とある地質学者のVR③
夕飯はウォーモさん宅にお呼ばれすることになったが、俺は今晩の寝床が無いことに改めて気付き宿屋を探すことにした。幸いにも、宿屋はすぐに見つかり、2週間限定の星渡りの旅人価格で安く借りることが出来た。それでも1000Sは掛かったが。普段だと最低価格5000Sとのことなので、随分安いことは変わらないのだ。何でもこの星の人の納めた税金から特別補助金として、冒険者ギルドや宿屋などに出るらしいので、問題ないとのことだ。このことから見ても分かるのだが、本当に俺たち旅人は、この星の人たちから期待されていることが分かる。マジで頑張らないとな…。あと数日ぐらいはのんびりと過ごす予定ではあるが…。
残った1600Sで俺は、何かしら武器を買おうと思いついた。そろそろ戦闘の準備だけならボチボチとできるしな。いやそれよりも、まず身を守る武器ぐらいは持っておかなければ、この街の外にも行けやしない。ノンノさんの話では、災害中のみならず、この星にはモンスターが沢山生息しているらしいからな。まぁゲームだからモンスターがいるというのは分かっていたが、一応この星の人に話を聞いておきたかったのだ。
――――・果物ナイフ
という訳で俺は、『果物ナイフ』1100Sを購入した。俺の残金はこれで500S。あれ? おっかしいなーさっきまでは5000Sほどあったというのに。気付いたらもう500Sである。まさしく、ご利用は計画的にしないといけないな。
「さて。残った500Sはどうしようか?」
と考えて俺はふと思い出す。500Sあれば『講座』が受けられるんじゃね? ご利用は計画的にとは言ったが、もうここまでお金を使ってしまっている俺には貯金なんて言う発想はないのだ! 宵越しの金は持たねぇぜ! 嘘です。明日からはちゃんと貯金します……。
という訳で、俺は今日何度目か分からない冒険者ギルドへと来ていた。もう昼の3時も過ぎているのだが、ギルドの中には、俺たち旅人が何人もいた。ちょうど『講座』が終わった時間帯だったのだろう。ガヤガヤとしている音の中から断片的に聞こえる限りでは、みんな【スキル】のことについて話している感じなのだ。それと腰に『木剣』や背中に『木槍』などを携えている人がチラチラといる。『講座』で貰えたりするのかな?
「うーん。俺的にピンとくる『講座』はないなぁ」
『講座』が張り出されているボードを見ながら呟く。
ただ、もう今の時間帯からクエストを受けるのも厳しいしな……仕方ない。バケツでも買って夕食まで魚釣りとするか。
「いや、待てよ? 夕食にお呼ばれしたのだから、早めに行ってウォーモさんを手伝うのもアリか」
うん。料理の手伝いでも買い出しでも何かしらやることはあるだろう。
そうと決まれば、俺は三度釣り具屋さんへと向かうのだった。
ウォーモさんの女子力はかなり高かった。
料理に洗濯、掃除まで、普段からウォーモさんがこなしているらしい。奥さんであるドンナさんは職人なのでそう言うことは一切出来ずに、というより、ずっと釣り竿を作っているので、ウォーモさんが必死になって覚えたという。
つまり、俺が言いたいことは、ウォーモさんに手伝いを申し出ても何もすることが無かった。下手に手を出そうものなら、よけいに邪魔をしてしまうぐらいにウォーモさんの家事能力は高かった。
「ウォーモさん。マジで家事チートっす!」
俺はただただ釣り具屋さんの2階にある住居スペースで、ウォーモさんの動くさまを見守ることしか出来なかった。【家事】スキルがあるのならレベルは絶対にⅤに違いない。
「いや、これくらい慣れたら出来るようになるだろ……もうちょい塩が必要か…」
と左手でフライパンの中の魚をひっくり返しながら、右手でお玉を持ちスープの味を確かめるウォーモさん。そしてさらに料理中の隙間時間にも布巾で掃除を始めるという効率の良さ。ドンナさん。良い奥さ……旦那さんをゲットしましたね! 顔は恐いけど。
「おい。リク。今変なこと考えたろ」
「イエ。カンガエテマセンヨ…」
家事チートなウォーモさんの手料理は、めちゃくちゃ美味しかった。ご飯を食べながら、ビールを飲みながら、食事中に聞いてみたところ、やはり【料理】スキルを持っているとのことだ。そのレベルは何とⅤ。やはりと言うか、スキルの最高値である。また、同時にこのゲームの味覚の再現度にも驚かされたが。
