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ミラの歓迎会が終わった翌日、ソラ達は冒険者登録のために冒険者ギルドにダイチと向かう。着いた先の大きな建物の中に入るとダイチたちはすぐに受け付けに向かった。受付の人は優しそうな顔をした男性だった。
「すみません、今大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫ですよ。依頼でしょうか?」
「いえ、冒険者の登録に来ました。空、海。こっちに来て」
「そちらのお二人ですね。冒険者の説明は必要でしょうか?」
「そうですねお願いします。二人ともちゃんと聞いとくようにね。僕がやってた頃と違うかもしれないから」
「分かりました」
「分かった」
「それでは説明いたします」
説明された内容は事前にダイチとアリスから聞かされていたことと一緒だった。冒険者のランクがBランクより上になると貴族と同等の扱いを受けるという話には驚いた様子だったが、それ以外の依頼の受け方やクランの話などは変わらなかったが、最後まで話を聞きお礼を言って立ち去ることにした。受付のおじさんはそんなソラ達を見て嬉しそうに頭を下げる。
「最後までちゃんと話を聞いてくれてありがとうございます。冒険者になろうとする方たちは物事を深く考えないで依頼を受けたりする人が多くなっていて……、それが原因でのトラブルなんかもあるので説明を聞いてくださるとこちらも安心して見送れます」
「え、自分の命がかかってるのに説明を聞かないなんて僕には無理です。こちらこそ丁寧に教えてくださりありがとうございます」
「いえいえ、こちらもこれが仕事ですから。これからもよろしくお願いします。私の名前はダコールと申します。一応ここでの副ギルド長ですので何かありましたら連絡をください」
受付を副ギルド長がしていると思っていなかったのか、ソラとウミだけでなくダイチも驚いた様子だったが、そこまで気にする必要もないと考えたのか頭を下げてその場から立ち去ることにした。
「ダイチさん、副ギルド長って偉い人ですよね? そういう人が受付することって多いんですか?」
「いやいや、普通はいないよ。それ以外の仕事の方が多いはずだからね。今日はたまたまじゃないかな?」
「やっぱりそうですよね。まぁ、そこまで気にする必要もないですよね? 少し偉い人に顔を覚えられただけですし」
「そうだね、コネが出来たと喜ぶ位でいいと思うよ。それじゃ、家に帰って野宿練習の準備をしようか」
「昨日のって冗談とかじゃなかったのかよ……」
「実際、早めに経験しといた方がいいからね。冒険者になるなら絶対に必要なスキルだから。ある程度はその場しのぎでなんとかなる場合が多いけど、知識があると楽になることも多いよ。今回は前と違って僕たちもいるから比較的楽だし」
ダイチの説明に納得した二人は、それ以上はなにも言わずに家まで急ぐ。
「あ、おかえりなさい。テントとか必要だと思って出しといたけど、他に必要なものって何があるの?」
「ただいま。テント出してくれたんだ。ありがとう。そうだね……、今回のは二人の野宿練習だからあとは保存食とちょっとした調理器具かな。あ、今回は道具袋っていう……、えっと、見た目より多く物を持てるこれを使うから調理器具を持っていけるけど、地味に高いから道具袋を持てるようになるまでは自力で持っていけるだけにするようにね」
「どのくらいの値段なんですか?」
「えっと、中に入れれる容量によって違うんだけど安いので金貨一枚とかだね。パンを買うのに銅貨一枚、宿を取るのに一日銀貨二枚とかだから、宿五十日分ぐらいかな」
「え、安いのでその値段なの……」
「冒険者で稼げるようになったらすぐにたまるよ。最初の頃は出費の方が嵩むからなかなか貯金できないけどね。ランクが上がる度に報酬も増えるから、魔物討伐できるようになれば道具袋を買うだけのお金はすぐにたまるよ」
「最初の頃ってどのぐらいもらえるんだ? 出費はどのくらいかかる?」
「そうだね……、最初の頃は素材集めとかになるからひとつの依頼につき多くても銀貨一枚とかだね。安いのだと銅貨一枚とかになるよ。その場合は数を多めに持っていって、依頼の達成数を増やしたりして稼いだりする感じかな。出費の方はそのときの防具とあとは消耗品次第かな。ポーションとか使うと出費が一気に増えるけどね。武器も消耗品だから普通は買い換えたりしないといけないんだけど、空と海の場合は渡した剣と弓があるからしばらくは出費は考えなくていいと思う。一応魔術の効果で消耗しにくくはなってるから」
ダイチは先程までいたギルドの依頼表を思い出しながら、準備の手を止めずに話を続ける。
「学校に行く前にギルドのランクを上げて、家から通えてるうちに貯金をしないとね。そうすれば学校で冒険者として活動する時もそこまで無理しなくて済むから。……まぁ、アリスが予定を組むと思うからそこは心配だけど……」
最後にボソッと呟いた言葉が聞こえたのか、少し不安そうに見るソラだったが、ダイチはそれ以上は特になにも言わずに準備の方を進める。
「それじゃあ、家の鍵は大丈夫だよね?」
「うん! お兄ちゃんたちが帰ってくる前に全部閉めといたよ!」
「ありがとう、美樹。それじゃ行こうか。ミラもちゃんとついてくるようにね」
「分かっているのじゃ、一応聞いておくのじゃがあちらでキャンプをするときの料理にはデザートがついておったり……」
「ないよ。いや、作ろうと思えば作れるけど……、美樹どうする? 作る?」
「え? えっと……」
ミキは突然の提案に驚いた表情でミラとダイチを交互に見ていたが、ミラの潤んだ瞳を見て決めたのか強く頷いた。
「うん! 作れるなら作ってみたいな」
「ありがとうなのじゃ! ミキ!」
ミラは強く頷いたミキに抱きつきながらお礼をのべる。
「分かった。それじゃあ作ろうか。でも、空と海には無しだからね。野宿の練習にならないから。練習をして一週間以内に合格が出せるぐらいになったら、そこで切り上げて普通に五人でキャンプを始めようか」
「まぁ、練習だからしょうがないですよね。ウミ、頑張って早めに覚えようね」
「おう! 早く覚えてゆっくりしようぜ。というか、俺としては魔物狩りをさっさと始めてお金を貯めたい」
「僕も出来るだけ早くお金を貯めて学校の間は無茶な生活をしなくていいようにしたいな」
「そのためにも早く覚えなきゃな!」
「二人の気分が上がってるようだし、気分が落ちる前に裏の森に行こうか。あそこならそこまで危険な動物もいないし、ミラも最近まであそこにいたんだから地理とか大丈夫でしょ?」
ミラはダイチの言葉にどや顔で頷き親指をたてる。そんなミラと一緒にダイチ達は裏の森に歩いていった。