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とある地質学者のVR①


「では、最後にリク。様がこの『星』に降り立つ最初の場所を決めたいと思います」

 すると、女神さんの隣に巨大な地図が出てきた。そして、女神さんは続ける。


「お選びいただく前にリク。様にお伺いします。リク。様は、この『星』でやりたいことや目標などはございますか? 具体的、抽象的、どのように答えても構いません。そのお答えによって降り立つ場所のアドバイスが出来るでしょう」


 ん? ということは、俺がやりたいことによって、そのことに関係した場所に降り立たせてくれるということか。いや、あの地図から察するに、☆マークが光っている所だけだろうな。一応、質問してみるか。


「女神さん。降り立つ場所は、その☆マークが光っている場所の範囲ということでいいのかな?」


「はい。概ねその通りですが、『星渡りの旅人』様の物凄い熱意や、降り立つ地点をランダムにするというのならその限りではありません」

 女神さんは、俺の質問に丁寧に答えてくれた。


 ってか、これ完全な運営の罠だな。降り立つ場所を決められるという状況でランダムにする奴は、なかなかのチャレンジャー、自業自得で良いんだが、こちら側の熱意で降り立つ場所を変えられるっていうのが何とも曲者だ。普通にゲームに慣れている奴ならみんな、地図上で☆マークが光っている場所が初期地点だと思いこんで☆マーク以外の場所へは行けないと勘違いするし、逆に、俺みたいな質問した奴は、女神さんの説明を聞いてからだと熱意は伝えられない。聞いた後に、熱弁しても白々しくなるだけだしな。それでも語る奴はバカか天然のどちらかだろう。運営も熱意とか考えたな。


 さて。これを踏まえた上で、俺はどうするかだが。結局、俺的には最初の降り立つ場所とか関係ないんだよなぁ。別にトッププレイヤーに成りたくてプレイする訳でもないしな。週に1度の仕事休みに息抜きでプレイするだけだからな。俺の職業では、遠出もあまり出来ないし、ゲーム内で気楽に過ごそうと思ってダウンロードしたからな。よし。


「女神さん。この『星』では、釣りが出来る場所はあるか? あと、モンスターをペットとして飼うことは可能か?」

 俺は女神さんに言葉を述べる。

 当初の予定通り、俺は釣りが出来て、ペットと一緒に過ごす。これが俺のゲームを始めた理由だ。釣りについては、CMで放送されていたから十中八九あるだろうが、モンスター、こっちでは『ゾディアック』か? をペットに、使役するなどは、ゲームによっても使用が違うからな。一応、聞いておかないと。CMでは一瞬それらしき人が映ってはいたが確定ではないからな。農場か牧場で牛っぽいモンスターと触れあっている映像もあるにはあったが、俺が求めているのは、そういう家畜的な奴ではなく、隣で相棒のように一緒に過ごせるモンスターだからな。


「はい。承りました。この『星』で釣りが出来る場所は複数箇所あります。と言いますのも、釣りが出来る定義を説明させて頂くと、基本、ある程度の大きさの水辺であれば生き物が生息しているので釣りが可能となっております。ですから、この『星』で釣りが出来る場所というのは多岐にわたります」


 お、おう。何やら釣りができる定義から話されたぞ…。これは俺の聞き方が悪かったか。この『星』って冒頭に付けちゃったから、この『星』、プレイ範囲の場所全体と女神さんが解釈したんだな。


「また、モンスターをペットとして飼えるかという問いにつきましては、可能です。そういうペット専門のお店や従魔ギルドでモンスターを購入することも出来ますし、野生の魔物を【テイム】することも出来ます」

 よし。モンスターをペット出来ることが確定したな。それにしても、ペット専門店や従魔ギルドでモンスターを購入か。この『星』では以外とモンスターを連れて歩くのは普通なのかも知れないな。


「以上のことを踏まえまして、リク。様に提案する場所は主に2か所です。まずは、1つ目。騎士の都『ペルセウス』。もう1つが、漁業が盛んな港街『アカシヤ』です」

 女神さんがそういうと、地図上の☆マークが2か所点滅した。


「騎士の都『ペルセウス』では、この『星』で1番の都ということもあり、流通している品物も豊富で撃っている釣り竿の種類も豊富です。また、先程説明しましたペット専門店や従魔ギルドもあるので、モンスターを購入することも可能でしょう」

