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「さてと、反省会を始めようか。何が悪かったと思う?」
「ソラの場合は魔術使えばなんとかなるとは思うし、大丈夫なんじゃないか?」
「前は魔術使っても勝てなかったけどね……、使わないのは単純に魔術使うと周りの被害が酷いことになるからってだけだし。それに魔術を使わないで倒すのが課題なんだし」
「まぁ、それもそうか。じゃあもう、純粋に体を鍛えるしかないんじゃないか?」
「こ、これ以上鍛えるの? 大丈夫? 筋肉つきすぎて動けなくなったりしない?」
ソラは自分の体を見て不安そうな顔で尋ねる。
「いや、それは分からないけど。筋肉ムキムキの男になったらなんか怖いからやめとくか」
「怖いかな?」
「怖いだろ! 兄ちゃんも怖がるだろうよ」
「そうかな? ダイチさんなら立派になったな! って笑いながらいいそうだけど」
「あー、うん。それは確かにいいそうだな。まぁ、兄ちゃんが怖がらなくても、ミキは怖がりそうだぜ?」
「あー、確かに。ミキを怖がらせるのはダメだね」
「とはいえ少しは鍛えとかないとな。ムキムキになる前に止めとけば大丈夫だろ」
「そういうものなのかな……?」
「とりあえず身体能力の向上をして、考えるのはそれからだろ? あとは使える武器の数を増やしたりとかしたらどうだ?」
「使える武器の数? 種類ってこと?」
「あー、扱える武器の種類を多くするってのもいいんだけど。単純に一本の剣を使うよりも二本の剣を扱える方が強くなれるんじゃないかなって思っただけだよ」
「二本……、でも、それって結構難しいよね。一本の時よりもさらに使い方が複雑になってくし」
「そりゃまぁ、難しいだろうけど。出来るようになったら強くなれそうじゃないか?」
「まぁ、それもそっか。勝てるようになれたらいいんだし。勝てなかったらまた別の策を考えればいっか」
「ということで、ソラの反省会は終わりだな。次は俺なんだけど、勝てる方法あるか?」
「まぁ、ウミも体を鍛える所から始めないと。あとは魔術を安定して使えるようになればいいかな」
「体は鍛える予定だったけど、魔術か……。せっかく魔力があるんだし使いたいんだけど、難しいんだよな」
「何が難しいの?」
「なんというか、少し魔力を上乗せする……とか、全身にまんべんなく魔力を行き渡らせたりとか」
「あー、ウミは結構不器用だしね。でも、少しは練習しとかないとね。苦手なままだと学校に入学してからも大変だろうし」
「あー、そうだよな……。とはいえ、俺が不器用なのは否定したいな。どっちかというとソラが器用なんだよ」
「そうかな? そんなことないと思うけど」
「兄ちゃんに魔術を教えてもらってから、普通は数年かかるって言われてる魔力のコントロールを、三日で終わらせたのは誰だっけか?」
「魔術を教えてもらったのはあのときが始めてだったけど、本とかで知識はあったし。僕はそれのおかげだと思ってるんだけど」
「まぁ、確かにあのときは本ばっかり読んでたもんな。その度に俺とミキが外につれていくんだけど」
「あはは、そうだったね」
「おっとっと、話がずれた。とりあえず勝つためには魔力のコントロールと体を鍛えるしかないってことで終わりか? なんか他にないか?」
「うーん、ダイチさんも言ってたけど攻撃が分かりやすいってのは直した方がいいかも」
「そんなに分かりやすいか?」
「えっとね、顔にすごい出るよ。目線とか。それにウミは左を切ると見せかけて……、みたいなのは一回もしてないし」
「苦手なんだよな。どうしても、切るところを見ちゃうんだよ」
「その癖を直せば、その癖を逆手にとってダイチさんから一本取れるかもね」
「空、あがったよー。っとと、反省会をしてるんだった。僕を倒す作戦はできたかい?」
「兄ちゃん。俺、兄ちゃんを倒すためにフェイント覚えた方がいいのかな」
「それを倒す相手に聞くなよ……。まぁ、いいや。海の場合は下手な小細工を覚えるより相手に気付かれても避けきれないような技を身に付ける方が早いと思うよ。多分だけど。今日の試合も中途半端な動きになって逆に隙を作ることになってたし」
「なるほど! さすが兄ちゃん!」
「とはいえ、少しはフェイントも覚えた方がいいとは思うけどね。もしかしたら、これはフェイントかもしれないって相手に思わせるのは結構大事だから」
「あー、こっちの選択肢を増やせばそれだけ相手の行動を制限できるのか」
「そういうこと、っとと、とりあえず空はお風呂に入ってきて、僕が海と反省会しとくから」
「あ、すみませんよろしくお願いします!」
そう言うとソラはお風呂に向かった。風呂に入り汚れから解放されたソラはさっぱりした様子でタオルで髪をふきながらウミの元に戻ってくる。
「お風呂あがったよー、ウミ」
難しそうな顔でうなっていたウミだったが、空尾の声が聞こえたのか考えるのをやめて風呂場に急いで向かう。
