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とある忍者のVR①

 

「お選びいただく前にヒイラギ様にお伺いします。ヒイラギ様は、この『星』でやりたいことや目標などはございますか? 具体的、抽象的、どのように答えても構いません。そのお答えによって降り立つ場所のアドバイスが出来るでしょう」



『ユウトよ。柊家の先祖はな、代々忍者の家系だったのじゃよ――――』



 女神さんにやりたいことを問われた俺は、何故か去年111歳で亡くなった曽祖父の言葉を思い出していた。思えば俺は小さかった頃、曽祖父とよく遊んでいた。おじいちゃん子ならぬ、ひーおじいちゃん子だった。医療が進んだ現在社会は超々高齢化社会となり、定年は70歳まで引き上げられていたので、働いている両親や、まだ定年していない祖父母よりも俺はいつも家にいる曽祖父と過ごす時間が長かったためだ。

 俺の記憶に残っている曽祖父は、忍者が大好きだった。その頃の俺は本気で家の先祖が忍者だと思っていたくらいには、事あるごとに忍者の話を曽祖父としていた。年齢を重ねるにつれて、うちの家系は忍者の家系ではないことが分かってはくるが、それでもたまに帰省して曽祖父と話す忍者の話は好きだった。死ぬ前に悪ふざけで作ったであろう、うちが忍者であるという家系図が遺書と一緒に見つかったときには、家族全員度肝を抜かれたが、キチンと調べた結果、家系図が作り物だったと分かった時は、家族全員怒るどころか呆れたものだ。俺はそれを知って1人大爆笑したが。あの人は死ぬ間際まで忍者のことを考えていたのだ。いや、血は忍者ではなくとも心は忍者だったのかも知れない。


 女神さんからこのゲームでやりたいことを聞かれた時、何故か俺はその曽祖父の言葉を思い出した。


 ということは、そう言うことなのだろう。


 俺もやっぱり曽祖父と同じ血を引いているということだ。いいじゃん。どうせゲームの中なのだ。どんなプレイをしようが俺の勝手だし、俺自身が楽しめればそれでいい。じいちゃん。俺、じいちゃんの憧れていた忍者になるよ。ゲームの中だけど、そんなの関係ないだろ?


 ということで、忍者になるのに、まずは必要なことを整理してみよう。女神さんの言い方から察するに、俺がどんなプレイをしようと女神さんは肯定して俺にあった初期地点を決めてくれるだろう。ということは、俺が具体的に答えれば答えるほど女神さんはその条件にあった場所を探してくれるはずだ。

 よしよし。じゃあ、忍者に必要なものはと言えば……。まずは、黒装束に黒い頭巾だな。形から入るのは大事だろう。それに、刀は必須だな。あと手裏剣やクナイも欲しい。他に忍者と言えば…ちょっとアニメっぽくなるが忍術とかか? いや、それはCMで魔法を使うシーンがあったので、魔法で代用できそうだな。うーん。他にパッと思いつくことは……ないな。よし、とりあえずはこれでいいか。


「女神さん。どこかに黒装束と黒い頭巾を売っている場所はあるかな? 無かったら最悪黒い服でもいいけど。それと、刀と手裏剣を売っている場所も教えて欲しい。あと魔法を覚えられる場所も知りたい。ちょっと欲張りな聞き方だと思うけど頼むよ」


「はい。承りました。衣服に関しましては、この『星』にヒイラギ様が仰る物を販売されてはいますが、最初に降り立つ場所の中では販売されておりません。黒い服に関しましてはどこの服屋でも大抵の場合販売しております」


「刀に関しましては、騎士の都『ペルセウス』か商業が盛んな街『イカリヤ』で一部販売されております。また手裏剣に関しましては、最初に降り立つ場所の中では販売されておりません」


