表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
むらさき鏡の診療室  作者: yamainu
第三話 『テレビに映る死』
11/20

・・●・

   ・・●・

 

 だが。

「!! ぃ痛ッ!!」

 そんな、短く、現実的な悲鳴がして、わたしは白黒ノイズだらけの映像から目を離した。

 友達の友達が、顔をしかめて手を押さえていた。その手からは、血が流れていた。真っ赤な血。赤い色彩。白黒の回想場面のような黒い血ではなく、今そのものの赤い血。

 友達の友達は、悔しそうに口を歪めていた。それから、手を傷つけた物にその悔しげな目を向ける。

 それは、覗き穴から突き出された、医学用のメス。

 友達の友達は、さっきまでは診療室への覗き穴をふさぐ位置に立っていたのだが、今は突き出されたメスに傷つけられ、場所を譲っていた。

「……どうして邪魔するわけ?

 アタシとアナタは、結局は同じことを望んでると思うんだけど?」

 覗き穴から、シキ先生の声。

「やり方が違う。

 俺はそんなやり方は望んでいない」

「手っ取り早いほうがいいと思うけどねえ。何年同じことをすれば気が済むの?」

「……。

 だが……。

 だが……」

 シキ先生の声は、何かを迷っている。

 友達の友達の声は、あざ笑っている。

 わたしは、

 わたしは、何か、理解し損ねているような気がした。理解しないといけない気がした。

 もう、気づかないと。いい加減に。

 いい加減に。

 でも、何に気づけばいい?

「何を、話しているの?」

 わたしはそう言った。すると、友達の友達は鋭くわたしを見た。覗き穴の向こうでは、シキ先生が息を飲む声がした。

 沈黙。

 目がくらむような、漂白されるような時間。

 わたしは、下り坂を駆け下りて止まれなくなった人間のように、何処かへと足を踏み外したような気分を感じながら、言った。

「ど、どうしたの?

 ねえ、今、わたしのことを話してたんだよね? わたし、理解できなかった。

 だから、ねえ、説明して。

 話して。

 話して。

 話して」

 これは、なんてことのない会話。

 どうということもない会話。

 だから、こんな風に、心臓がばくばく言うなんて変。

 わたしは、坂道を転げ落ちるよう。

 足を踏み外したように、思考の糸が乱れ、慌てて、足をもつれさせるようにして、踏みとどまろうとしながら、けれど、転がり落ちていく。

「話して。

 話して。

 話して。話して。

 話して。話して。教えて!

 ねえ! 教えて! 何があったの? ねえ!」

 

 ……?

 金切り声を上げているのは誰だろう?

 うまく理解できない。

 友達の友達が歓喜の声を上げているのが聞こえた。

「ほら、聞いてよ! 彼女、『話して』って言ってる! 『教えて』って言ってる! 理解したがってる!

 去年、彼女は話を聞きたがった?

 一昨年、彼女は教えてもらいたがった?

 ここまで理解しようとしてたことがあった?」

 ……。

 何を言ってるのか、よく分からない。

 聞こえている金切り声もよく分からない。

 シキ先生が、取り乱したように言うのが聞こえた。

「だが……!

 だが……!

 かわいそうじゃないか! 俺は、こんな風に、一方的に突きつけたいわけじゃない!」

 よく分からないが、シキ先生は優しいなあと思った。やっぱり、シキ先生の医院に来て良かった。シキ先生に話を聞いてもらえれば、きっと、むらさき鏡のことなんて忘れられる。今年も翌日を迎えられる。

 

 ところで、金切り声はいつ止むんだろう。

 ……。  


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