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神々と冒険者ギルド

 

 今、俺たちの目の前には荘厳な雰囲気を放つ白大理石でつくられた神殿がある。この王都には、ほとんどの神の神殿が大きさに差はあれども存在する。その中で今目の前にあるのは太陽と天空を司る神の神殿だ。


「すごいな、あの出入りしている人たちはほとんど信者なの?」


 ショウタの言う通り神殿にはたくさんの人々が出入りしておりそこに祭られている神の人気の高さを知らしめている。


「あそこに祭られている太陽と天空の神は神々の中でももっとも力のある神だといわれてんだ」

「へー、名前とかあるの?」

「残念ながら現存する信仰の対象となっている神の名は伝わってねー、しかしこちらが勝手に名前を付けるわけにもいかねーからそれぞれが司っているものを頭につけて○○の神と呼んでいる」


 地球の記憶があるショウタにはいまいち受け入れられないようだ。なんとなくうさん臭そうな目をキースと神殿に向けている。


「神は実在するぞショウタ」

「証拠でもあるの?」

「証拠ですかー?、世界各地の文献には過去何度も神をこの世界に下ろすことに成功し実際に魔物を退けた、といったことが書かれていますねー」


 なんだかそれを聞いてもいまいち納得していなさそうだ。まあそうだろう。地球で聖書が残ってるから神は実在する。そんなことを言っているようなものだからな。


「お前は昔からそうだったな、ただあの後誰からも教わらなかったのか?少なくとも信仰することによる明確なメリットがあるんだよ」

「そんなのあんの?」


「そうだ、神聖魔法と言う信仰する神に認められなければ使えない神官専用の魔法がある。これは神の力の一端を借り奇跡を再現する魔法だ。こればかりは認められてそれを扱うだけの魔力があれば魔法を扱う才能がなくても使うことができる」


「どれだけ認められるかによってどこまで力を借りれるかも変わんだ、んでだいたいはどの神も共通して初めは人を癒すための神聖魔法を使えるよーになる、そして借りられる力が増えてくるとその神限定の力を借りられるようになる。まあ力目当ての不純な奴らは精々擦り傷を治せるようになるくれーだ」


「キースさんはどんなの使えるの?」


「俺は太陽と天空の神の力を借りられるんだが、回復に加えて雷を敵に向けて出すのと、空が見えてるときは落とすこともできる。あとは自分の近くに小型だが太陽を再現できる」

「キースは神官らしいのは服装だけだけど、意外と高位の神官に分類できるのよー」

「あぁ?俺が神官らしくないってか?俺は敬虔な信者だぜ、これだけ神の力を借りられるのがいい証拠だろーが」


 メリルとキースが言い合いを始めた。終わるまで待っているのもばからしいのでこいつらも放っておくことにした。ショータを連れてギルドへ行くことにする。

 

 神殿へ向かう人々に逆らうように人ごみを抜けていく。この辺は食べ物系の露店がたくさんあるようだ。いい匂いがあたり一面に立ち込めており、香辛料のにおいと何かのタレが焼けるにおいが小腹の空いたお腹を刺激する。あの肉の串焼きが気になるな。


「あの串焼きがうまそうだ。ちょっと買ってくか」


 威勢のよさそうな兄ちゃんが汗を垂らしながら肉を焼いている。


「串焼き2本くれ」

「二本で銅貨6枚です、タレと塩どっちにしますか?」

「やっぱ変更だ、4本でタレと塩二本ずつにしてくれ」

「へい、注文の串焼き4本です、全部で1200ガルです」


 兄ちゃんに銀貨を2枚渡してお釣りとして銅貨を8枚もらう。そして受け取った串焼きを半分ショウタに渡しながら、肉に噛り付く、うまい。これは何の肉だろうか、食べただけでこれが何の肉なのかまではわからないが、これがおいしいということだけはわかる、噛むたびにあふれ出てくる肉汁とタレが相性抜群でそれが次の一口を誘う。

 

 あっという間に一本なくなった。

 