ウォーモさんとドンナさんとの夕食はとても有意義な時間となった。この星について色々なことを知ることが出来たし、俺たち旅人のことをどう思っているのかも色々と聞くことが出来た。中には、ゲーム初日にこんな情報を聞いて良いのかと思う内容のものも多々あったが……。まぁ普通にプレイしていた俺が知ることが出来る内容なので、運営もそこまで気にしない内容なんだろう。というか、暗にこの星の住人と関われ! というメッセージな気もする。
そんなこんなで、俺の色々とあったゲーム初日は終わりを告げるのだった。
早朝5時。もちろん、この星内の時間。宿屋で目覚めた俺はチェックアウトをして、港区へと向かっていた。昨日、予約しておいたクエスト『漁師さんの水揚げの手伝い』をするためだ。
「えーと、あれがクエストの船か」
俺は『地図』を見ながら、指定された場所へと向かうと、もう既に10人ぐらい人だかりが集まっていた。服装から見るに、ほとんどが旅人だ。確かに先着20名ほどのクエストではあったが、朝早く、しかもお手伝い系のクエストということもあり、受ける人は少ないだろうと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「俺が予約した時は、まだ4人しか依頼を受けてないと受付が言ってたのにな……」
まぁあれから、クエストを受注する人がいたということだろう。
と、俺が徐々にみんなが集まっている場所に近づいていくと、見知った顔がいた。
「あ、リクさん、おはようございます!」
「おはようございます! リクさんもクエストですか?」
近づいてくる俺に気付いたのか、2人は俺にお辞儀をした。
昨日ギルドに行く途中に出会った、海人の少年2人がいたのだ。確か名前は…黒髪の少年がカイト君で、青い髪の少年が湊君だったか。
「おはよう。水揚げの手伝いなのだが、ここであっているか?」
「はい。合っていると思います。僕たちも同じクエストです」
「海人を目指す僕たちにとって、海を経験出来る嬉しいクエストですから」
と、俺に質問したカイト君が答え、ソウ君がこのクエストを受けた動機を説明してきた。
「それで、あれからどうだ? 仲間は見つかったか?」
「はい。あのあとですね――――」
と、俺と別れたあとのことを嬉しそうに、話し始める少年2人。何でも、あれから5名のクラン候補メンバーを見つけたらしい。さらに、うち2名はもう既に協力して一緒に行動してくれてるとのこと。元々、漁業の街を初期に選ぶプレイヤーたちだけあって、海に興味を示す人たちも多いとのことだ。
「あのちょっとお話いいですか?」
少年たちが話をしている中、横から俺に声を掛けてくる人物がいた。年は今俺と喋っている少年たちと同じぐらいで、頭にバンダナを巻いている少年だった。
「むっ!」
「お前は……」
すると、俺と話をしていた少年たちが、そのバンダナの少年を見て少し顔をしかめた。
「少年たちの知り合いか?」
「いえ、知り合いというか……」
「敵ですかね…」
俺の質問に対して少年たちは、なにやら物騒な回答をした。
「ははっ。敵認定は早すぎるんじゃねぇのか? 俺らはまだ何もやってないんだぜ?」
それを聞いたバンダナの少年は首を振りながら少年たちに言葉を返した。
ふむ。なにやら事情がある様子だな。
「ふん。どうだか。きっと今に人に迷惑をかけるに決まってる!」
「そうだそうだ! 海賊なんて人に迷惑をかける以外に何をするっていうんだ!」
「おいおい。まだ俺たちがどんな活動をする海賊かは分からないだろ? 勝手に迷惑行為と決められても困るぜ?」
と、長らく話を聞いていると、どうやら、バンダナの少年…レツ君は、海人としてクランを作る少年たちのように、海賊としてクランを作ろうとしているらしい。だから、カイト君とソウ君海人側から見れば、敵なのだそうだ。対して、レツ君海賊側からすると、まだ活動はしてないので海賊ではないとのこと。