「魔法に関しましては、冒険者ギルドか教会があれば教えてくれるので、どこの場所にも降り立つことは可能です」


「以上のことを踏まえまして、ヒイラギ様に提案するのは、騎士の都『ペルセウス』でございます。服屋もあり、刀も販売されており、冒険者ギルドと教会の両方があるので魔法を覚えることも出来ます」


 女神さんは、俺が欲張りな聞き方をしたのにも関わらず、1つ1つ丁寧に答えてくれた。


「また、ヒイラギ様の目的を達するために、北へ向かうことをお勧めします。そこでヒイラギ様の求めるものが手に入ることでしょう」


「何から何までありがとう。では、そのように頼むよ」

 こうして、俺は騎士の都『ペルセウス』を最初の降り立つ場所へと決めた。


「では、この星『アストラ』を自由に謳歌、お楽しみください。そして、願わくば、この星『アストラ』をお救い下さい。ヒイラギ様の旅に祝福があらんことを」




 騎士の都『ペルセウス』は、西洋風の街並みで俺が思っていた以上にとても活気があり、人も多く行きかい豊かなところだった。通りを歩いている人の中には、黒いローブを着た魔法使いっぽい人であったり、腰に剣を帯刀している冒険者のような人であったりと様々な格好をした人が歩いていた。やはり、この風景を見るとファンタジー世界に来たのかと思わせられる。中でも、騎士の都というだけあって、白い鎧を着た2人組の騎士を見かけたときは素直にかっこよかった。おそらく、パトロールでもしているのだろう。


 俺はさっそくだが、服屋の場所を道行く人に聞いて、フード付きの長そでのピチッとしてある程度動きやすそうな黒い服と同じく動きやすそうな黒い長ズボンを購入した。お金はこの星に降り立った直後にメニューから確認していたので問題ないが、服は少しだけいい物を買ったので残金は少し寂しくなってしまった。


――――☆現在の所持金 800スター


 最初の所持金が4000Sだったので、服の上下で3200S使ってしまった計算でだな。序盤にしては少々高い買い物だったがまぁ良いだろう。これからギルドにでも登録してクエストを受ければいいだけだ。


 俺は、また通行人にギルドの場所を聞いてギルドへと向かった。


 冒険者ギルドで登録を済ませた俺は、さっそくだが手頃なクエストを数個受けて、昼までには1500Sを稼ぎ出していた。


――――☆現在の所持金 2300S


「意外と稼げるもんだなー」

 俺は道中、移動しながらウィンドウを見て呟く。特に、クエストを何個も掛け持ちして受けられるのが大きかったな。一気に引き受けて同時進行で作業が出来るからな。配達系のクエストなんか近場だったら同時に解決するし。あ、あと俺と同じようなプレイヤーが、今はギルドで行われている講座なんかを受けているのも大きいだろうな。でも、忍者を志す俺としては、あまり関連性のある講座は無かったんだよな。まぁ気が向いたら受けてみるってことでいっか。



「おっ! あったあった。ここが宿屋だな」

 そして、俺は目的の場所へと辿り着いた。

 忍者と言えば、夜間人が眠っている時の隠密行動! という考えのもと、まだお昼を過ぎた辺りなのだが、俺は夜間に行動しようと、今日の日中での行動はもう辞めて夜間に備えて眠ることにしたのだ。最近のVRゲームでは睡眠のパラメーターが導入されていることは少なくないからな。俺は宿屋で1室借りてさっそく眠りにつくのだった。




 深夜…ではなく夜の午後8時。

 起床した俺は購入した黒い服を身に着けて、宿屋を出た。本当は深夜にこっそりと宿屋を抜け出したかったのだが、バレてしまっては言い訳の仕様がない、泥棒などと間違われも困るので、宿屋さんに迷惑を掛けない日が完全に沈んではいるが、街はまだ活気があるこの時間帯を選んで出かけることにしたのだ。