 女神さんがまず説明したのは、内陸部、☆が十字に並ぶ真ん中の☆マークのだった。初期に光っている☆の中でもひと際大きい☆マークだ。

 まぁ地図で見ても☆の配置的に東西南北から品物が集まるだろうし、☆が大きいことからも他の☆より発展していることが予想出来るしな。最初の地点としては無難な場所だろう。


「また、漁業の街『アカシヤ』では、漁業の街という事からも分かる通り、漁業に関する道具などの流通量は一番です。釣り竿の種類も騎士の都『ペルセウス』より多いです。海も近いので釣れる魚の種類も豊富です。一方で、ペット専門店と従魔ギルドの規模は小さめなので購入出来るモンスターの種類も限られるでしょう」

 女神さんはそう説明し終えると、もう1つの点滅していた☆から指を下した。


 なるほど。これは俺が釣りを取るかペットを取るかの2択になる訳だな。釣りを取るなら『アカシヤ』で、ペットを取るなら『ペルセウス』か。


 ここは『アカシヤ』一択だな。ペットを取るにしても、初期にお金が掛かりそうだし、釣りでほどほどに稼いでからペットを探すということで良いだろう。


「お決まりになりましたか?」

 考えもまとまり首を上げると、女神さんは聞いてきた。


「漁業の街『アカシヤ』でお願いします」

 俺がハッキリと物言うと女神さんは。


「はい。かしこまりました。では、リク。様の降り立つ場所を『アカシヤ』に設定します」


「うん。よろしく」


「では、この星『アストラ』を自由に謳歌、お楽しみください。そして、願わくば、この星『アストラ』をお救い下さい。リク様の旅に祝福があらんことを」


 女神さんの最後の言葉に頷くと、俺の身体は光に覆われた。




 目を開けるとそこは、広場のような場所だった。視界にある建物はレンガ造りで風情がある。どこかヨーロッパの街並みを思い起こさせる。振り返ると、俺のすぐ後ろには、高さ5メートルほどの時計塔があった。


――――☆時計塔ホロロギウム。


 俺の視界の左上に小さいウィンドウが出てくると、数秒後に消えた。

 どうやら、この時計塔の名前を教えてくれたみたいだ。一瞬ポップ音が頭の中で響いたから何事だと思ったが、こういうシステムなのだろう。と見当付けて、俺はもう1度振り返る。


 さて。早速だが動き始めるとするか。


 どうやら、この時計塔の場所は俺たち『星渡りの旅人』の降り立つ場所となっているようだしな。俺は、辺りに次々と姿を現す半袖白シャツ、七分丈の茶色いズボンを着ている人たちを見てからそう決断する。これじゃあ、プレイヤーだと丸わかりである。かく言う俺もその1人な訳だが、これではあまりにも目立ちすぎる。俺は1人さっさと広場をあとにするのだった。




 『アカシヤ』という街は、どうやらイタリアのヴェネツィア辺りをイメージして作られているだろうという事が分かった。広場から少し路地に入ると、街中には水路が張り巡らされ、時たま水路をゆっくりと移動する小型のボートが行きかっている。もちろん、ボートにエンジンなどは付いていない。船主がオールで漕ぐタイプのボートだ。

 これが5分ほど歩いて思ったことだ。この異国情緒溢れる光景を見れただけでもこのゲームをプレイ購入した甲斐があるものだ。


 ちなみにだが、俺は今、絶賛迷子中であった。


 いや。面目ない。この異国情緒に酔って、調子に乗り過ぎました。はい。日本在住の俺がこんな知らない異国情緒溢れる街で、1人で行動したらこういう結果になることは目に見えていたのに。


「マジで大人げない。調子乗って迷子なるとか……」

 とりあえず、今は運よく見つけたベンチに座って状況の整理中です。


「ってか、ステータスも何も確認しないで、フラフラと歩いてたんだよな……お金でさえ持っているか怪しいのに…」

 マジで、何もせずに歩いているだけだったな。いや、それもこれもこんな美しい街並みを創った運営のせいだな。うん。絶対にそうだ。


「とにかく、『メニュー』っと」

 俺は視界の隅にあるアイコンを意識して、ウィンドウを出す。


☆----☆ メニュー ☆----☆


☆ステータス

☆所持金

☆ヘルプ


☆----☆----☆----☆-----☆



「マップはないか……」

 俺は書かれているメニュー項目を見て、ため息をつく。


「でも、まぁ所持金の項目があるってことは、少なくともお金はあるということだよな」

 俺はメニュー項目にある『所持金』の欄を指でタップする。


――――☆現在の所持金 3000スター


 ふむ。多いか少ないかは別として、心配にならない程度はあるな。そんな魚1匹の最低価格が3000Sとかではないだろう……ないよね?