おじさんからすれば、どっちも頑張れという感じなんだけどなー。俺には少年たちが、同じ海に関するクランを立ち上げようとしている風にしか見えないしな。少年たちよ。お互いに切磋琢磨して成長していくが良いぞ。
あぁ。それで、レツ君が俺に話しかけてきた理由は、その海賊クランに入らないかと勧誘だった。もちろん、丁重にお断りしたが。海人クランも断ったことをちゃんと説明して。
そんなこんなで雑談していると、クエストの予定時刻5時30分となった。
「今回は依頼を受けてくれて感謝する!! 俺が今回依頼を出したこの船の船長であるカピタノだ!! これからみんなには依頼の通り、魚の水揚げの手伝いをしてもらう! 初めての者も多いだろうが、こちらでキチンと指示は出す! みんなにはそれをしっかりと守って貰いたい!」
と、船の前に立ち大きな声で話始めたのは、この道ン十年です! といった短髪で無精ひげ、筋肉質の50代くらいの男性だった。
カピタノさんは、早朝なのにも関わらずハキハキとした声で俺たちに向かって説明してくれた。
「では、人員の確認をしたあとさっそく出発する!!」
「「「はい!!!」」」
こうして、俺の3回目のクエストが始まった。
漁は明け方の7時には終わった。結果的に言えば、漁は大成功。魚は大量だった。帆船で沖合に仕掛けてある定置網のところまで行き、網を引き揚げるという作業だったが、俺が思っていたよりも水の抵抗で網は重く、作業は大変だった。力作業をした影響か、途中で筋力値を1上げることが出来ますというメッセージウィンドウも出てきた。とりあえず、保留にしているが。
だが、問題はあった。大きな問題が。漁は成功したが、クエストはほとんどの人が失敗したのだ。ほとんどの人というか、俺以外全員というか…。失敗の理由は船酔い。考えたら分かりそうな話だったが、俺たち旅人のみんながみんな船が動き出した瞬間から『状態異常:船酔い』が発生したのだ。自称海人であるカイト君やソウ君。自称海賊のレツ君も船酔いをしていた。何故か俺だけは平気だったのだが。そんな訳で、漁は元々の乗組員さんたちと船長そして俺だけが作業するという結果になった。他の旅人はもれなく船室でダウンしていた。あとで、分かったがどうやら知力が船酔いと関係していたっぽい。意外なところで知力が役に立った瞬間である。
「兄ちゃんだけは、他の奴らより色つけといたからな!」
クエスト報酬を貰う時に、船長のカピタノさんはそう言って俺の背中をガハハハッと笑いながら叩いた。
「ありがとうございます……あと同じ旅人がすみません」
俺は報酬を貰いながらお礼と謝罪をした。
「兄ちゃんが謝ることはねぇよ。俺も予想外だったしよ。思えば、初めて船に乗る奴はほとんど船酔いするしな。次に依頼を出す時は気をつければいいし、こっちも勉強になったぜ!」
とカピタノさんはガハハハッと笑った。まさに器の大きい海の男にピッタリな人だ。
ちなみに、港に戻ってからは船酔いもすぐに治ったみたいで、旅人たちもこれでは如何と思ったのか漁獲した魚を運ぶ仕事には精を出していたので、事前の額よりは低くなったが一応報酬を貰っていた。
「「リクさん!!」」
「リクの兄貴!」
船長と雑談していると、海人コンビと海賊の少年たちが鬼気迫る顔で声を掛けてきた。
「あんな揺れる船で平然としているリクさんはやっぱり凄い人です!」
「初日から高そうな釣り竿も持っていましたし…海に愛されているに違いありません!」
「みんなダウンしてる中動ける兄貴は凄いと思った! だから――――」
「「「俺の師匠になって下さい!」」」
と3人は俺に頭を下げてきた。
「いやいやいやいや!」
頭を下げる3人に俺は思いっきり首を振って断る。俺はたまたま知力のステを上げてただけだから! 偶然だからそんなことを言われても困るよ! 本当に俺はまったりと過ごしたいだけなんだ。
「「「そんな事言わずにお願いします!」」」
と土下座しそうな勢いでさらに頭を下げる3人。
「ガハハッ! リクお前ェ慕われてんなー!」
と困る俺の隣で笑いだすカピタノさん。
「いや、カピタノさん笑わないでくださいよ…」
ん? 待てよ。この子たちは、海人にしろ海賊にしろ海の男に憧れている訳だ…。そして俺の隣には今、まさしく海の男がいる…。よし! カピタノさんに押し付けて…ゲフンゲフン。カピタノさんに任せてしまおう。