「おっ、じゃあ風呂入ってくるわー」
「いってらっしゃい。次は空の番だね」
「よろしくお願いします」
ダイチはウミがお風呂にいったのを確認してから話し始める。
「うん、よろしく。じゃあまず最初にフェイントをもう少しうまくなるようにしようか。フェイントだとバレバレなのは逆に危ないからね」
「そうですね、頑張ります」
「まぁ、そこは慣れだろうから。何回もやっていくうちに自然に出来るようになると思うよ。あとはもう少し筋力を付けようか。僕の剣を受け止めるときに、魔力で強化するのもいいけど、少しは節約していかないとね。それと体力をつけよう。さっき試合してるとき少しずつ腕が下がっていくのが分かったからね。それがないようにすれば長く戦う時に相手の隙を逃さなくなる。疲れると思考も鈍くなるからね」
「そうですね。さっきいつもなら動けそうな時も動けなくなりましたし、朝の走り込みを多めにしてみます」
「まぁ、美樹に怒られない程度にね? ああ、それと試合の時に少しは力を抜く練習もした方がいいよ。体力をつけるのも限界があるから、体力を温存しつつ隙を伺うというのも出来るようになると強敵と当たったときでも活路が見出だせるときがあるから」
「でも、それだと気を抜いて負けたりしませんか?」
「そこは慣れかな? もちろんそれで負けたら笑い者になるけど、それが出来るようになっておかないと、初見の相手の隙を見つけるなんて不可能だから。まぁ、一番簡単なのは丸一日全力で戦い続けても大丈夫なくらい体力をつけることだけど、まあ、基本不可能だから。……出来てる人もいるけどね、それは例外だし」
「で、できる人がいるんですか!? そんなこと」
「うん、まぁ知り合いにいるよ。というかソラもあったことある人だよ? ここにもたまにくるけどね」
「えっと……?」
ソラは思い当たる人が無かったのか首を傾げる。そんなときに玄関の方から二人の女の人の声が聞こえてきた。
「噂をすれば……かな?」
その声を聞いたダイチはため息をつきながら人の声がする方を向く。その後にソラのほうを向き手招きをする。ソラはそれに頷きダイチと一緒に玄関の方に歩いていくのだった。
「お! ソラとダイチじゃねぇか! 暇になったから遊びに来たぜ!」
「こんにちは、ソラくん。ダイチさんも、いつも迷惑をかけてすみません」
「いやいや、いいよ。むしろ丁度良いところに来てくれた」
「ん? なんかあるのか?」
「ちょうどさっきお前に関係あることを話してたんだ」
「俺に関係あること? なんだ? 飯のはなしか?」
「お前と飯に一体どんな関係があるんだ、そうじゃなくてだな。丸一日全力で戦い続けれるやつがいるって話だよ」
「おー、なるほど。とはいえ、丸一日も戦い続けたことあったか?」
「なんでお前が覚えてないんだよ。龍との戦いを忘れたのか?」
「あー、そんなこともあったな。まぁ、でもひとりじゃなくてユマと一緒だったからな、丸一日戦うのは楽だったし、そこまで強くもなかったからな」
「たった二人で一日戦い続けるのがすごいんだがな」
「それを言ったらお前だって……」
「なんのはなしかな? 僕はそんな経験はないよ?」
何を言おうとしたのか分からないがダイチの笑ってない目を見て口をつぐむ。
「あー、分かった分かった。正直お前が俺の上司じゃないのが不思議なんだが」
「いや、そういう仕事は俺に向いてないし、今やってる仕事ぐらいがいいんだよ」
ソラはダイチたちの話に聞き耳をたてながら、会話には入らずにその場に立っていると、風呂場からウミがあがってきた。その横には待ちきれなくなったのかミキまでついてきている。
「おーい、はやく飯食おうぜ、ってルカさん達じゃん、どうしたの?」
「あ、ホントだ。こんにちは、ルカさん、ユマさん。そうだ! お昼ご飯まだだったら一緒に食べませんか?」
「お! 食べる食べる! ミキのご飯は美味しいからな。ほら、ダイチ達も食べようぜ!」
「そうだね、ルカは食べてるときに、龍との戦いの話をしてくれると嬉しいんだけど」
「えー? 話って言ったって話すことなんてねぇぞ?」
「そうですよ、ルカさんに話させてもあいつがガーッと来たから、こっちもサッとやって……、みたいなよく分からない話になりますよ?」
ユマはルカの日頃の説明を聞いているからか、首を横に降りながらダイチの方をみる。その答えにダイチも心当たりがあったのか納得したように頷いた。
「そういえばルカは説明が苦手だったか……、じゃあしょうがない。ユマさんよろしく」
「え? 私も話すのめんどくさ……」
「しょうがねぇなー、上司命令だ、ユマ。子供達に龍との戦いを聞かせろ」
「なんで、こういうときに限って……」
「いや、だって子供達の目を見てみろよ」
最後の言葉だけ小声になったルカに不思議そうな顔をしながら回りを見てみると、目を輝かせた三人の子供の姿が見えた。
「あー、確かにこれは断れないですね。分かりました」
ユマはその顔を見て諦めた顔をしたあと微笑みながら頷いたのだった。