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「とはいえ、そんなに話すこともないんですけどね」
そんな語りから始まるユマの昔話。その言葉で少し落ち着いたウミとソラは前のめりだった体を戻して椅子に座り直す。そんな中ミキだけは早く話が聞きたいのか手早く料理を運んでくる。ミキが料理を運び終え座ったところでユマが口を開いた。
「それじゃ、話を始めようかな。ご飯を食べながらだけど、最初に聞きたいこととかある?」
「うーん、あ、龍ってどのぐらい強いんですか?」
ユマは目の前にある料理を自分の皿によそいながら周りを見渡す。食べる前にはちゃんと手を合わせてから食べていた。子供三人のなかで一番竜のことを気にしているミキが最初に手をあげる。その質問に悩み顔で答える。
「どのぐらいかぁ……、うん。前提として、龍は二種類に分けられるの。細分化すればさらに分けられるけど。少し前にダイチさんが倒したものは竜っていって私たちが戦った龍とはちょっと違うんだ。読み方は一緒なんですけどね。だから、ややこしくしないように。下位竜と上位竜って呼ぶ人もいるよ」
「そうなんですか、ちなみに昔、私たちの前でダイチお兄ちゃんが倒したのってどっちなんですか?」
ダイチはミキが覚えていたことに驚いた顔をした後に、竜のことを思い出すように目を瞑りながら話し始める。
「そんな昔のことよく覚えてたね。えっと、僕がそのとき倒したのは一応上位竜だよ。上位竜の中でも弱いほうだけどね」
「あれで弱い方なのかよ……、俺たちは動くことも出来なかったのに」
「あー、上位竜の見極め方は簡単で、魔法が使えるかどうかだから。多分海達は魔法で動きを止められたんじゃないかな?」
「あ、そういえば。あの時会話をしてる感じがしてたんですけどこれもなにか関係あるんですか?」
ダイチの話に興味が出たのかソラが質問にまわる。ダイチはソラの質問に感心したような顔をした後話し出す。
「竜の言語は人間には理解できないけど、竜は人間の言葉を理解してるらしいからもしかしたら何か関係あるのかもね。意思疎通は無理だったけどね」
「竜の言葉を研究してる人とかはいないんですか?」
「いるけど、研究は進んでないみたいだね。興味があるならその人達が書いた本を持ってこようか?」
「興味があるのでお願いしてもいいですか? なぜ竜が人を襲うのかの理由が分かるかもしれないですし」
「わかった、今度持ってくるよ。数は少ないからすぐに読み終わると思うけどね」
「楽しみにしてます」
本を読むのが好きなソラはダイチの言葉に嬉しそうに顔を緩ませて目の前のご飯を食べる。だが、その研究に意味を見出だせないウミは首をかしげてソラとダイチの顔を交互に見る。
「それって、なんの役に立つんだ? そんなことが分かっても意味ないんじゃねぇの?」
「えっと、竜の言葉の法則が分かれば、なんの魔法を使おうとしているのか分かりそうですけど、そんなことないんですかね?」
「多分わかるようになると思うよ。まぁ、そのためには竜が話すところを何回も見なくちゃ検証できないんだけど。だから、研究が進んでないっていうのもあるんじゃないかな?」
「あー、確かに聞いてた音に法則性はあった気がするしそれが分かるのはいいかもな。よし、そういう頭使うのはソラに任せたぜ!」
「少しはウミも手伝ってよ? 頭使わないと将来困るよ?」
「あー、本の整理ぐらいなら手伝うよ、うん」
ウミはソラと目をあわさないで遠くを見ながら食事を続けていた。そんなウミのようすを見てソラは諦めた顔でうなだれる。
「中身には触れる気がないのは分かったよ。まぁいっか。頭を使うのは僕で、体を動かすのをウミにしてもらうって感じで。将来もそんな感じな気がするし」
「ソラ、諦めないで。学校に行ったら少しは頭を使わないといけなくなるから。手助けしてくれると助かる」
