんですけどね! こう何と言うか、返事くらいしてもいいんじゃないでしょうか? というか、この席って絶対他の皆さんは避けてましたよね。教室にいる方々は私と同じ女子の方々ばっかりですし。あと、ギルド職員さんも講座の席をピッタリではなく、少し多めに用意してもいいんじゃないでしょうか? と、心の中で文句を言っても実際には変わらない訳で……。うぅ…もう少し早く来れば、こんなことにはならなかったのに。と、とりあえず、隣の男の子は極力関わらないようにしましょう。うん。頑張るのだ私、講座にだけ集中するぞー!
案の定、教室に入ってきたのは、私を最後に講座は始まってしまった。
教えてくれる先生は、ラグさんという優しそうな見た目のおばあさんで、この道50年のベテラン薬師さんだそうです。なんでも15歳から薬師をしているのだそう。
ラグさんは初心者の私達にも分かりやすく『薬学』もとい、【薬学】スキルについて教えてくれました。
「【薬学】スキルは、その名の通り、薬について学ぶ学問系のスキルです。回復薬を作るために必要な【調薬】スキルを覚えるために必須のスキルでもあります。その他の効果はとしては、【薬学】を持っている人が回復薬を使用すると、【薬学】を持っていない人と比べて、若干ですが回復量が上がるなどの効果も持っていますね」
へぇ。正直【薬学】スキルは【調薬】スキルを覚えるための土台作りとでも思っていましたが、【薬学】スキルだけでも便利な効果を持っているのですね。この仕様は面白いかもしれません。
と、ラグさんのお話は、【薬学】のスキルに始まり、どんな薬草がどんな効果を持っているかなど、最期の質問タイムも合わせて1時間ほどで終了致しました。私としてはもう少しお話を聞きたかったのですが…と思っていると。
「これで、この講座は終わりだけど、このあと10時半から【調薬】の講座があるから良かったらまた参加してね」
と、私の心を見透かしてか、ラグさんはそんなことをおっしゃいました。これは、さっそく申し込みに行かなくては!
――――☆スキル【薬学Ⅰ】を獲得しました。
――――☆知力のステータスポイントを獲得しました。
講座が終了すると、私の視界の隅に立て続けに小さいウィンドウが出現した。
「「お、おー!」」
教室内で小さい歓声が上がったので、おそらく私以外のプレイヤーさん達にも同じ事が起きたのだろう。
「テレスコープ…」
という訳で、私はさっそくステータス画面を開くことにした。教室にいる皆さんも中空に視線を漂わせて指を操作しているからね。みんな考えることは同じだ。
☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆
☆名前:カナ
☆ステータス☆
・体力:1
・魔力:1
・筋力:1
・知力:1
・魅力:1
・器用:1
・運 :1
☆使用可能ポイント:4(知力:1)
☆スキル:【薬学Ⅰ】
☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆
――――☆初の【スキル】獲得により、ステータスポイントが贈られました。なおこのポイントは、どの項目にも使用可能です。
「やった!」
私は小さくガッツポーズをして喜ぶ。初のスキルGETだ。素直に嬉しい!
それに、【薬学】スキルを覚えただけでなく、ステータスポイントが増えたのも嬉しいし、知力のポイントも使えるというのも嬉しい。
私は、さっそく、この知力の値を割り振った。これで、ステータスがオール1ではなくなったね。何にでも振り分けることが出来るポイントはまだ保留かな。女神様がこの世界のステータスには、上限があるとも言ってたし、ステータスの割り振りが重要なのは私にでも分かる。
という訳で、ステータスを確認した私はさっそく次の講座の申し込みに行くのだった。
「フフフ…」
申し込みを終えた私は誰よりも早くに次の教室へとやってきていた。
流石に、これなら私の隣には、誰か他の子が座ってくれるよね。さっきは、男の子が彼だけだったから、みんな彼の隣に座ることに躊躇して席が空いたかも知れないけど、私が先に座っていたら彼が来たとしても空いている席に座るだろうし、他の女の子も私の隣に座ってくれるだろう。
と、私が次の講座までの時間を今か今かと待ちわびていると、教室に誰も入ってこないまま講座の時間になってしまった。
「あれ? 私…教室間違ったのかな…」
時間になっても誰も来ないので、私は途端に不安になる。だが受付で貰ったプリントに書かれている教室の番号を確認しても私は間違ってはいない。
――――ガラガラッ!