 街道を歩きながら、俺はサッとその身を闇夜に紛らせ路地裏へと入る。


 ここで、知り合いにでも見られたら羞恥心という精神的大ダメージを受けることになるが、ここはゲームの世界。ましてやアバターで本人とは分からないので問題はない。


「さて。どうしようか…」

 忍者らしく路地裏に入ったもののすることはない。

 うーん。何か忍者らしいこと落ちてないかなー。と俺は暗い路地裏で1人考える。


 すると、黒い猫が俺の足元を横切った。いや、尻尾が3つ股になっているのを見るにこいつもモンスターか。ただ、普通の野良猫よろしく、こちらをただ一瞥すると、路地裏のパイプを伝い雨樋によじ登ると民家の屋根の上へと消えていった。


「これだ!」

 俺はその猫の一連の動きを見て思いつく。

 忍者は何処にでも忍び込むことが出来るから忍者のはずだと。さながら、今見た猫のように、パイプや雨樋を利用しながら移動することは忍者にとって自然に出来なければなるまい。という訳で、俺はさっそく今猫がやって見せたことを真似しようとした。


「よし…」

 ひとまず、俺はパイプの位置や雨樋の位置を確認して、どのルートで屋根まで登るかをイメージする。


「いざ、参らん!」

 俺はまず猫がやったようにパイプに足を掛ける。それから、民家の雨樋に手を掛けて、そのままよじ登る。こっから猫は向かいの屋根にジャンプしていたが…俺には無理だな…。という訳で俺は今乗っている雨樋の民家の屋根を目指すことにした。こんなことってゲーム内だから出来るんだよな。そう思いながら手の力だけで身体を持ち上げる。


「ふぅ。以外と出来るもんでござるな」

 屋根に座り込んで俺は今登ってきた場所をチラッと見る。5メートルほどの高さしかないが、普段は出来ない出来事であるせいか心にちょっとした達成感もある。


「次は降りる作業でござるな…」

 と自分で言ってみたものの、出来るかなと少し尻込みもする。登るのは意外と簡単なものなのだが、実際降りる作業の方が恐いのだ。まぁ、ゲームの世界だ。ミスっても復活は出来る。俺はそう自分に言い聞かせて、今登ってきたルートを逆に降りていくのだった。


――――☆スキル【身軽Ⅰ】を獲得しました。


 3回ほどこういった裏路地の壁を見つけては、登り降りの訓練をしていると予想外なことにスキルを獲得した。


☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆


☆名前:ヒイラギ


☆ステータス☆

・体力:1

・魔力:1

・筋力:1

・知力:1

・魅力:1

・器用:1

・運 :1


☆使用可能ポイント:4


☆スキル:【身軽Ⅰ】


☆----☆----☆----☆----☆----☆----☆


――――☆初の【スキル】獲得により、ステータスポイントが贈られました。なおこのポイントは、どの項目にも使用可能です。


 詳細な効果は分からないが、十中八九、身軽さが上がるなど動きに補正がかかるスキルだろう。



「この辺で壁登りは終わっておくか…」

 【身軽Ⅰ】スキルも手に入ってキリが良い所だしな。あと、そろそろ巡回している騎士さん達に見つかりそうで恐い。さっきも咄嗟に屋根に潜んだことで事なきを得たが、見つかったら見つかったで言い逃れが出来ないからな。


『君。人の家の屋根に登って何をしてたの?』


『いや、あの俺はただ忍者になりたくて、その真似をしていただけなんです』


 うん、怪しさマックスである。俺が騎士さんだとしてもそんな奴はすぐ捕まえるね。もしくは任意同行。


 という訳で、俺は騎士さんに捕まらないうちに、壁を登ることは辞めて、街の外でモンスターとの戦闘でもすることにした。



 という訳でやってきたのは、ペルセウスの街の東側『エクレウスの草原』という場所。

 街から出ていく際に、門番の騎士さんに声を掛けれらた時は、ちょっとドキッとした。いや、断じて悪いことはやってないですけども。ただ、騎士さんはこんな夜遅くから街の外に出るのは危ないぞと親切心から俺に注意をしてくれただけだった。その親切心を無下にするようで悪いが、俺は大丈夫です、ちょっと行って戻ってくるだけですから、と言葉を返して街の外に出たのだ。