 次に塩のほうにかぶりつく。肉の素材も悪くなく、素材の味を引き立てる絶妙の塩加減でこれも文句なしにうまいが、さっきのタレのほうが味が濃かったため少々物足りなさを覚える。


「なあグレイ、こっちの通貨ってどうなってんの?」

「当然それも知らないよな、銅貨一枚がだいたい日本での100円に相当する、銀貨が1000円、金貨がだいたい10万円だ。交換レートは銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だ。この上に白金貨なんてのも存在するがこんなの貴族や大商人でもない限り見る機会すらほとんどないな」



 ーーー



「冒険者がたむろってる酒場みたいなのを想像してたんだけど全然違うね、なんだか日本の役所みたいだ」

「ギルドによってはここみたいにそういったところもあるぞ、ただ王都は意識して綺麗にしているらしいが」


 ショウタはちょっと意表を突かれた感じでギルドを眺めている、昔の俺も目の前の清潔感を感じさせる真四角な建物を見て同じような反応をしたことを今でもよく覚えている。それだけ当時の俺にとっても意外だったのだ。


 入口に立っている護衛に軽く挨拶してギルドの中へ入っていく。外見通り、内装もきちんとしていて清掃も行き届いている。ただ冒険者というのはやはり男が多く、荒事が絡む仕事が多いのでムキムキの男たちの割合が高く、パッと見の印象はむさ苦しい感じで清潔感は感じない。


 俺はパーティでの役割上パワーよりも敏捷性重視でいわゆる細マッチョというやつである。というよりも鍛えてもそんなに派手に筋肉がつかない体質だっただけだが。ムキムキどもになよなよしたもやし野郎と言われることもあるが別に悔しくなんかない、体質に感謝である。


 ギルドの受付に見覚えのある金髪が見えるのでとりあえずそちらに行く。


「おう、久しぶりだな」

「はい、だれでしたっけ?ナンパですか?私は男ですよ」

「いやいや俺だよ、グレイだよ覚えてない?」

「ああ。そういえば確かにあなたたち浮雲でしたっけ?は昔この町にいましたね」

「そのころは浮雲なんて呼ばれてなかったけどな」

「王都を出て行ったあとあっさり死ぬかと思ってましたが、意外と活躍していたみたいですね、ちらほら名前は聞こえてきていましたよ」


 今俺の目の前にいる金髪で華奢なこいつはアンドレイ。俺たちが王都で活動していた時に特に世話になった人の一人だ。森人の先祖返りもちで伝承通りの森人の容姿を持っているが残念ながら森人の種族特性は一切発現していないと本人が言っていた。


 そして見た目年齢は非常に若く、まだまだ20代で通るのだが実際今はだいたい280歳ほどである。


「それで?要件はなんでしょうか?」

「ああ、しばらく王都に腰を据えようかと思ってな、あんたの顔を見に来た。あとはこいつのギルド登録だな」


 そういってショウタを紹介する。ショウタはさっきまで俺の後ろで「エルフキターーーー」とか小声で言っていたが俺に紹介されるとサッと表情を切り替えてあいさつした。


「ショウタといいます、よろしくお願いします」

「礼儀はしっかりしているようですね、どこかで教育を受けていたのですか?」

「ええぇっと」

「まあそんなことはどうでもいいでしょう、登録はあちらの受付でお願いします」


 ショウタは返事をしてからアンドレイが示したカウンターのほうに行った。今度は本物の女性のの受付嬢に対応されている。なんだか女性の目が獲物を狙う目をしているような、こころなしかカウンターの中にいるほかの受付嬢もショウタに意味ありげな視線を送っているような、そんな気がする。まああいつは受付嬢から見てもそこそこ優良株なんだろうな、日本で教育を受けてきているから受け答えも丁寧だし、イケメンというわけではないが、見れない顔じゃなくちょっと優しげな感じで強面のムキムキよりは印象がよさそうだ。冒険者ギルドでの受付嬢の結婚相手は冒険者の割合がかなり高い。中堅上位くらいにになれば一般市民の平均収入を大きく上回る冒険者はもっとも乗りやすい玉の輿なのだ。だから受付嬢は受付業務をしながら将来有望そうなやつに目をつけていく、だが目をつけていた冒険者が睨んだとおりに実績を積んでいったとしてもそこまで待っていては自分と同じようにその冒険者に目を着けるものが多くなりライバルが増えてしまうのだ。かといって優良そうでも実績を積む前に手を出すのはギャンブル性が高いのである。だから受付嬢の間ではそれなりに駆け引きがあり、常にチキンレースをしているのである。


