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部屋は真っ暗で、何も見通すことが出来ない。目をつむっているかのように真っ暗で、耳を塞いだように無音。意識を閉ざしたように、何も情報が入ってこない。
わたしは真っ暗な部屋の前に立ち、スイッチに手をかけていた。長いこと、ずっと。
長いこと。
心臓がばくばく言っている。
今、このスイッチをつけることには、なんの意味があるのだろう。
このスイッチは、とっくのとうに、元の線から切れてしまっているのではなかったか。
もう二度と、明かりがつくことは無いのではなかったか。
だって。
わたしは。
……。
「どうするの?」
友達の友達の声が聞こえた。どこからだろう。
ああ。
この暗闇の部屋の中からか。
「どうするの?」
その声は、遠くて、聞き取れないぐらいだった。
「いつまで気づかないふりをしているの?
足元には大きな穴が口を開けているのに。
そこにいたって、もう地面に足をつけることなど出来はしないのに。
どうするの?」
「どうするの?」
怖いので、目を閉じていた。
怖いので、耳を塞いでいた。
怖いので、いつまでも、気づかないふりをする。
でも。
いつまで目を閉じている?
いつまで耳を塞いでいる?
いつまで?
覗き穴の向こうで、
シキ先生は、怒ったように、言った。
「ああ、そりゃあ、死ぬのは怖いだろうさ!」
言った。
「でも、そんな暗い顔でいるな! せめて、前向きでいろ!」
救いようの無いほど混濁した記憶。
泥水のような自分の頭の中を探ると、確かにシキ先生にそう言われた記憶がある。
でもそれが、いつだったのか分からない。
ついさっき?
数時間前?
それとも。
それとも?
その時、わたしはシキ先生の言葉が分からなかった。
けれど。
前を見ようと。
前を見たいと。
あの時、そう、思った。
怖いけれど、わたしは目を開けたいと思う。
怖いけれど、わたしは耳に入る音を聞きたいと思う。
怖いけれど。
怖いけれど。
電気をつけよう。
光の中に、風景を。
スイッチをつけた。