 さて。街の外に出たのは良いが、俺は大きなミスを犯していることに気付いた。


「俺、武器持ってないんだった……」

 くそ。とんだおバカさんである。


 モンスターと戦うのに武器を持ってこないとは。


 騎士さんも俺に声を掛けた時点で、一言くれれば気付いたのに…。ってそうか。この世界、魔法のカバンという便利な物があるおかげで、俺が例え手ぶらでもカバンを背負っているなら武器ぐらい持っていると勘違いしたわけか…。


 でも、流石にこの時間から武器を買いに行くわけにも行かない…というか、まずお店が開いてないだろう。今ならまだモンスターにも遭遇していないし、引き返すことも出来るのだが騎士さんに大丈夫ですと啖呵を切った手前、何もせずに戻るのは恥ずかしい。


「くそ…どうしようか」

 俺は草原に引いてある一本の道を歩きながら考える。ここではまだ門番にいる騎士さんから見えるので引き返すという選択肢はないし、立ち止まることも相手に疑問を抱いてしまう可能性もあるのでとりあえず歩くしか方法はない。


「いや、まてよ。忍者なら素手で敵を倒すというのもありじゃないか?」

 ほら、絶体絶命の時、最後の武器は己の身体! てきな感じだ。


 うん。これは名案だな。じいちゃんとチャンバラごっこをやることも多かったが、素手での戦いをしたこともあったはずだ。もう小学生の時の話なのと、言葉の後ろには「ごっこ」とは付くが、戦いは戦いである。


「よし、それでいくでござる!」

 これで武器が無いという問題は解決したな。うん。



 と、俺が戦闘スタイルを決めて、割とすぐにこのゲームで最初の敵が現れた。


「ガァー!」

 それは白いアヒルであった。ただ、アヒルにしては少し体長が大きく嘴も尖っていて目もギラギラとしていて、如何にも悪そうなモンスターという見た目のアヒルであった。


「ってかアヒルって夜行性なのか?」


「ガァー!」

 と、俺の疑問に答えてくれるはずもなく、そのアヒルは俺に向かって来た。



――――《SharpPeck》


 すると、アヒルあるまじき早い走りで俺に向かって来る途中、俺の視界隅に一瞬ウィンドウが出て消えると、直後にアヒルの嘴が青いエフェクトを纏った。


 俺はそれを見て瞬時にこの攻撃は受けてはならないものだと判断する。


「ガァー!」

 アヒルが嘴を突き出しながら俺に飛び込んで来る直前、俺は持ち前の身軽さで横に思いっきり跳んで避けた。


 前転をしながら受け身を取った俺は即座に立ち上がり、通り過ぎっていったアヒルを確認する。攻撃が不発に終わったからか、アヒルの嘴が纏っていた青いエフェクトは消えていた。


 さて。またアヒルとの距離が出来たのはいいが困った。


 じいちゃんとの戦いごっこは良くしてたけども、今更だが、あれって相手が人の場合なんだよなぁ。モンスターを相手に戦ってねぇんだわ。うわぁ、マジでどうしよう。


「ん?」

 だが俺はここで、じいちゃんのある言葉を思い出した。


『ユウトよ。忍者たる者。いつでも冷静に物事を考えるのじゃ。それは、例えどんな事が起こったとしてもじゃ。冷静に物事を考えることで、どんなことでも道は開けるのじゃ』


 いや、まずじいちゃん忍者じゃねぇじゃん。と、ツッコミたいところではあるが、ここはじいちゃんの言う通りだ。冷静に考えて相手に勝てる方法を考えようか。


 俺は相手の動きを観察しながらも、頭の中で必死に考える。


 まず、俺の攻撃は相手の近くに行かないと当たらない。だが、それはアヒルも同じはずだ。遠距離攻撃を持っているのなら、最初の時点で使用していたはずなのだ。遠くからわざわざ走って俺に当たりにきたということは、あのアヒルは遠距離攻撃を持っていない可能性の方が高い。