「大丈夫です。留年はさせないように頑張ります」
「さすがにそこまでではないと思うんだが、めんどくさいだけで考えることはできるぞ?」
「めんどくさいからって筆記試験を途中でやめたりしないでね?」
「さすがにしねぇよ!?」
「なら、大丈夫かな。まぁ、学校に行くのはもう少し先だけどね」
「ソラ達は学校に行くのか……、あそこってめんどくさくないか? 俺はめんどくさかったから授業は受けてなかったんだけど」
「お前はそうだったらしいな。そして、他のやつが先生に呼ばれてお前を注意することになるんだもんな」
「な、なんで、ダイチがその事知ってるんだよ!」
「ユマさんに聞いたんだけど?」
「ユマ……」
「い、いいじゃないですか。少し位は愚痴を言っても」
「ったく、帰ったら俺の練習に付き合ってもらうからな」
「お、お手柔らかにお願いします。というか話がずれちゃいましたから戻しますよ?」
「あ、そういえばルカさん達が昔倒した竜の話でしたね」
「忘れていたのなら言わなければ良かったです」
「まぁ、そんなに話すことも無いんだぜ? ホントに。ただ、俺が頑張って体張って龍を止めて、その俺の援護にユマがいたってだけだしな。というか他のやつもいたし」
「それだけ聞くと、話が終わっちゃうんだけど、そのときの竜の様子とか動きの違いとかは覚えてないのか?」
「あー、竜のようすね……。そうだなぁ、俺が戦ったやつは目から黒い血みたいのが流れてたやつで、目が見えないなら思いっきり近付いてやろうと思って近づいたんだが、むしろいつも以上に懐に入り込みづらかったな」
「目が見えてたってことですか?」
「いや、目は見えて無いんだろうけど。目が見えなくても気配は感じるからな、それのせいだと思う。目が見えなくなった代わりに他の感覚器官が上がったんじゃねぇの?」
「なるほどね、手負いの方が強くなる時もあるのか」
「というか、今さらだけどダイチだって上位竜倒してるんだしその時の話しすればいいだろ?」
「そうですよ。別に私たちの昔話とかしなくても良かったじゃないですか!」
「まぁ、それを言われるとそうなんだけど。どうせご飯を食べられるなら、そういう昔話でも披露してもらって利益を得たいなと思って」
「えー、まぁいいですけどね。昔話よりも普通の竜講座の方が長くなってしまいましたけど、これ以上は話すこともないので終わりにしてご飯をおいしく食べましょう」
「えー? 他には無かったんですか? 例えばどんな攻撃をしてきてたのかーとか、鱗はどのぐらい固いのかとか、魔法はどんなものを使ってたのかとか」
「うーん、ルカさん。私は後方支援しかしてないので分からないんですけど、なにかありました?」
「どんな攻撃って言われても、竜だったら尻尾の凪ぎ払いか、口から魔法を放つブレスぐらいじゃないか? 一番ヤバイのは牙を使う攻撃だけどな」
「牙? 噛みつくのが一番ヤバイんですか? ブレスの方がキツそうですけど」
「ブレスはまだ防御用の魔法で防げるんだよ。だけど噛みつくのは牙に特殊な効果があるらしくてさ、全てを貫通してくるんだよ。魔法だろうがなんだろうがパリッと簡単に壊してきやがる。ブレスを防いだ結界を煎餅みたいにパリッとな」
「そ、そういう攻撃の時はどうするんですか?」
「どうするもなにも、どうもできないからひたすら避けるだけだぜ? 防御に回ってもほとんど時間稼ぎにすらならないから。多少は稼げるけどな? 一秒未満ぐらいだが」
「それは稼げるとは言わないのでは?」
「その一瞬で命が助けることもあるからなんとも言えないな。あと、鱗はとてつもなく固い。それはもうとてつもなく。後方支援で一番してもらったのは剣の取り換えだったぐらいだ。しかも王都で一番って呼ばれてるやつが作ったのを、何本もへし折りながら戦ったんだから。今はあの頃よりも鍛冶師が育ったから剣が壊れることはないだろうけど、あのときは鍛冶師がそこまで育ってなかったからな、一日持たないぐらいだったんだぜ?」