「彼は大人気のようですね、彼女たちの間に不和が生まれなければいいのですがね、男がかかると女性は怖いですから」

「受付嬢売れ残り最長記録保持者で現在更新中のあんたはどうなんだよ、いい子とかまだいないのか?」

「3つ間違いがあります。私は女性ではありません、売れ残りではありません既婚者です、別に探しているわけでもないので「まだ」という表現は不適切です」

「おーおー必死になっちゃって、冗談だよ冗談」




「さっ! お客さんが来たみたいです、そこにいると邪魔ですよ、営業妨害ですよ。どいてください」


 追い払われてしまったようだ。もうちょっとショウタのほうはかかりそうだな。依頼の掲示板でも見てるか。


 さすが王都の掲示板である、びっしりと依頼書が掲示板に整理されて張られている。なつかしい薬草採取の依頼書をみつけた、この依頼書まだ張り替えられていないのか、紙の変色はさらに進んでいるが文字の具合や内容が俺たちが駆け出しだった当時のままである。ショウタもこの依頼を初めは受けることになるだろう。そういえばあいつ、なんかチートとかもらってんのかな? 後で聞いてみることにしよう。見る依頼書のランクを上げる。


 イノシシ退治、ゴブリン退治など討伐系がこの辺には集まってるな、これも俺たちにはちょっとレベルが低すぎるだろう。次だ。


 フェデル山脈に生える霊草採取

 ※ワイバーンが出没しているようです。注意してください。

 最低5株採取してきてくだい 1株銀貨5枚で買い取り 成功報酬として金貨5枚


 ほう、あそこにはいなかったはずなのだがな、どこかから流れてきたのか。ならば討伐依頼も出てそうだ。


 フェデル山脈のはぐれワイバーン退治

 報酬 金貨20枚

 ワイバーンの死体は討伐者の物とします。


 お、あったあった。これくらいが丁度いいだろうか。ルイーゼあたりは文句を言いそうではあるが。


 連続行方不明事件の調査

 ここ10歳から15歳の少女が立て続けに行方不明になっている。

 この原因を突き止めよ。誘拐である可能性が高いがその場合犯人の生死は問わない。

 報酬 金貨150枚


 明らかにやばそうなのもあるな、報酬が高すぎる。何か裏があるのだろう。



 ---



「おわったよ」


 お、ショウタが戻ってきたようだ。ショウタを引き連れてギルドをでる。空はもう夕暮れの赤に染まっている。城壁があるため太陽が大陸に沈んでいるところは見えないが、もうじき日は暮れるだろう。


「次はどこに行くの?」

「そろそろ時間もいい頃だろうし宿屋兼酒場に行くか、だいたいもうみんな集まっているだろう」

「そこも昔行きつけだった店なの?」

「ああ、駆け出しのころはよくただ飯食わせてくれたところなんだ、間違いなくお勧めできる宿だな」

「そうなの?じゃあしばらくはそこにお世話になることになりそうだね」

「そうしとけ、あそこのマスターは頼りになる」


 ずいぶんと長くなってしまった自分の影を踏みながら閑散とした道を行き、何人かのおそらく家に帰るのだろう人たちとすれ違う。子供たちが駆けていった、あの子たちも家に帰るのだろう。さっきギルドでみた行方不明事件の依頼書を思い出したが、それなりに注意喚起はしているだろうし、それで親が外出を許しているのなら俺がどうこうする必要はないだろう、と考えるのをやめた。



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