 となると俺の取れる行動は……。


 そう考えた時点で俺は走りだしていた。逃走するのではない。アヒルに向かってだ。


 急に動き出した俺は予想外だったのか、アヒルは一瞬驚いて身体を硬直させる。その間も俺は草原を踏みしめ駆け抜ける。


「ピーケーーーー!!」


「シュートでござる!!!」

 俺はその動かないアヒルに向かってそのままサッカーボールよろしく蹴りつけた。


「グァ!」

 アヒルは俺に蹴られた衝撃で身体から大量の粒子エフェクトを輝かせながら、そのまま地面を転がっていく。


 だが、俺としても、これでまだ倒せると思ってはいない。俺はアヒルの倒れている場所へとそのまま駆けていく。


「瓦割りでござる!!!」

 俺は手でチョップの形を作り、トドメとばかりに振り下ろした。


 すると、バリンッ! とガラスの割れるエフェクト音が鳴り響いてアヒルの身体は粒子となって砕け散った。これで俺の勝利である。


「あれ?」

 だが、エフェクトとなって砕け散ったはずのアヒルの身体は、何故だがまだ俺の足元に残っていた。


「半透明であるから倒したことにはなっていると思うけど……?」

 俺はその半透明化しているアヒルの身体におそるおそる手を近づける。


「うぉ。なんだ、普通に消えるのかよ」

 俺がもう一度触れると半透明化していたアヒルは、今度こそ溶けるように消えていった。

 だが、そこには決定的なものが1つ。それは、鳥の羽のようなものだった。おそらく、ドロップ品だろう。


――――・アヨルの羽。


 手に取ってみて現れた説明書きはそれだけだった。ってかアヨルって。アヒルの夜バージョンとでも言いたいのか。


「まぁとりあえず、カバンに入れとくか」

 こうして、俺の初戦闘は怪我をするのでもなく、無事に終了したのだった。


 あとで、調べてみたところ『アヨルの羽』は、クッションの材料に使われたり、装飾品に使われたりする素材アイテムだった。買い取り価格は10本で100S。もちろん、1本だけの買い取りはしない。うん。ふざけてやがる。10本集めるまでの間、当分は魔法のカバンの肥やしになることが決定したのだった。




――――《SharpPeck》


 と、アヨルが突撃してくるのを俺は横に側転しながら避け、身の流れのままロンダートで体制を作り、バク転を決めて身構え相手の位置を確認する。

 ふぅ。高校の体育以来、バク転なんてやったことは無かったが、やっぱりここはゲームの世界。やってみようと思えばできるもんだねぇ。


 初戦闘から4匹目のアヨルに攻撃を加えて戦闘を終わらせる。


「うん。もうこれでだいぶ戦闘スタイルも固まってきたな」

 俺はドロップ品であるアヨルの羽を拾いながらそう実感する。


 あのあと、ぶっつけ本番で色々と試してみた結果、俺の戦闘スタイルは、もち前の身軽さを活かしたアクロバットな動きでアヨルの攻撃を避けながらすぐに体制を立て直し、まだ体制を整えきれてないアヨルへと近寄り攻撃を決めるという一連の流れが出来ていた。

 まぁアクロバティックな動きはこの世界がゲームということが大きい要因なのだが。アバターの身体では、身体的な衰えが一切関係ないのだ。それによって、頭の中でイメージする動きをそのまま再現できるというのがこれまた嬉しい。ここまできたら、マジで壁走りぐらいは余裕で出来るのかもしれないと調子に乗るぐらい身体がスムーズに動くのだ。