と、不安になっている所に教室の扉が開く音がした。
私は良かったと安堵の表情で、プリントを見ていた顔を上げると。
そこにいたのは、先程、私の隣に座っていたあの男の子だった。
そして、他の席が空いているのにも関わらず、私の隣にガタンとイスを引きながら座る男の子。
えぇぇぇ!!! これでも隣に座るの!!?? ちょっと意味分かんないですが! 教室の席はもっと沢山空いてますよ! 何故、また私の隣に!! 私あなたになんか悪い事しました!? と、頭の中がグルグルとパニックになる私。
そして、ふと冷静に分析してみると、ただ彼は扉に近い席に座っただけではないかという考えに思い至った。考えてみれば、先程の教室でも扉に1番近い席にいたなと。うん。きっとそうだ。彼は私の隣に意図があって座ったのではなく、扉が近いから座ったのだ。うん、よしよし、そう考えると落ち着いてきたぞ。
でも、問題はそれだけじゃなくて、なんで私たち以外に時間になっても他の皆さんが来ないのかというのもあるんだよなぁ。
もしかして、皆さん【薬学】の講座だけを受けて他のことをしに行ったとか? いやいや、【薬学】の講座を受けている限り、あそこにいた人は皆さん少なくとも回復薬を作ろうと思っている人たちだと思うし、この講座で【調薬】を取らないと回復薬を作れないと思うんだけど……。うーん。ホント何でだろう?
と、皆さんが来ない理由を考えていると、ラグさんが教室へと入ってきた。
「あら。だいぶ人数が減っちゃったみたいねー。私の授業はつまらなかったのかしらねー」
と教室を見ておっとりした口調で喋るラグさん。
いやいや、何を呑気に言っているのですかラグさん。私が教える立場だとしたら、先程20名ほどいた生徒が2人になっていたら精神的に大ダメージですよ! 私ならその事を考えただけでお腹が痛くなってきそうです。ここは、ラグさんにフォローを入れるべきでしょう。
「わ、私はラグ先生の授業面白かったですよ!」
私は声を大にして言います。普段は声が小さいとよく指摘される私ですが、ここは言わせて貰います。
「あら。そうなのーありがとねー」
と、私の言葉を聞いてニッコリと微笑むラグさん。うん。これでラグさんの精神的負担が少しでも和らぐといいな。
「そんなことをよりさー。早く授業始めようぜー!」
と、ここまで一言も喋らなかった男の子が、ここにきてまさかの発言をしました。
「そんなことって何ですか! 生徒が20人から2人になったんですよ! ラグ先生が可哀想じゃないですか!」
気づいた時には、私は彼にそう言い返していました。
「いや、可哀想ってお前が全部言ってんじゃん」
「あっ!」
私は口元を咄嗟に覆いますが、もう手遅れです。男の子に返した言葉でラグ先生に余計に傷つけてしまったのです。私はすぐにラグ先生に謝ります。
「大丈夫よー。私は気にしてないわよ。それに私も少人数の方が教えやすいしね。あと講座を教えている側としてはよくあることよ。そもそも、予め講座の日程を出していたとしても人数が集まらないこともあるしね」
と、私の失言を聞いても怒りもせず、おっとりと喋り私を許してくれるラグ先生。
「でもどうして先程の授業に比べて、こんなにも人が減ったのでしょうか?」
ラグ先生は許してくれたものの、どうしても納得のいかない私はついつい言葉に出してしまいます。
「さぁねぇ。どうしてかしらねー?」
「そんなの簡単だろ」
そんな私の疑問に答えたのは、意外にも隣の男の子でした。
「みんな、さっきの授業で【薬学】のスキルを取ったから、この授業は受けなかったのさ」
彼は答えますが、私には意味が分かりません。
だって、【調薬】のスキルはこの講座を受けないと取れないじゃないですか。
