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夏服になった私は豊胸したい 2

 タダさえ引っ越して来なかったら、もしかしたら私とヒロちゃんはもう少し距離が近いままだったかもしれない…だってヒロちゃんは、『ユズはオレのおもしれえ話もおもしろくねえ話もちゃんと聞いてくれるから、ユズと話すのは好きだ』って言ってくれていた。だからたまに一緒に下校する時もいろいろな話をしてくれた。家族の話もいっぱいしてくれた。

 女子の私がヒロちゃんと仲良くしていても誰も冷やかして来たりしなかったけれど、それはヒロちゃんがみんなに良い感じで誰にも嫌われていなかったからだと思う。


 …あの頃私はヒロちゃんの彼女だったよね…

 誰からも、もちろんヒロちゃんからもそんな事言われた事はなかったし、ヒロちゃんはそんな事絶対思いさえしてないだろうし、もしそんな事私が思っていたと知ったらたぶん度肝を抜くんじゃないかと思うけど、あの時の私のポジションは、私の中ではヒロちゃんの彼女だった。


 タダはたぶん男子版の私みたいな感じなんだろうと思う。

 タダは素直にヒロちゃんの話す事を聞いて、そこまで自分を主張せずに、ヒロちゃんのやる事を見て純粋に楽しみ、ヒロちゃんと一緒に行動する事を喜んでいた。

 そんなポジションを取られた私なのに、小学生の時の事を知らない女子に中学の時に噂を立てられたのだ。タダと仲良くなりたくてヒロちゃんと仲良くしてるって。

 ほんとにもう!タダが来る何年も前からヒロちゃんと仲良かったつの!


 


 「え~~そうなのぉ~~?」ハタナカさんが可愛い声を出してタダに聞く。

「そうそう」と軽く答えるタダ。「オレの一番の友達と、大島は幼馴染ってやつだから」

「そうなんだ~~。いいなぁ~~」

何がいいんだ。ヒロちゃんと幼馴染だからタダとも話が出来るって事がか?

 中学の時もそういう風に言われた。

 女子ってバカだよね~~…いやもちろん全部の女の子がそうではないけど、見た目だけで男子を判断してさ。ちょっと顔が良かったら何でも許しちゃう~~みたいな感じ。私は許せないけどな。ヒロちゃんに振られた私をケラケラ笑った事も。



 ハタナカさんがヨシダさんに呼ばれて行ってしまうと、「ヒロトんとこ一緒に行かねえの?」とタダがまた聞いてくる。

「行かないよ」

「見たくねえの?ヒロトに告って来たヤツ」

見たいよ、確認したいに決まってんじゃん!と思いながら、「見たくないし失礼でしょその子に」と、しれっと答える。私にもプライドがあるのだ。

「へ~。じゃあいいの?ヒロトがそいつと付き合ったりしても」

嫌だよ!嫌に決まってんじゃん!ほんと嫌な奴だなコイツ相変わらず。

 でも心で叫んでるのとは裏腹にタダに答える声は小さくなる。「ヒロちゃん…そんなとこに私が来たら困ると思うし」

「わかった。じゃあ写真送ってやろうか?」

無言でタダを睨みつけるとタダが言った。「え、だってほんとは見たいんじゃね?」

そりゃ見たいって!どんな子がヒロちゃんに告ったかメチャクチャ興味あるよ!

「見たくない」と答える私。

「そう?」と笑うタダ。

 …うざっ!!




 そうやって断ったのにだ。

 部活のない水曜の学校帰りに母から頼まれた目薬を買うためにドラッグストアに寄った私は、なんとドラッグストアで待ち合わせをしていたヒロちゃんとタダに遭遇。

 ウソでしょ…と心の中でつぶやいた。

 タダが言っていた、ヒロちゃんに告って来たらしき女の子も一緒だ。



 ほらね?派手な感じだ。ヒロちゃんの連れている子を見て思う。

 もう…なんでヒロちゃん、こういう子好きかな……くそっ!!胸も大きいし!