「今まであまり動く系のVRゲームはやってこなかったけど、これはこれで楽しいもんだな」

 と、簡単には言うが、これはひとえにこんな緻密な再現度のゲームを作った会社も凄いんだがな。

 何にせよ、これで俺はまた一歩忍者に近づけた気がするな。


 さて。夜はまだまだこれからなんだが、そろそろ、門番の騎士さんが心配する頃だろう。


「今日はもう一度戻って、夜の街の散歩でもするか」

 俺はアヨルを5匹倒したところで、戦闘の実験を終えたのだった。




 街に戻った俺は、冒険者ギルドに未だ明かりが灯っているのを見てビックリした。


 先程、西の門にある時計で時間を確認した際に、もう既に夜の1時は回っていたはずだ。


「まさかの24時間営業かよ…」

 今どき、コンビニでも深夜営業なんてしてねぇよ。営業してたとしても、そこは取った商品を自動で決済してくれる無人コンビニかロボットが接客するコンビニぐらいである。


 と、異世界のブラック企業ぶりを感じながらギルドに入ると、割と昼と変わらないぐらいの職員さんの数がいてこれまた驚いた。この世界の人すげぇや。と言っても昼と同じように、冒険者がいるという訳でもなくあちらこちらにポツリポツリといるだけであった。そして、その冒険者たちの視線は、ギルド内のある一箇所に集中していた。



「ねぇお願いだよ! クエストを出してよ。お願いします!」

 深夜の時間帯なのにも関わらず、小学生ぐらいの男の子が1人、カウンターの方で騒いでいるのだ。


「ねぇお願い! 僕のお父さんを探しておくれよ! 今日の昼からもうずっと帰って来ないんだ! お願いします。僕の全財産持ってきたから! これで何とかお願いします……」

 その男の子は、顔をぐしゃぐしゃに歪め、けれど、目に浮かぶ涙を絶対に零さないようにしながら必死にギルド職員さんに訴えている。


「ラガ君。落ち着いて。貴方の心配な気持ちは良く分かるわ。だけど、貴方のその依頼は受けられないの。貴方のお父さんがクエストに失敗した今、他にこのクエストを受けられる人は誰もいないのよ。だけど、大丈夫。明日の朝になれば第4騎士団と他の高ランク冒険者が帰ってくるわ。そしたら、すぐにその人たちに頼むわ。だから、ラガ君心配しないで」

 と、ギルド職員さんは今にも泣きそうに訴える男の子をなだめるも、男の子も頑としていう事を聞きそうにはない。

 俺は男の子に対応している人とは違う別の職員さんを捕まえて、ことの詳細を聞いてみる。


 すると、職員さんも男の子に同情しているのか、ペラペラと事情を話してくれた。


 なんでも、その男の子の父親はBランクでも上位というこの街の冒険者であるらしいのだが、今日の昼にクエストに向かったきり、それから一切の連絡が無くなったのだという。ただ、それだけのことなら冒険者として一般的にも良くあることなのだが、あの男の子の母親は病気で早くに亡くなっており、その父親が男手一つであの子を育てており、近年、その父親が遠出のクエストを受けることは無く、絶対にその日のうちには帰ってこれるクエストしか受けなかったのだという。近所でも優しく真面目なお父さん、ギルドでも強くて実績のある冒険者として有名な人なのだと。そんな彼がクエストを受けたまま帰って来ないということと、彼が受けたクエストの内容も相まって、今ギルドでは極めて異常な事態として対応しているのだという。