「一応、ステータスも見てみるか」

 俺は所持金のウィンドウを閉じて、『ステータス』欄をタップする。


☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆


☆名前:リク。


☆ステータス☆

・体力:1

・魔力:1

・筋力:1

・知力:1

・魅力:1

・器用:1

・運 :1


☆スキル:なし


☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆



――――☆女神ユニスより、『旅の祝福』として、ステータスポイントが贈られました。なおこのポイントは、どの項目にも使用可能です。


 すると、ステータス画面が現れた直後に、ポップ音が響き別のウィンドウが現れた。


 現れたウィンドウには、赤いリボンで結ばれたプレゼントボックスの絵が上下に動いていた。

 俺がそれをタップすると、『3ポイントGET』と大きく表示されると、そのままステータス画面に『使用可能ポイント:3』と表示された。


 このゲームはステータスに上限があるため、簡単にはステータスを上げることは出来ないと思っていたが、最初に3ポイントも貰えるとは中々の大盤振る舞いである。


 さて、早速ポイントを割り振ってみるか? いや、ここは一旦保留とすべきか?


「ってか、まずこの状況どうにかすべきだろ!」

 絶賛迷子中なのだ。さっきからステータスを見ながらも、誰か通らないかと辺りを覗っているのだが、あいにくと誰も通らない。まず、ここから抜け出さない事には、何も始まらないのである。


「知力に振ったら、抜け出せるかな?」

 そんな考えがふと頭に過ぎる。ポイントは3ポイントあるのだ。知力に1振ってもあと2ポイントある……。



☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆


☆名前:リク。


☆ステータス☆

・体力:1

・魔力:1

・筋力:1

・知力:2

・魅力:1

・器用:1

・運 :1


☆使用可能ポイント:2


☆スキル:なし


☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆



 はい。振っちゃいました。


 結果ですか? 変わりません。迷子は知力で解決できないらしい。


「くそ……どうすんねんこれ…」

 俺はもう1度ベンチに座り込んで空を見上げる。もう自棄になって使ったこともない関西弁が出る始末である。


「おやまぁ。こんなところでどうしたの?」

 すると、俺の隣から少ししわがれた声が! 俺は慌てて視線を横に向ける。


 そこには、白い髪の少々お年を召されたご婦人が杖をついてこちらを見ていた。


「貴方が神様ですね!」


「え?」

 これが、俺の恩人ノンノさんとの出会いだった。



「いやーホントに助かりました。ありがとうございます」

 ノンノさんに導かれてメインストリートまでやって来れた俺は深々と頭を下げた。


「いえいえ。これくらい大丈夫よ。荷物も代わりに持って貰ったしね。それに『星渡りの旅人』さんは災害『メテオラ』から私達を守るために来て下さったんでしょ? それなら旅人さんを助けるのが私達の努めよ」