「えーと、少年たちよ」
俺は頭をずっと下げている少年たちに呼びかける。
「「「はい!!」」」
お、おう…。いい返事だな…。
「ハッキリ言って、俺は君たちの師匠にはなれない!」
「「「えー! そんなぁ!」」」
と目に見えて落ち込む3人。
「ただ、俺の代わりに海のことを良く知っている人物…いや、俺よりも海のことを知っている人物を紹介しよう!」
「「「え? 師匠よりも凄い人!?」」」
俺が言うと、また目に見えて顔が輝きだす3人。お前ら元気だな…。
「ほう。俺もそれには興味があるな…」
とカピタノさんも俺の言葉に反応する。いや、あんたがそうだよ…。
「では紹介しよう。俺の師匠カピタノさんだ!!」
もうそろそろ演技も面倒くさくなってきたので、俺はカピタノさんを手を向け紹介した。
「はっ? おい誰がお前の師匠だ――――」
「「「おー!!!」」」
カピタノさんの反論は少年たちによってかき消された。
カピタノさんには悪いが、ここはさっさと押し付けて文句を言われる前にここから去ろう。なんだかんだで面倒見が良さそうだしなこの人。
「この人が昨日俺に海のことを色々と教えてくれたんだ! だから、君たちもこの人にしっかりと教わると良い!!」
うん。今日初めて会ったんだけどね。少しの嘘くらいは仕方ない。
「「「おおぉ!!」」」
「では、俺はこのあと用事があるからこれで失礼する! カピタノさん、あとは頼みました」
早口でそう言った俺は、足早にここから退散した。去り際のカピタノさんの顔は謀ったなと訴えてはいたが、俺は目で謝っておいた。まぁ満更でもなさそうだったしな。大丈夫だろ。次に会った時にちゃんと謝ろう…。
――――☆ クエスト完了!??
ギルドでクエスト完了の報告をした俺は、クエストボードの前にいた。
先程のクエストでいくらかお金を貰ったとはいえ、まだまだ釣り竿の借金を返すには足りないのだ。
「おっ! これなんか良いんじゃないか?」
そして、俺が見つけたクエストは昨日は無かったクエストだった。
・地質学者のお手伝い 必須ステータス(知力:3 器用:3) 報酬10000S(追加報酬も検討)
それは、『カリーナ村』にある『研究所』の地質学者。その人のお手伝いを1日ほどするというクエストだった。
俺はすぐにこのクエストの詳細な内容を受付に聞きに行き、概ね問題は無さそうだったので受注することにした。
何故なら、場所は少々遠いが、これは完全に俺向きのクエストだと思ったからだ。
その理由は、まず報酬が良い。1日時間を拘束されるがそれでも10000S。さらに追加報酬も検討ということは、働きぶりが良ければ、更に報酬を上げてくれるということだ。まぁこれは俺以外の人にも魅力的なのだが。
そして、理由はもう1つ。この街『アカシヤ』以外の場所に行けることによって、俺の釣った魚の販売口が見つかるかも知れないのだ。これからも釣りをしていきたい俺としては、これは重要な案件なのだ。魚を処理出来る場所を探さなけらば、ドンドン釣っても魔法のカバンの収納数を圧迫するだけなのだ。いくらバケツを買ったとしても制限はあるのだ。まず魚を処理する方法を見つけなければ、安心して魚も釣れないなんて本末転倒である。ん? この場合は使い方違うか? まぁいいや…とにかく、他の街や村に行けば魚を買い取ってくれるはずなので、他の場所に行くのは俺のスローライフに必要不可欠なのだ。これが俺向きなクエストであるという2つ目の理由だ。
それにこのクエストは中途半端に、要求する人材のステが高いことから他の旅人も受けたくても受けれない状況あるはずなのだ。また、要求しているステも知力と器用という戦闘をしたい旅人からすれば、ステに上限のあるこのゲームでは避けたいステ振りだろう。
だが、俺にとってみれば、知力は既に2。振れるステも丁度3つある。この星を守りはするが、基本ほのぼのとプレイすると決めている俺にしてみれば、このステに振ってもなんら問題にはない。さらに言えば、器用さは、【釣りⅠ】スキルに影響するかも知れない……というか影響すると昨日ウォーモさんに教えて貰った俺にとってはまさに好都合。デメリットにもならない。
