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特大ルビーの正体 3

「おい、やめないか」


 押し問答を続けるアンドレイとマーべりー男爵夫人サマの後ろからアルトボイスの声がかかった。


 アンドレイにがみがみ言っていた夫人は振り返ることなく不機嫌な声で返事を返す。


「あら、何故かしら?」

「はぁ……、断られているのがわからんのかね?」

「たかが一代限りの名誉子爵、元は平民ですわ」

「はぁ、それを言うならば私の父は平民だな? もういい、カイゼル連れていけ」

「かしこまりました、旦那様」


 推定ベルトルート男爵の指示を受けたカイゼルと呼ばれた初老の執事に引っ張られてギルドを退場していく夫人、なにやら喚き散らしていたようだが興奮しすぎてもはや何を言っているのかさっぱりだった。


「失礼した、アンドレイ殿」


 夫人を退場させてアンドレイの前に出てきた男爵は一礼し、くるりと踵を返して出ていった。


「うるさかったな、あのババァ」

「どうなることかと思いましたよー」

「おいアンドレイ、あのルビーやっぱ返す」

「これは私のよ!」

「おや、ルイーゼさんはこうおっしゃっているようですが?」


 ルイーゼの返事を聞いて眼鏡の奥から意地悪な目をのぞかせ、口角をうっすらと上げるアンドレイ。


 くっそ、もういいだろ返そうよソレ。


「ルイーゼさん、面倒事の種はギルドに返してしまうのが賢いですわよ」


 ステラは自分が手に入らないと分かるとすぐさまルイーゼも手に入らないように動くようだ。なかなかにセコいが今は気が付かなかったことにしとくか。


「ならギルドの貸金庫に普段は保管しておきませんかー?」

「それいいな」


 どうだとばかりにアンドレイの顔をちらりと見る。俺の視線の意味が分かったのかふっと鼻で笑い、貸金庫の手続きの書類を持ってくるようにアーシャに言いつけた。


「別にかまいませんよ、あなた方が所有しているという事実があればそれを盾に先ほどのような方を追い帰せますので」

「賊みてーなのが押し入ってくるかも知んねーぜ?」

「そういう者たちは合法的に締め上げられるため非常に助かります」


 戻ってきたアーシャが笑顔でサラッと怖い事を言う。その笑顔は心なしか獰猛に見える。

 どうやらルビーの面倒事をうまく押し付けて一杯食わせてやろうと思ったのは失敗みたいだ。


「こちらにサインをお願いします」

「ルイーゼっと、これでいいかしら?」

「はい、間違いありません」

「じゃあこれよろしく頼むわね」


 そういったルイーゼから気軽に渡された宝石を持ってアーシャは奥に消えていった。


「それにしてもさっきの奴うるさかったよなぁ、貴族ってのはあんなのばっかかよ」

「まあ、貴族と言ってもピンキリですから」

「そうなんですかー?」

「ええ、ベルトルート男爵もあの方の振る舞いには頭を抱えているみたいですよ」

「あのいい声をした男爵さんはまともなのか」

「そうですね、もともと大商人から先代が成り上がった家だという事も関係してるかもしれませんがね、彼とは仕事仲間として親しくさせてもらっていますよ」

「ギルドで冒険者から買い取った素材はあの男爵にって事ですの?」

「あの家だけではないですがね、大きな取引先の一つではあります」


 ところで、と前置きを置いてカウンターの下からアンドレイが一枚の依頼書を取り出した。


 ほとんど探してない。ほぼノータイムで取り出してるって何気にすごいよな。


「これ、どうします?」

「星光虫の採取の護衛ね、以前王都にいた時はされる側だったのにもうする側なのね。面白そうだし受けるわ」

「おい、一応俺らにも聞けって勝手に返事してんじゃねーぞ」

「どうするのよ」

「受ける」

「ならいいじゃないのよ」


 即答で受けると返したキースに打撃を加えてからアンドレイの方に向くルイーゼ。


 それにしても懐かしいな。星光虫。この王都で夏の一晩だけ光を放つ石のような虫で、王都の北を流れる川底に生息している虫だ。そしてこの虫が光る夜は南に向かって一斉に飛び立つ日でもある。


 光るのはその晩だけなのでその日以外は地味な虫でほとんど無価値なのだが、この時期の貴族の行事にこの虫を持ち寄って一気に空に昇らせるという一晩だけの価値にどれだけの無駄遣いが出来るかを競うものがあるらしい。


 全く持って意味が分からないが、おそらく屋敷を豪華な調度品で飾るのと理由は同じだと思われる。つまりこの夏の時期は星光虫が飛ぶように貴族に売れるのだ。


 そしてギルドはこれを貧乏な初心者冒険者救済の依頼とした。やはりどの業界でも後進のいない所に未来はないのである。


 しかしここまでおいしい依頼なら中堅所も受けたいと思って不満がたまるだろう。それを解決するのがこの護衛依頼だ。


 幾ら王都の近くとはいえ、初心者には厳しい魔物が出る可能性も十分にあり、そのなかでも特に星光虫を好物とする魔物はギルドが高価で買い取ってくれるのだ。


 それでも星光虫狩りほどの効率は出ないのだけども、ギルドから報酬も出るし護衛依頼を振られるまでになった冒険者なら後進の育成の大切さを分かっているので特に文句は言わないらしい。


「じゃあ受けるという事でいいわね」


 おっと考え込んでいたらいつの間にかパーティーの意思確認は終わっていたみたいだ。俺も受ける気でいたから構わないが。


「それにしてもアンドレイ、お前ギルドマスターだろ? なんで受付業務してるんだよ?」


 若干の非難を込めた質問をアンドレイに投げる。


「あなたたちは私が着任した時いなかったのでしたね、簡単ですよ。自分の執務室にこもっているだけではいざというときに対応できない可能性があるのです。やはりいるかいないか分からない組織の長より、こうやって身近にいる方が信頼できるのではないですか?」


 確かに一理あるな。


「前見たギルマスさんは書類に埋もれて死にかけてましたけどここではそういったことはないのですかー」

「それはそのマスターが仕事をしていないだけでしょう。私は常に書類仕事は片づけていますよ、その空いた時間にここに立っています」


 でたよ、戦闘以外に関しては何やらせても優秀なんだよなぁ。


「では依頼の説明をしますね、とはいってもそんなに難しいことではありません。川で採取している新人たちを襲ってくる魔物たちから守ってください。他の護衛に立っている冒険者とも連携してください」


 まあそんなもんだろう。俺らが守ってもらっていた時もそんな感じだったし。


「わかりましたわ、護衛の日はいつですの?」

「三日後です」

「じゃあその日まで休みにしよーぜ」

「そうですねー、ルイーゼさんとかは日帰り出来る依頼にしておいた方がいいですよー」

「私が戦闘狂みたいに言うのはやめてくれるかしらね?」

「戦闘狂だろーが」

「違うわよ、私はただ戦いが好きなだけ」

「やれやれですわ」


 背後で話し合う声を聴きながら依頼の掲示板を一応確認してみると奇妙な依頼があった。


 個人名義での星光虫採取依頼だ。苗字もないし貴族でもなさそうだ。ほとんどなににも使えず、貴族どもがこぞって買うために一匹がとんでもなく高い虫を買うなんてどんな奴なんだろう。


 名前から女性だとは思うが、少し興味がわいてきた。どうやら場所は職人街の様で工房なのか商店なのか分からないがこの休みの間に尋ねてみようかね?







しばらく投稿ペース鈍ります

すみません

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