 ノンノさんはそう言ってその顔に刻まれたしわをにっこりと綻ばせた。マジでいい人や。


「いえいえ。そんな大そうな者ではありませんが、このリク。災害時には、必ずや受けたご恩を返したく思います」


「ふふっ。冗談だからそんな大袈裟に受け取らなくても結構よ。でも、リク君はこの街の地図を買った方が良いのは確かね」

 敬礼する俺を見て、ノンノさんは微笑みながらそう言った。


「はい。そうさせていただきます」

 ノンノさんのその言葉に、俺は頭を掻きながら答えるしかないのだった。



 ノンノさんと別れた俺は、アカシヤの街のメインストリートにある雑貨屋さんへと来ていた。

 そこには、日用品などを始め、コップやお皿などの雑貨や一部には服などの商品が並んでいた。


 そこで、俺は真っ先にと地図コーナーへと向かう。ノンノさんに言われた通りに地図を買うのだ。同じ過ちは繰り返さないほうが良い。


「アカシヤの街だけでもこんなに種類があるのか……」

 そこには、アカシヤの街の地図だけで凡そ5枚もの地図が置かれていた。

 手に取って見ると、アカシヤの街:北区、東区、南区、西区、港区とそれぞれ区域ごとに分かれていた。

 1枚300S。ちっ。いい商売してやがる…。


 結局のところ俺はすべての地図を購入した。代金は全部で2000S。1枚で500Sだったこの星の地図も購入した。


「ありがとうございました!」

 店員の言葉を背中で受けながら店を出ると。


――――☆地図を購入したことにより、メニュー項目に『マップ』の機能が追加されました。


――――☆1つの街の地図を完成させたことにより、『マップ』に『書き込み』の機能が追加されました。


 俺の視界に同時に2つのポップアップ画面が表示され、さらには、今購入した地図がすべて光となって消えた。正確には、光の玉となって俺の中に入ってきた。


「なるほどな。女神さんが他にも様々なシステムがあると言っていたのはこういうことか」

 やけに、メニュー項目が少ないなとは思ってはいたが、こうやって他のシステムは、俺たちプレイヤーが自分で探せということか。これは、なかなか面白いやり方だな。俺的には好みだ。こういう自分で発見して他の人よりも便利に有利にゲームを進められる。昨今のゲームでは、攻略サイトや掲示板などが乱立していて、みんながみんな同じようなプレイスタイルになりがちだからな。もちろん、効率良くゲームをしたいという人たちを認めないという訳ではないが、所謂ゲームだしな。仕事じゃあるまいし、効率を求められてもな。まぁ。この『土曜シリーズ』の会社は、攻略情報をほとんど漏らさないというから大丈夫だろうけどな。聞いたところによると、会社内の事業部の1つが、手当たり次第に自社製品の攻略サイトや掲示板を潰して回ってるらしいしな。情報が流出するのは、それこそリアルでの友達も範囲ぐらいだ。閑話休題。


 とにかく、このメニュー項目を増やすシステムは面白いなということだ。気長に探してみよう。


「えっと、メニューっと」

 そして、俺は再びメニュー項目を開く。


 確かに『マップ』という項目が追加されている。


「ふむ。購入したこの星の地図が最初に出てきたか」

 それは女神さんに見せて貰った地図と同じ地形の地図だった。


 そして、アカシヤの街の部分が光ってるな。俺はそこをタップしてみると。


「おお。アカシヤの地図が出てきたな」

 5か所の区域をズームで拡大したり縮小したりできるようだ。


「『書き込み』機能はどうなってるかなっと」

 俺は地図の右上にある鉛筆のマークをタップする。


「ふむ。『書き込み』機能は、建物や道路などの名前や特徴を書き込めるということか」

 うん。なかなか便利な機能である。高かったが全部の地図を買って正解だな。俺はさっそくこの道をメインストリートと書き込み、雑貨屋の建物に雑貨屋と書き込んだ。



 さて。次に俺が向かった場所は、港区にあるという釣り具屋さんである。ノンノさんから聞いた話では、このお店の店主が一番腕が良く、良い釣り竿を作るという。

 ノンノさんに聞いた道を思い出しながら地図を見て歩くと、今度は迷わずに釣り具屋さんに来ることが出来た。まぁ、メインストリートから港区に真っ直ぐ進んで、右に曲がるだけだったんだけどね。これなら俺でも迷わないぜ。というか、普段の俺は決して方向音痴ではないのだ。いや、ホントに。マジで。俺がさっき迷子になってた場所が複雑すぎるのだ。主に南区。地図で見ても路地が入り組んでいて大変なことになっている。あそこは絶対に他のプレイヤーも迷子になるに違いないのだ。うん。こんな入り組んだ路地を創った運営のせいだね。


 とりあえず、俺は地図に釣り具屋さんと書き込んでからお店へと入る。


「へい。らっしゃい!」

 ドアを開けると、目の前に顔に傷のついた強面の身長2メートルはあろうかという大男が立っていた……。


「あ、すいません、間違えました」

 俺は、咄嗟に回れ右をして店から出ていこうとする。


「ちょっと待て」

 が、唸るような低い声のその大男に、俺は首根っこを掴まれ店から出ることが出来なかった。


「ぼ、ボクは、た、タベテモおいしくナイヨ」

 俺は首根っこを掴まれながらも力尽くでここから逃げようとするも、大男はびくともしない。ちっ。これがステータスの差か。筋力値を上げとけば良かったぜ。


「誰が人を喰う化け物だ」

 俺の言葉に強面の大男は、チョップをしてきた。


「いてっ!」

 くそー。今絶対にHPが削られたに違いない。あれ? このゲームHPバー的なのあったけ?

