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むらさき鏡の診療室  作者: yamainu
第一話 『断絶する踏み切り』
3/20

・・●・

   ・・●・


 ……カン・カン・カン・カーン・カン・カン・カン・カーン……

 

 いつの間にか、気づくと、友達の友達の声は、なぜかとても低い場所から発せられていた。

 地面に近い位置から聞こえてくる。

 下半身の上に上半身が乗った普通の身体では、ないかのように。

 下半身が無いかのように。

 わたしは、彼女を見た。

 彼女を見下ろした。

 すると。

 凍りついた血溜まり。

 断絶した身体。

 はみ出した内臓は冷却され、凍り付いて、触るまでもなく固そう。

 今夜は、血も凍るような寒さ。

 血も凍る寒さ。

 傷口が凍り付いて、流れ出る意識と血と命も凍りついてしまうような寒さ。

 上半身だけの、わたしの友達の友達は、凍りそうな紫色の唇から白い息を吐き出し、言った。

「ねえ、アタシの下半身、取ってきて。

 取ってきてよ。

 ねえ。

 線路のどこかに落ちてるはずなの。

 拾ってきて。

 ねえ。

 ねえ。

 ねえ」

 

 ……そんなこと、あるはずが無い。

 下半身が千切れた死体がしゃべるはずはない。いくら血の凍るような寒さでも、傷口が急速に冷凍されて血の流出が止まり、轢死体が上半身だけで長く生きながらえてしゃべるなんて、あるわけが無い。北極とかならどうか知らないけど、ここではそんなことになるわけがない。

 だから。

 わたしが見ているものは、全部、違う。

 

 カン! カン! カン! カーン! カン! カン! カン! カーン!

 

 ……気づくと、

 

 わたしは、遮断機の下りた線路の真ん中に立って、けたたましく鳴る信号灯の赤い光に照らされながら、探していた。

 すぐ見つかるはず。

 探さなければ。

 電車が来る前に。

 死んじゃう。

 探さなければ。

 ……何を?

 何を?

 わたしは白い息を吐きながら、考える。何を? 何を探す? 今夜は血の凍るような寒さ。歯ががたがた言う。下半身? 千切れて飛んだ下半身? 誰の? わたしの? そういえば、下半身の感覚がうまく感じられない気がした。身体が千切れたわたしの上半身は、下半身を探せるだろうか。

 強い光。

 電車が近づいてきた。

 電車の正面の、車内灯よりも強い白色光が、線路の上のわたしを照らす。わたしの意識がかすむ。

 ……!

 …………!

 ………………!

 ち、

 が、

 う。

 わたしには足の感触がある。身体は断絶してなどいない。

 あの時はただ、

 あの時はただ、足が一瞬、すくんだだけ。

「違う!

 これ、わたしの死に方じゃない!

 わたしの死に方じゃない!」


 わたしは、何かを叫んだらしい。


 ……ゴォーーーーーーー…………

 ……

 ……カン・カン・カン・カーン・カン・カン・カン・カーン……

 ……

 ……

 ……


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