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夏服になった私は豊胸したい 1

 豊胸したい…

 1時間目の国語総合の現国の時間中ずっとそう考え続けていたので、担任の水本先生の声だけは聞こえて来ていたが途中まで何を喋っていたのかよく覚えていない。

 ぼんやりしているところを先生に注意されたのだ。

「大島?大島全然ノート取ってないけど大丈夫って事でもう消すよ?いいよね?」

 私の名前は大島ユズル。豊胸したいとやはりまだ考えながら、取りあえず「すみません」と先生に謝って慌ててシャーペンを動かした。



 一昨日中学で仲の良かったアヤちゃんからラインが来たのだ。

「イトウが男子人気高いメチャえろボディの綺麗な2年の先輩に告ってやっぱ振られたらしい」

…バカだなあ…ほんとバカだなあヒロちゃん。


 イトウというのは伊東裕人。イトウヒロトは小、中、一緒の学区だっただけではなくて、地区も一緒、小学の登校班もずっと一緒だった男の子だ。家が近いので親同士も知り合いで、小学低学年の頃は一緒に遊んだり、高学年になってもたまに下校途中で会うと一緒に帰ったりしていたが、今は違う高校へ通っていてあまり顔を見る事もなくなった。

 すぐにおちゃらけるけど、でもまっすぐで、友達思いで、強い子にも弱い子にも男子にも女子にも同じように雑に、同じようにやや温かみを持って接して、それは結構人見知りの激しい私にもそうで、私はそれがとても嬉しくてイトウヒロトの事をずっと好きでいる。

 軽く1回、重く1回振られていて、それでもまだイトウヒロトの事が好きなのだ。

 


 休み時間、次の授業の準備をしていると「なあなあ大島」と声をかけられる。

 私を呼んだのは多田和泉。タダイズミも小、中が同じだった男子だが、ヒロちゃんのように小1の時から一緒だったわけではない。タダは小6の始めに他県から引っ越してきたのだ。その頃のタダはどちらかというとナヨっとしたおとなしい感じで、背の順も男子の中で小さい方から3、4番目。私よりももちろん低く、その上私と同じ人見知りの匂いがしたが、なぜかヒロちゃんがやたらとタダの事を気に入り良くつるむようになった。

 コイツのせいで、と私はよく思ったものだった。今も思う事があるけど。

 そういう年頃、というのもあったのだろうが、コイツが引っ越して来てからヒロちゃんは、女子の私とはもう前のようには関わってくれなくなったのだった。


 その、私から見たら邪魔者のタダイズミは、ヒロちゃんとしょっちゅう一緒にいたので他の男子よりは話をした事も多い、くらいの感じだったが、今度高校も一緒になったせいか、そしてクラスまで一緒になったせいか、私にちょいちょい話しかけて来るようになった。

 だいたいはヒロちゃんの話で、それはもちろん私が得たい情報なのだが私はタダに話しかけられるのが苦手だった。ヒロちゃんを取られた感をまだ引きずっているというのもあるが、タダに話しかけられると女子の注目を浴びるから。

 こちらに越して来た頃とは大違い。中学でヒロちゃんと同じハンドボール部に入ったタダは、私の身長を追い抜き、ヒロちゃんの身長も追い抜き、今では175センチ。全体の均整もとれ、髪もサラサラ、女子ウケする爽やかで優しげな整った顔立ち…女子人気が高いのだ。

 中身は爽やかじゃないけどね。私がヒロちゃんにふられた時もケラケラ笑ってたし。今思い出しても腹立つ。



 ちょっと笑いながらタダが言う。「なあ、ヒロトの話知ってる?」

「…知ってる」

コイツまた笑ってる…

「もう知ってんの?」とさらに嬉しそうに言うタダ。「ヒロトから聞いた?」

「ヒロちゃんからじゃない。アヤちゃんからライン来た。2年の先輩の話でしょ?」

「あ~~あれな。でもそれじゃない。なんか昨日告られたらしい」

「マジでっ!!」

「マジマジ」


 

 マジで…

 力無く『マジで』を心の中で繰り返す私…

 

 私の好きなイトウヒロトの事を私はカッコいいと思っているし、良いなって思っている子も私以外に絶対いるとは思うけれど、そこまで見た目が女子ウケするタイプではない。別に坊主になれっていう校則もないのに小学校の時から常に2センチくらいの坊主頭。痩せても太ってもいないが、タダみたいに優しい顔つきじゃなくて、元気な男子!って感じなのだ。それで結構すぐに女の子を好きになって、あの子が良い、この子が良いって言いはするんだけれど、女子の方から告られた事はない。ないはずだ私の知っている範囲では。そして私以外には。


 どんな子から告られたんだろう。その子はおっぱい大きいのかな。巨乳だったら即OKしてるかも。ヒロちゃんおっぱい大きい子が好きだもんな…巨乳アイドルのグラビアも嬉しそうに見てるの見た事あったし…私が軽く振られた方の理由は『ユズはおっぱいちっちぇから』だった。中3の夏の話だ。まだこれから大きくなるのに!と思った私だった。

 …大きくなってないけどね。Aカップのままだ。

 夏服の白いブラウスの上から自分の胸を確認する。あれからほぼ1年たつのに全然大きくなってないけどね。


 「なんかな?」タダが言う。「ヒロトがオレにいろいろ話を聞いてくれって。そいで出来たらその相手の子に会って欲しいっていうんだけど、大島も一緒に行く?」

「なんで私が!」焦って答えてしまう。

「え、だってヒロトの事好きじゃん」

そう言って笑うタダだ。


 

 くっそ、コイツ…

 タダは私がヒロちゃんを好きな事を知っている。まあ早い段階で私の態度から感じ取れてもいたんだろうけど、中3の終わり、ヒロちゃんと高校が別々になる事に焦った私に重めに告られて困ったヒロちゃんが、どううまく断ったらいいかとコイツに相談してしまったのだ。

 ほんとバカだなヒロちゃん…なんでコイツに相談するんだろ。どう断ってくれても良かったから誰にも相談なんかしないで欲しかった。

 ヒロちゃんだっていちいちコイツに相談することで損してるのだ。前も自分が好きになったおっぱいの大きめの子とデートするのに、タダも一緒に行ったら、そのおっぱい大きめの子はタダの事を気に入ってヒロちゃんを振ってタダに告ったらしいのだ。最初からタダと仲良くなりたいためにヒロちゃんと仲良くしようとする女の子たちもいたし。

 


 「ねえねえねえねえ」と私とタダの会話に、ハタナカさんが割り込んできた。

 ハタナカさんは結構派手目の、タダの事を好きな女子だ。何かにつけてタダと絡もうとしているが、タダはうるさい子があまり好きではない。

 ハタナカさんが言った。「イズミ君と大島さんて同中だったんだよね?仲良かったの?」

「ううん」と即座に首を振る私を嬉しそうに笑うタダだ。

「大島~~。そんなに首振んなよおもしれえけど。他の女子よりはまあまあ話してたじゃん」

それはあんたがヒロちゃんと一緒にいたからだよね。


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