 まぁ。それはさておき。


「お、俺に何の用ですかっ?」

 ようやく、俺を手を離してくれた男性に向かって、俺はへっぴり腰で立ち向かう。


「何の用って、人の店に入るなりお前が逃げ出したからな……」


「お、俺はただ釣り竿を買いに来ただけなんだ。まさか、間違ってヤ〇ザの家に入ってしまうとは……」


「誰がヤ〇ザだ」

 俺が説明すると大男から再びチョップが飛んできた。


「いてっ!」


「もう! ダーリン! うるさいで!」

 

「す、すまん」

 そこに、奥の扉をドンッ! と開いて、ナイフを持った女性が登場。

 キャー! 姉御タイプの親玉の登場や。こ、ころされるー。




 結論から言うと、ここは間違いなく釣り具屋さんでした。えぇ。まぁ。途中から薄々気付いていたんですけどね。ゲームの世界にやのつく方々がいらっしゃるはずないでしょうし。というか、20XX年という現在そういう方々はもうほとんどいません。情報化の社会です。セキュリティーも段違いに上がっています。今の日本で悪いことしようものなら分単位で捕まります。監視カメラが至る処にあるので、犯行の瞬間から警察が動き出し、逃走経路などをコンピュータが即座に計算。自動運転の普及により交通の妨げなくパトカーも走り出します。閑話休題。


「そんで。うちのダーリンがかんにんなー。こんな顔してるさかい、ようお客さんに逃げられんねん」

 と、ダーリンである大男…ウォーモさんの顔をぺちぺちと叩きながら、謝ってくるウォーモさんの奥さんであるドンナさん。ドンナさんは、その道で有名な釣り竿職人であるらしく、ナイフを持って現れたのは、木を削っていたからだそう。


「いえ。こちらも悪かったですし……」

 謝るドンナさんに、こちらにも非があることを伝える。途中から分かってて悪乗りしてたし……。


「いや、いいねん、いいねん。全部ダーリンの顔が恐いせいやし」

「す、すまん」

 と相変わらずぺちぺちと叩きながら言うドンナさんに、されるがままのウォーモさん。


「は、はぁ」

 それを見て俺はただただ頷くしかない。


「そんであんた、うちに何か買いに来たんやろ? 何買いに来たんや? お詫びにまけさせて貰うで」


「そういうことなら……」

 と、俺は釣り竿を買いに来たという旨を伝えた。


「へぇー釣り竿か。他にも売ってるとこ、ぎょうさんあんのに、よう、うちを見つけられたなー。よっしゃ! いっちょ。最高傑作の釣り竿を用意したるわ」

 と言って腕まくりしながら店の奥へと行こうとするドンナさん。


「す、すみません。お金は1000Sしかないんです。そんな高級なものを出されても困ります」

 そんなドンナさんを慌てて止める俺。いやいや、マジで。高級な釣り竿とか出されても買えないから!


「さいか」

 俺の言葉に動きを止めるドンナさん。


「でも、あんた。1000Sで、よう釣り竿を探しに来たな」


「いや、それはですね…下見と言いますか…」

 あわよくば、買えるかなと。ほらゲームの世界ですし…。


「なんや、その下見って。普通に考えて1000Sで釣り竿が買える訳ないやろ。そんな年で物価も知らない訳やあらへんし」


「いや、その知らないんです……」


「物価を知らないやと!? なんや、あんた貴族様か? いやでもそんな風には見えへんし」

 口ごもる俺に、目を細めて俺を見定めるドンナさん。


 いや、何もすぐに否定しなくてもいいと思うんですが。確かに白シャツ茶色ズボンと貴族には見えない格好だけどさ。


「ハ、ハニー。たぶんこいつは『星渡りの旅人』だ」

 すると、今まで黙っていたウォーモさんが助け船を出してくれた。


「そ、そうなんです! 俺はその『星渡りの旅人』なんです」


「『星渡りの旅人』? あー確か災害に協力してくれるちゅう旅人のことか」


 そうです。私がその旅人です。変なおじさんではありません。


「そういうことなら、物価を知らないのも当然やな…」

 納得してくれたみたいで何よりです。


「でも流石に1000Sの釣り竿はうちにはないなぁ」


「で、ですよねー」

 そう言われたら、そうとしか言えない俺。それがお金を持っていないお客さんのリアクションです。

 