「一日持たないってその間どうしてたんですか?」
「他のやつに任せて剣を取りに行って、また戻ってを繰り返してた」
「休憩とかは?」
「そんなことしてたら他のやつが死んじまうだろ?」
「まぁ、あのときは上位竜が三体同時に出て人手不足だったからね」
「一応言っておくが、ダイチはそのうちの一体を三人で担当してるからな?」
「え? 三人?」
「あはは、人が足りなかったからね。僕たちは三人で十分だったから」
「ちなみに、三人で倒した後に残りの一体の方にそのまま駆けつけてますからね。私たちよりも冒険してますよ? ダイチさんは」
「あー、まぁ、そこらへんはまた今度話すとして、竜が使う魔法の種類はどんなのがあったんだ?」
「また今度ねぇ……。まぁいいや。魔法は火と氷だったな、なんでか水は使ってこなかったな」
「氷は水魔法を覚えてから使えるようになるのが基本ですからね。まぁ人と竜では違うのかもしれませんが」
「そうなんですね。僕たちはそういう魔法をまだ覚えてないんですよね」
「あー、強化魔法は基本の基本だからな。属性魔法は自分の属性を知っておかないとキツいし、そういうのは学校で教えてもらえるから良いんじゃね? 俺も学校で覚えたし。まぁそれ以外は興味なかったから行かなくなったんだが」
「二人はこうならないでくださいね? 回りの人が大変な目に遭うんですから」
「せっかく学ぶんですからそんなもったいないことはしませんよ」
「そうだぜ、せっかく兄ちゃんが学費払ってくれるんだし」
「まぁ、そのくらいはね。さすがに生活費は無理だからそこは頑張ってね?」
「魔物狩りでなんとかするさ、ソラもいるし大丈夫だろ」
「弓を持ってる人が前に行って、剣を持ってる方が後ろにいるようなおかしい状況はあまり作らないようにね?」
「あれはウミが何も考えないで前に出るから……」
「弓でも近くのやつはやれるし、そういう偏見はいけないんだぜ?」
「まぁ、確かに剣を使うより弓の方が成果をあげてるから、なんとも言えないんだけど」
「僕が前に出てるときに横から矢が飛んでくるから怖くて、後ろに下がっちゃうんだよね。当たったことはないけど」
「それはウミが悪いな。俺なら間違えてその矢を叩ききる可能性がある」
「死角からの矢を切れるルカさんがおかしいんですけど。というかなんで後ろからの援護射撃を叩ききるんですか」
「え? だって、危ないだろ?」
「ルカさんから距離を離したところに狙いをつけて邪魔にならないように指示したのに、それすらも切るから途中から誰も援護射撃をしなくなりましたよね」
「俺は悪くない、俺の攻撃範囲に入るのが悪い」
「自分の獲物をとられるのが嫌だとかそんな理由じゃないですよね?」
「そ、そんなことないぞ?」
「はぁ、そんなだから味方から《鬼神》とか呼ばれるんですよ」
「いやでも、《鬼神》ってかっこよくないか?」
「…………、それなら良かったです」
「な、なんで目をそらすんだよ」
「さて、それじゃあ美味しいご飯が冷めるのも嫌ですし食べましょうか」
「なぁ、おいってば……」
「ルカさんもほら、食べて食べて。美味しいですよ?」
「それは知ってるが、まぁいいや。美味しいご飯が食べれるのはいいことだ」
「それじゃあ今日の昔話はここまでにしておこうか。あ、そうだ空、海。これウルからね」
「ん? お、これって弓!?」
「僕は剣ですね。これ良いんですか?」
「大丈夫。大事に使ってね。あ、美樹には包丁を預かってるから台所に置いとくね」
「ホント!? ありがとう!」
ソラ達は自分が使う装備をもらって嬉しそうにしていた。そのあとも料理がなくなるまで食事は続きルカは満足そうに帰っていくのだった。