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小鬼の巣窟を脱出する

 俺が切り込んでいく形で、ゴブリンの集団に道をつける。そこを後続のショウタ、使い慣れていない俺の剣を振るうルナがこじ開けユーリが濃紺のポニーテールをゆらして駆け抜けていく。


 おそらくあの部屋は洞窟の中でも突き当りになる場所の一つだったのだろう、出口に向かう方向からこちらに向かって向かってくる集団、道をふさぐように待機している集団。どうしてもこの数を正面から相手にしていると俺では後ろの3人をかばいきれない。だが、所詮ただのゴブリンであり、蹴散らして突破することに不都合はない。雑魚を踏み散らかして出口への道をひた走る。


 目の前にまたゴブリンの塊が、道を通せんぼするように現れた。勢いの乗った飛び蹴りで集団に飛び込み、ちょうどいい高さにある頭に魔物素材のプロテクターで保護された膝を叩き込む、寄ってきたのを掴んで放り投げて前に抜ける、

 

 すかさずそこにショウタたちが入り込み、穴を広げる。そしてそれが閉じる前にユーリが抜ける。事前に考えたとおりの動きができている。ただ、ユーリが思ったより体力の消耗が激しいようだ、少しスピードが落ちてきている。このままだと、どこかで引っかかるかもしれない。


 ユーリの体力に気が付いてから、少しおかしい。急に前からくるゴブリンがいなくなった。相変わらず後ろからは無視した生き残りゴブリンたちの声が迫っているのだが、前からは来なくなった。だが依然として俺の耳は前方からゴブリンのぎゃあぎゃあと騒ぐ声を拾っており、どこかで集まって待機しているものと思われる。どうやら比較的頭の回るものがいたようだ。前から来ないというならば、少しだけ休憩をとってやれそうだ。


「ルナとユーリは休憩、ただし出口の方だけ注意しておいてくれ。」

「は、何言ってるんだ、どこで休憩するんだよ」

「ショウタ、お前は休憩と言っていない。どうやら前方からはゴブリンを送り込むのはやめたようだ。後ろの奴らを片づけてる間に、二人は休憩だ」

「え、でも……それじゃ」

「大丈夫大丈夫、数えていたが後ろのはだいたい15匹前後だろう。それぐらいならばなんとかなる」


 そういって俺は戸惑うルナから預けていた剣を返してもらい、それを持って後ろを向く。


 来た、初めは3匹か。ちょうどいい感じにばらけているようだ。相手もこちらを認識し、手に持った棍棒のような木の枝を振り上げてこちらに走ってくる。先頭を走っていた一匹を切りつけ、そのまま体を回し、後ろにいたゴブリンに後ろ回し蹴りを叩き込む。もう一匹もショウタの剣によって切り伏せられた。3匹。


 次の一団がやってくる。今度は5匹か。ショウタが前に出る、手に持ったバックラーと剣をうまく使い二匹止めており、ショウタが逃がした三匹がこちらに向かってくる。一匹は飛びかかってくるが、そいつには蹴りを、横を通り抜けようとする二匹には銀の一閃をそれぞれに食らわせる。もう次の一団が来た、6匹だろうか。前のショウタはあと一匹の攻撃をバックラーで受けている。その隙をつき前に出るついでに首筋に切れ込みを入れてやる。8匹。


 切れ込みを入れてあげたゴブリンをひっつかみ、前の集団へ投げる。それなりに狭い通路で先頭が死体を投げつけられ、たたらを踏んだところを後続にぶつかられて押し倒される。またそいつに躓くという悪循環が起こり、こちらに向かってくるのは2匹。俺とショウタで一匹ずつ請け負い、転んでごちゃごちゃになっている連中にもとどめを刺す。14匹。


 一匹予想よりも少なかったか。と思った瞬間にもう一匹大きく遅れてやってきたが、一にらみすると、ひぃっと声をあげて奥へ戻っていった。15匹。


「とりあえず後ろのゴブリンは片づけた」

「前からは何も来ませんでした」


 受け取った剣をもう一度ルナに渡しながら、前からは何も来なかったことを聞く。座り込んでいるユーリに目を向けると、もう呼吸は整っているようでそれなりに回復したようだ。


「もう後ろから追っかけられることもないみたいだし、前からも来ないし、出口まで歩こうか」

「グレイさんは高ランクですし、納得の強さですけどショウタさんって装備の新しさを見る限りごく最近ですよね?冒険者になったのって」

「そうです、あとだいたい年も同じくらいだろうし無理に敬語使わなくてもいいですし、さんもいりませんよ」

「そうですか、私の敬語はもう私の素の口調みたいなものなので、さんだけとりますね、ショウタ」

「ほんと、自信なくしちゃうわ。あとあんたも敬語とりなさいよ、ル、ルナって呼び捨てでいいから」

「わかった、そうするよ」


 その後、小声でちょくちょく会話をしながら、ゴブリンの巣穴を出口に向かって歩いて行ったが、ついにその後一匹も出ることはなく、出口付近まで行くことができた。


「ねえ」

「ああ、聞こえてる」

「明らかに誰か外で戦ってるよな」

「爆発音もしますね」


 実は俺はもうちょっと前から聞こえてはいたのだが、ほかのメンバーも今、外の音に気が付いたようだ。誰かが外でおそらくここのゴブリンたちと戦闘中なのだろう。これが急に前からゴブリンが来なくなった原因か。できれば外のゴブリンに気づかれずに様子を見たいな。