「そや! あんたのお古があったやろ。あれを売ってあげるってのはどうや?」

 名案を思い付いたとばかりにポンッと手を叩いて、ウォーモさんに向き直るドンナさん。


「え? でもあれは俺が初めて買った釣り竿で……」


「ごちゃごちゃ言わんでよろしい! どうせ今は使うてへんやんか。釣り竿も使われた方が嬉しいやろ。はよ持ってこんか!」


 いや、いいのか。それで……。


 その後、ウォーモさんが涙を流して説得したり、ドンナさんがそれに心打たれたりと色々あったが、俺は念願の釣り竿を手に入れることが出来た。もちろん、ウォーモさんのお古ではない新品のやつだ。あんな涙を流されてまで思い入れのある釣り竿を使える訳がない。2万Sほどの良い釣り竿をウォーモさんに借金するという形で手に入れることが出来た。利息なしで。俺が『星渡りの旅人』ということもあり、返済の目途はあるだろうとのことだ。代金を代わりに支払ってくれるとは、そんなに手放したくない釣り竿だったらしい。何でも、ドンナさんがウォーモさんに初めて作った釣り竿だとかなんとか。いや、ドンナさんもそんな大事なもんを人に売ろうとするなよ。とにかく、2人に俺が言いたいことは、爆発しろ! の一言である。




 という訳で、俺は買ったばかりの釣り竿を持ってアカシヤの街の港に来ていた。


 港には、大きな帆船や小さいボートなどが停泊していたり並べられていた。そして、流石漁業の街というだけあって、港は活気に溢れていた。メインストリートよりも人が沢山いる。船から積み荷を降ろしたり、牛や馬型のモンスターに荷物を括り付けて移動したりしている。


 俺は仕事の邪魔にならないようにと、港の端っこの方へと行き、海に向かって1人釣り糸を垂らす。


――――・オルカの釣り竿☆☆


 オルカという名前の通り白と黒でデザインされた竿は、海のギャング、シャチを表しているこの釣り竿は、ドンナさんが言うに、使用者の技量によって幅広い種類の魚が釣れる代物らしい。そのため釣り初心者から上級者まで幅広い層に人気がある竿らしい。



――――☆アジ GET!!!


 ほんの数秒で竿が引かれたので、リールを巻いてみると初の獲物をゲットした。ちなみに、エサ無しである。流石ゲーム。


「さて、困った」

 だが、ここで問題が発生した。釣り上げたアジを仕舞うことが出来ないのだ。

 このゲーム……アイテムボックス的なものはないのか……。もしくは、地図システムのように自分で見つけるパターンかな。


「どちらにせよ。魚を入れるバケツぐらい買っておけば良かった」

 あ、その前にお金がないのか……。ちっ。これが八方塞がりというやつか。


「にゃー!」

 これは一刻も早く、冒険者ギルドに向かうべきだな。主に、金策のために。

 俺は釣ったアジを近くにいた猫にあげてギルドに向かうのだった。



「そこの釣り竿を持っているお兄さん!」

「ちょっと僕たちとお話しませんか?」


 時計塔広場から北区へと繋がる大通りにギルドはあった。

 だが、ギルド目前で2人の若い少年らに絡まれてしまった。見たところ俺と同じ旅人プレイヤーのはずだが……。まさか、おやじ狩りか!? 俺もそんな年になってしまったのか……ちょっと悲しい…ぐすん。


「あのーお兄さん聞いてます?」


「あぁ、すまんすまん。それで俺に何の用だ。おやじ狩りか? 金なら持ってないぞ」

 こちとら絶賛、借金中である。おやじ狩りする相手を間違えたな。少年たちよ。


「いや、違いますよ!! それに、今の時代におやじ狩りって…」

「僕たちは、ちょっとお兄さんとお話がしたいだけです」


 ふむ。確かにそうだな。今の時代におやじ狩りなんて難しいか。


「それで、話とはなんだ?」


「はい。話というのはですね。単刀直入に言いまして」

「お兄さん。僕たちと一緒に海人うみんちゅになりませんか?」


「はいー?」




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