それに、依頼を出すということは、困っている状況にあるということだ。旅人の中で俺しか出来る人がいないのならば、俺が行くべきだろう。
「ふむ。以外と近い村じゃないか」
クエストを受注して『地図』で確認すると、クエストの依頼人がいるという『カリーナ村』は『アカシヤ』の街から北にある『カリーナ山』の中腹に位置する村だった。距離的には『アカシヤ』から騎士の都に行くよりは近い。俺はさっそく『カリーナ村』に行く準備をするを始めるのだった。
まず、準備のために俺が訪れたのは、ウォーモさんの所だ。俺は借金中の身、遠出をするためにウォーモさんに一応断っておくのだ。これが俺の通す筋ってもんだ。
「また、お前は律儀だな! おう頑張って来いよ!」
ウォーモさんは、報告に来た俺に笑顔でそう言ってくれた。顔は相変わらず恐いが。
そして、次に俺が向かったのは、輸送商会『アウリガ』。昨日飲んでいる時にウォーモさんに教えて貰ったこの星の運送会社である。ウォーモさんが言うには、業界シェア率60%のこの星一の輸送商会であるらしく、各街、各村々に1店舗は必ずあるという物も人も何でも運ぶ輸送商会であるらしい。
俺はその輸送商会に『カリーナ村』まで、道中の危険なく送ってほしいと頼みに来たのである。
「いらっしゃいませです。はい。当店『アウリガ』をご利用ですか?」
店内に入るとすぐにカウンターとなっており、如何にも商人という感じの細身の男が揉み手をしながら話しかけてきた。
「『カリーナ村』まで行きたいのだが、いくらぐらいになる?」
何故か、この男には気弱なところを見せたらダメな気がしたので、俺は少々感じは悪いがため口で質問をした。なんかこの手のタイプは、こちらが下手に出ると料金を釣り上げてくる感じがするんだよなぁ。俺の勝手な偏見かも知れないが。
「はい。『カリーナ村』でしたら、1500…いや、1200Sほどに成りますね」
ふむ。大体ウォーモさんに聞いていた値段と同じくらい…少し安いか。何故俺を見て価格を下げたかは知らんが。
「見たところお客様は『星渡りの旅人』とお見受けします。道中のモンスター出現の際、もし戦闘を手伝って下さるなら、900Sほどにも出来ますがいかかでしょうか?」
と男はさらに続けて言った。
「いや、戦闘は出来ない。1200Sで頼む」
ここで嘘を言って戦闘になっても困るので、俺はハッキリと戦闘は出来ないと言う。
「かしこまりました。はい。ではそのように手配いたします。出発の時間はどのくらいですか? 最低でも1時間ほど準備には頂きますが。また夜遅くの出発でしたら、少々値段も変わってきます。はい」
最速でも1時間後に出発か。意外と早いな。ウォーモさんの話ではもっと待たされるとも思ったが、まぁ俺も他に準備があるし丁度いい。
「では、1時間後で頼む。料金は前払いか?」
「かしこまりました。はい。前払いとなっております。もしこちらの不手際があった際には、その都度対応させて頂きますのでご安心ください。はい」
――――☆現在の所持金 3500S。
俺はウィンドウを開いてお金を送金する。
――――☆現在の所持金 2300S。
「はい。確かにお受け取りいたしました。はい。ご出発の場所は西の門近くとなっておりますので、お気を付けください。そちらで係の者が待っているはずです。はい」
「分かった。では失礼する」
男の説明に俺は頷き足早に店から出る。
「ありがとうございました。道中、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
次の準備のために俺が訪れた場所は、この街の『教会』だ。
別にリアルでも日本人らしく特に何かを信仰している訳ではないが、昨日ウォーモさんと話した中で、気になったことがあったので俺はこの場所に訪れたのだ。
「本日は、女神様にお参りですか? それとも【魔術】を教わりにきたのですか?」
開け放たれた三角屋根の教会の扉をくぐると、修道服に身を包んだ女性がすぐに話しかけてきた。
ふむ。教会では【魔術】を教わることも出来るのか。だが、今日の目的はそれではない。