 私の方が…私の方が断然ヒロちゃんの事わかってるし、すごく好きなのに。


 そしてその子は肩甲骨の下くらいまである髪の毛をツインテールにしていた。

 あ~~~と思う。なんで私、今日に限ってツインテールにしてきたかな!髪が撥ねてたからいいやくくっちゃえって思った今朝の自分が恨めしい。

 でもその子のツインテールは私のツインテールとは全然違う。まず縦ロールが入ってのツインテールだし。ちょっと茶髪っぽいし。どピンクのリボン付けてるし。きっと髪を流していた方が合う大人っぽい派手目な感じなのに、あえてのツインテールだ。制服の薄水色のブラウスのボタンも2コはずしてるし…アイラインを入れてマスカラも付け、唇には艶のある薄桃色のグロスもつけてるし。

 エロいよね。えろ巻き髪ツイン。



 「おっ…」と私を見たヒロちゃんが、一瞬気まずそうな顔をした。

 ほらね?こんな感じの時に私に会うのは嫌なんだよ。私に告られて振った事にまだヒロちゃん自身が痛手を感じているのだきっと。優しいから。こんな子連れてるくせに。

 そんな私たちを見てタダが笑う。ケラケラ笑う。あの、私が振られた時のような笑い方でだ。ムカつく!



 「すげえところで会うじゃん」とタダ。

うるさいよ店の中で大声出すな。

「なんで?」とタダが面白そうに続ける。「オレらがここで待ち合わせとかなんで知ってんの?やっぱ大島も来たかったんじゃ…」

「知らなかった。こんなとこで待ち合わせなんて知るわけないし、それにちゃんと断ったじゃん私。お母さんに頼まれた目薬買いに来ただけ」

タダを睨みながら言う。…なんであんたたちこそ付き合うかもしれない子を友達に紹介すんのに、ドラッグストアとかで待ち合わせしてんだよ…



 「ユズも目薬か!?」と言い出したヒロちゃん。「オレも!オレも目薬買いに来た」

あ、ダメだ今の『オレも!』の言い方キュンと来た。そっか、だからここで待ち合わせしたんだね?

 でも巻髪ツインの彼女はちょっとビックリしている。

 ヒロちゃん、まずいんじゃないの?彼女になるかもしれない子の前で他の女子名前呼びしたら気にする子かもしれないよ?

 …ていうかもうヒロちゃんが彼女の告白速攻で受けてしまって、もう彼女になっちゃったのかなこの子。ヒロちゃん、こんな感じの子好きだもんねぇ…


 取りあえず、うん、とヒロちゃんにうなずいて彼女をチラ見する私にヒロちゃんが恥ずかしそうに言った。

「あのな、同じクラスのウエダミカちゃん」

ウエダミカちゃんか…ちゃん付けしやがって。でも彼女って言わないとこみるとまだ返事は保留にしてるか、私に気を使っているのか…


「ミカで~~す」と彼女。

それに同じクラスか…くそ…坊主のくせに恥じらいやがって。

 あ~~~…厳しいな…つらいな今の私の立場。

「これは」と私を今度はミカちゃんに紹介するヒロちゃんだ。「オレの小学からずっと一緒の大島ユズル」

「そっか、それでユズちゃんか」とミカちゃんがニッコリと笑う。「可愛いね!ゆず茶みたい」

あ~~…それはよく小学生の時にバカ男子に言われたわ。



 ミカちゃんが続ける。「さっきもタダ君とヒロちゃんが喋ってる時、ユズちゃんの事も話してたんだよ?タダ君と同じ高校なんでしょ?」

 少し甘えた声を出すミカちゃんもヒロちゃんて呼んでんのか。嫌だな!

 …まあ呼んでたけどね。小学の時から一緒の女子はほとんどヒロちゃんて呼んでたけどね。高校からしか一緒じゃないこの子が呼ぶのはどうなのかなぁ許せないなぁ私は今んところ許せないけどね、おっぱいも大きいし。



 「ユズちゃんユズちゃん」とミカちゃんが馴れ馴れしく言う。

いや、しょうがないじゃん私が今性格が悪くったって。大好きなヒロちゃん取られようとしてんだから。

「はい」低い声で答える私。

「ねえねえねえねえ、これからさ」とミカちゃん。「3人でどっかでちょっとお茶しよって言ってたんだけどユズちゃんもおいでよ~~~」

嫌だよね!

 ミカちゃんをチラチラ嬉しそうに見るヒロちゃんなんて、間近で見たくない。

「どうする大島」と面白そうに言うタダにムッとしてしまう。

「ユズ、」とヒロちゃん。「一緒に行けるか?時間大丈夫か?」

「うん大丈夫」

自分でも恐ろしいほど速攻で了承してしまった。

 ミカちゃんが小首をかしげてニッコリと笑い、タダがまた、私を小バカにしたように笑ったけど気にしない。




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