「ちょっと外を見てくる、ここで待っててくれ」


 そう言い残して、出口へ近づいていく、少しくぼんでいて、外からは死角になっている壁際に張り付いて外をそーっと覗いてみる。


「汚い蛮族どもが、じゃまだ、とっとと死ね」


 うん、あんたの口も十分汚い。


 3人のパーティのようだ。冒険者としてはかなり重装備の部類にはいる、スケイルメイルとチェインメイルを重ね着し槍を振るう凶暴な笑みを浮かべる男に、急所のみをカバーした防具をつけた軽装の男、後ろの男は魔法使いだろう、タクトのような杖を振るって、炎弾を飛ばしている。


 対するゴブリンは数自体はあと30匹ほど残っているが、それ以上に死体が転がっており、おそらく初めからずっと優勢だったのだろう。ゴブリンの中に二回りほど大きい奴がいる、ゴブリンリーダーか。あいつを相手にしてもあの三人ならば勝てるだろうし、俺たちが乱入するのは迷惑にしかならなそうだな。助けに入る必要があるかもしれないと思って見に来たが、杞憂だったようだ。


 さきほど、蛮族、という言葉が出たが、蛮族というのはゴブリンのような一定以上の知能をもち、大小さまざまなコミュニティを形成している人族に敵対的な生物を指す言葉だ。昔は魔族と呼んでいたようなのだが、魔人族が人族側に来たときに紛らわしい呼び方は失礼なんじゃないかということで、呼び方を変えたそうだ。この蛮族は常に人族と生存競争をしており、この国は人族の国の中で一番蛮族国家に近い国の一つである。


 三人のところに戻るといつのまにか、かなり打ち解けていたようで、表情が先ほどよりも柔らかい感じがする。


「どうやら、外で冒険者が戦っているみたいだ、かなり冒険者側が圧倒しているようだから手を出すのは控えるぞ」

「依頼でも受けたのかな、ルナのほかにもさらわれた人はいたみたいだったし」


 ショウタの発言に、ユーリは嫌なものを思い出したとばかりに顔を背け、ルナは一歩間違えればあの凄惨な集団の仲間入りをしていたかもしれないとでも思ったのだろうか、顔を青くしている。


「ユーリ、そんな顔をするな。あの人たちを見捨てて脱出を優先したのは別に冒険者としては間違っちゃいない」

「でも、でもっ!!!」

「今後、こう言った場面は必ずまた遭遇するだろう。ルナ、そういう時にどうするかをユーリときちんと話し合った方がいいぞ」


 ユーリはこういったことになると感情的になるのか。人として、神官としては正しいのだろうが、冒険者としては早死するタイプだな。



------



「なんですか、この討伐数は」


どういった仕組みなのかは知らないが、俺たちの活動はギルドカードに自動で記録されていく。そのなかで、討伐の記録を照合して、ゴブリンの討伐依頼をきちんとこなしたか確認したアンドレイはあきれの声を上げる。


「あなたまさか新人を連れて巣でも強襲したんですか?アホなんですかね、間引きの常時依頼で巣ひとつ壊滅させて来る必要なんてないでしょうに」

「あー、いえ、なり行きだったんです」

「ショウタさん、あなたもですよ、さも自分のせいじゃないような顔をしてなにグレイさんをかばっているのですか。新人教育でも言われたでしょう、無理はするなと。あせってランクを上げてもろくなことになりませんよ」


アンドレイの凄み顔は美形だけになかなかの迫力があり、それを初めてくらったであろうショウタは少し萎びている。


「もういいです。おそらくランクは昇格するでしょうが、これからくれぐれも無茶はしないように」


お、どうやら初犯だったということでもう解放されたみたいだ。


「グレイ、あなたはまだですよ」


ショウタが解放されたので俺も解放されるかと少し気が緩んだのが顔に出てしまっていたようだ。


「ギルドの期待の新人なんですよ、彼は。わかってるんですかね。だいたい彼を死なせてみなさい。私以外の受付嬢、ほとんど敵に回しますよ。来るたびにしばらくは受付嬢から睨まれますよ」


おおう、それはちょっといやだ。でもアンドレイは敵にならないのか。んでそのショウタ君と受付嬢はどうなっているのかな?


「ちょっと、聞いているのですか、何よそ見をしてるんです、私の眼をみなさい」


アンドレイは自然に上から目線だが、嫌な感じはないんだよな。重ねた年輪が出せる、目に見えない何かがあるのだろうか。


それでショウタだが、ルナとユーリも一緒だな。パーティー申請でもしているのだろうか。受付嬢はこの前ショウタが登録した時の人だ。泣きそうな目でショウタと後ろの少女二人に目を向けている。その目は心なしか睨んでいるようで、まるで私は遊びだったの? とでも言わんばかりだ。ショウタが登録したのは四日前だから遊びだったも何もないとは思うのだが……まさか手だしてないよな?


アンドレイの小言を聞き流しながら、異世界四日目にして美少女に囲まれ修羅場を迎えたショウタを見ていると、俺は思った。ああ、ショウタがハーレムくそ野郎になるのは近いのかもしれないな、と……


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