「女神様にお参りと思うんですが、その前に質問してもよろしいでしょうか?」
「はい。私にお答えできることならばお答え致します」
俺の言葉に女性は微笑みながら答えた。
「女神様にお参りというのは、『死に戻り』をお願いするということでよろしいでしょうか?」
「はい。そうですよ?」
「では、俺たち『星渡りの旅人』もお参りしないと『死に戻り』が出来ませんよね?」
『死に戻り』またの名をリスポーンやリボーンとも言う。それは文字通り、ゲームオーバーになった際にセーブ地点や宿屋、教会などからまた始められるシステムである。この星を俺は普通に異世界と称してプレイすることに決めてはいるが、やはり、ゲーム的に考えてほぼすべてのゲームにはこの『死に戻り』がある以上、この星にも『死に戻り』があると考えた俺は、昨日飲んでいる時にウォーモさんに質問したのだ。この星の住人…言いたくはないが、NPCがそんなことを教えるはずもないと俺は思ったが、物は試しに聞いてみたのだ。すると、俺の予想を上回る回答が返ってきて俺はかなり驚いた。具体的には、『状態異常:ほろ酔い』が治るぐらいには驚いた。
『ウォーモさん? この星にも『死に戻り』ってあるんですかね?』
『あぁ、あるぞー。大体街の外へと行く場合には教会にお祈りしに行くなーったく、旅人様はそんなことも知らねぇのかよ』
という感じの話だったのだが、かなり驚いたのを覚えている。その後、俺の酔いが一気に醒めたので、その話を詳しく聞き出したのだ。
それで、分かったことは多々あるので色々と省くが、ここで確認しておきたいことは、『死に戻り』はこの星の人にも適応されるという事実と俺たち旅人の初期状態…この場合は、女神さんにお参りを1度もしていない状態でHPが0になったら『死に戻り』が発生するのか? ということである。
「えーと、それは…私では分かりかねますので、司祭様を呼んできますので少々お待ちください」
俺の質問に正直に分からないと答えた女性は、ぺこりとお辞儀をして足早に司祭様を呼びに行った。
「『星渡りの旅人』様。お待たせ致しました。私が『アカシヤ』の街の司祭でございます」
意外と待つこともなく、司祭と名乗る人物は現れた。
「話は聞かせて貰いました。『星渡りの旅人』様たちの『死に戻り』についてだそうですね?」
先程の女性と同じく、白い修道服を身にまとった司祭さんは、人の良さそうな顔をして俺に改めて聞いてきた。
「はい。そうです」
俺は話を進めるために端的に答える。
「この街に来た『星渡りの旅人』様の中で私どもの『教会』に来たのは貴方が初めてなので、旅人様を拝見する機会が無かったものですから、貴方の問いについて恥ずかしながら私は答えを持っていなかったのですが、今貴方を見て答えが分かりました」
「は、はぁ」
まぁ答えが分かったのはいいが、この『教会』に来たのは俺が初めてなのかよ! 普通こんなゲームだったら、教会とか真っ先に調べようと思うはずのだが…みんな教会を調べるよりもやりたいことがあるのか…。まぁかく言う俺も一直線に釣り竿を買いに行ったので人には言えないが。あぁそういうことか。漁業の街を選ぶくらいだから、みんな教会に行くよりもやりたいことがある訳か。閑話休題。
「貴方を見る限り、『星渡りの旅人』様は、1回の『死に戻り』ならお参りをしなくても大丈夫でしょう。言い換えるならば、既に1回の『死に戻り』は出来るよう女神様のご加護は受けているということです」
と、司祭様は穏やかな口調で答えてくれた。
「では、1度目以降は『死に戻り』のために、お参りに来ないといけない訳ですね」
「そういうことになると思います。私共も初めて知った情報ですので、1度目の『死に戻り』の際の旅人様にはお参りを勧めたいと思います」
ふむ。1度学んだことをすぐに次に活かす。仕事の出来る司祭さんだな。
このシステムだと言う事を聞かないで『死に戻り』しない旅人も沢山いそうだが、それは話を聞かなかった自分の責任ということなのだろう。
「教えてくれてありがとうございました」
と、俺の確認したかった旅人の『死に戻り』のことを聞けて用事は済んだのだが、せっかく教会に来たし、女神さんにお参りして俺は教会をあとにするのだった。