 そのクエスト内容とは、他の冒険者の救出。つまり、クエストに失敗した冒険者を救出するというクエストだ。『死に戻り』が存在するこの星で、それは極めて特殊な状況だと言える。『死に戻り』が存在することで本来ならば、クエストを失敗しようともHPが0になった時点で、最寄りの教会に自動転移されられるのだ。要するに、この星の『救助クエスト』とは、何らかの事情で『死に戻り』の出来ない、もしくはさせて貰えない状況にあるという事で、それは大抵の場合、そこらの…並みの冒険者では対処出来ない事態が発生しているということである。ギルド側もそれは十分承知しており、A級以上の冒険者またはB級でも実績のあるパーティーなどにしかそのクエストを発行しないし、手に負えないとギルド側が判断したのなら早々に街の騎士団に掛け合い、十分な厳戒態勢で望むクエストになるとのことだ。

 また、今回の件でさらに、それらの事態を重くしているのは、その父親がB級ランクの冒険者、もっと言うなら、本人の実力はソロでもA級の実力はあるだろうと言われている、その冒険者が帰って来ないという事実だ。これはA級の冒険者でも対応出来ない、または、A級の冒険者でも対応が難しい事実を突きつけていた。

 そして、不幸とは重なるもので、今現在、この星は災害『メテオラ』への各種準備や対応で忙しく、本来この街『ペルセウス』を拠点としている騎士団やA級以上の高ランク冒険者は軒並み出払っているのだという。



 話をしてくれた職員さんにお礼を言い、俺はギルドの出口へと向かう。

 そのあとの行き先はもちろん――――。


「あんた。あの子の父親を助けに行くんなら辞めときな」

 だが、俺がギルドから出ようと扉の方へ歩いていくと、そんな声と共に前方の行く手を阻まれた。


 茶色の革鎧を着た筋肉質の小柄な男だ。


「あの子の父親はソロでBランクという凄腕の冒険者だ。そんな奴の達成できない依頼なんてそれこそ死にに行くようなもんだ」

 俺の行く手を阻む男は、その見た目に合ったドスの利いた低い声で俺に言う。


「それは行ってみないと分からないだろ?」

 俺はそんな男に意も返さず答える。


「はっ! 口だけは威勢がいいようだが…あんた。星渡りの旅人だろ?」


「それがどうしたんだ?」


「失礼だが、旅人さんは最初ステータスもオール1。スキルも持っていないというじゃないか。そんなこの星に昨日今日来たばっかりの奴が助けに行こうたって無理に決まってる」


「俺のステータスが例え低かろうと、何処に行って何をするかは俺の勝手だ。それに何も出来ないっていう訳じゃない」


「返り討ちにされて死に戻るだけだって俺は言ってるんだよ…。C級の俺らでさえ助けに行けないんだ。それが規則なんだよ! あんまり調子のんじゃねぇぞ小僧……!」

 その男の怒気を含んだ低い声は、シンと静まり返った建物全体に響き渡った。


「規則が何だ? クエストが発行されないから何だ?、助けを求めている人がいるのにも関わらず、ただ黙って傍観するのが冒険者だと言うのなら……」


「俺はそんな冒険者になんかなるのはごめんだね。そうやって縛られて生きるしかないのなら、こっちからこんなギルドなんて辞めてやるよ」

 俺はそう言い残し、扉の前に立つ男の横を通り抜ける。


「……」


「それに、あんたも本当は助けに行きたいんだろ?」

 俺は扉を開ける際に、男の耳元でそう呟く。


 俺の言葉を聞いて、その男の瞳孔が一気に開く。


 はっ! バレバレなんだよ。そんなに助けに行きたいなら行けばいいんだ。弱いからって何だ。規則だからって何だ。人を助けるのに、理由なんていらねぇんだ。そんな事、現代の安全で平和な世界でヌクヌクと育った俺でも知ってるんだ。こんなモンスターのいる危険な世界の、人と人同士が支え合わなきゃ暮らしていけない世界の住人が何を忘れてるんだか…。


 そして、俺がギルドから出ようとすると……。


「ちょっと待てや!!!」

 俺の後ろで低くてはっきりとした男の声が聞こえた。


 そうだろう……そう来なくっちゃな。



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