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むらさき鏡の診療室  作者: yamainu
第四話 『殺人四話』
15/20

・・●・

   ・・●・


 部屋は真っ暗で、何も見通すことが出来ない。目をつむっているかのように真っ暗で、耳を塞いだように無音。意識を閉ざしたように、何も情報が入ってこない。

 わたしは真っ暗な部屋の前に立ち、スイッチに手をかけていた。長いこと、ずっと。

 長いこと。

 心臓がばくばく言っている。

 今、このスイッチをつけることには、なんの意味があるのだろう。 

 このスイッチは、とっくのとうに、元の線から切れてしまっているのではなかったか。

 もう二度と、明かりがつくことは無いのではなかったか。

 だって。

 わたしは。

 ……。

 

「どうするの?」

 友達の友達の声が聞こえた。どこからだろう。

 ああ。

 この暗闇の部屋の中からか。

 

「どうするの?」

 その声は、遠くて、聞き取れないぐらいだった。

 

「いつまで気づかないふりをしているの?

 足元には大きな穴が口を開けているのに。

 そこにいたって、もう地面に足をつけることなど出来はしないのに。

 どうするの?」

 

「どうするの?」

 怖いので、目を閉じていた。

 怖いので、耳を塞いでいた。

 怖いので、いつまでも、気づかないふりをする。

 

 でも。 


 いつまで目を閉じている?

 いつまで耳を塞いでいる?

 いつまで?


 覗き穴の向こうで、

 シキ先生は、怒ったように、言った。

「ああ、そりゃあ、死ぬのは怖いだろうさ!」

 言った。

「でも、そんな暗い顔でいるな! せめて、前向きでいろ!」

 救いようの無いほど混濁した記憶。

 泥水のような自分の頭の中を探ると、確かにシキ先生にそう言われた記憶がある。

 でもそれが、いつだったのか分からない。

 ついさっき?

 数時間前?

 それとも。

 それとも? 

 その時、わたしはシキ先生の言葉が分からなかった。

 けれど。

 前を見ようと。

 前を見たいと。

 あの時、そう、思った。

 

 怖いけれど、わたしは目を開けたいと思う。

 怖いけれど、わたしは耳に入る音を聞きたいと思う。

 怖いけれど。

 怖いけれど。

 電気をつけよう。

 光の中に、風景を。


 スイッチをつけた。


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