「お前ちゃんと女神の話聞いてたか? スキルは何も講座を受けなくも取得出来るんだぜ?」
「あ!」
私は彼の指摘を受けて女神様の説明を思い出します。確かに女神様はそのような事を言っていました。こちらの世界に降り立って、講座でスキルを取得出来ると分かってからは失念しておりました。
「あれ? でもその場合、自力で取得を目指す皆さんは、自分で1から試行錯誤して作らないといけないですよね? 道具も分からないし…」
「おいおい。何か勘違いしてるみたいだが、これはゲームなんだぜ? 1から自力でやった方が面白いっていう人もいるだろうよ。それに、道具に関してはお前の情報不足だ。現に【調薬】に使う道具は、生産ギルドに一部売られているし、この街のどこかを探せば他にもあるだろう。それらを買えばいいだけの話だ。素材の薬草については、さっきの講座である程度種類を教えて貰ったしな。あとは、みんな1から試行錯誤して混ぜ合わせるうちに【調薬】スキルを覚えられるだろうさ。だから500Sで講座を受けて時間とお金を使うよりも、自分で道具を買って試した方が良いとみんな判断したんだろう」
彼は私の質問に理路整然と答えました。
お、思わず拍手したくなるくらい分かりやすかったです……。口調も悪くて悔しいので絶対にしませんけど。
あれ? でもここで1つの疑問が残ります。そこまでの情報を知っていて何故彼はこの講座を受けたのしょう? ええい、ままよ。ここまで来たら、私はその疑問に思ったことを聞いちゃいます。
「あぁ。そのことなら、結果的にこっちの方が金銭的に安く済むからな。そうだろ? 先生?」
彼は意味深な言葉を言ってラグ先生の方に視線を向けます。
「あら。紫乃君、よく分かったわねー」
すると、ラグ先生は彼の言っている意味を理解しているのかニッコリと微笑みで応じました。
ちょっとちょっと、私だけ蚊帳の外なんですけど!
「ふふ。カナちゃんが困っているようだから、そろそろ授業でもして種明かしでもしましょうか」
そう言ってラグ先生は、何やら持っていたカバンから何かを取り出し始めました。
私は頭にはてなマークが付いたままですが、ラグ先生が、授業が始まったら分かると言うので、私はそれを黙って見ているしかありません。
「はい。では紫乃君にカナちゃん。このケースを1つずつ取っていってね」
ラグ先生は、小さいカバンからより大きいサイズのアタッシュケースを2つ取りだし机に並べると私達にそう言いました。
紫乃君と呼ばれた男の子が、真っ先にアタッシュケースを1つ取るとすぐに席に戻ります。この人はレディーファーストという言葉を知らないんですかね。まぁ、アタッシュケースは色も形も全く同じ、茶色い革で出来た四角いケースなので、早い者勝ちとかはないのですが。何と言うか、この紫乃という男の子は、他の人の事を考える気持ちとかが足りないように思います。私も過度なレディーファーストをしろとは思ってはないんですが、お先に失礼します、とか、お先にどうぞ、とか何か一言いうだけでもこちらの気持ちが違うということをですね、私は言いたいのです。おっと、話がズレました。
私もアタッシュケースを手に取って席へと戻ります。
「マークがついている方が表だからね。その部分を上に向けてケースを開いてね」
ラグ先生の言葉通り私は星のマークがついているカバンの表面の方を上にしてケースを開きます。
「おぉ!」
私はケースの中身を見て思わず声が出ちゃいました。
それは、もしかしなくても、回復薬を作るための道具類でした。
「先生。もちろん、貰っていいんだよな?」
「ええ。そうね。この講座を取ってくれた貴方達へのプレゼントよ」
紫乃と呼ばれた男の子の言葉にラグ先生は頷きます。
えぇ! こんな専門的っぽい道具が色々と入っている物をタダ同然で貰ってもいいの!?




