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村に到着する

 今は午前4時ちょっと過ぎだ。日はまだ昇っておらず、この広場の光源は大きく燃え上がらないように、しかし火を絶やさないよう微かに燃やしている焚火だけで、小枝がぱちぱちと爆ぜる音に混じってどこかで鳴いている鳥や獣の声が聞こえる。


 キースが小枝でも焚火に放り込んだのだろう、一瞬火が大きくなり広場の隅の骸を照らし出した。火の勢いが収まると闇がすぐに広場に浸食してきて同時に盗賊の亡骸を飲み込む。


「お前も変わったな」


 ポツリと、まるで思い出したかのようにキースが呟く。


「なんだ?急に」

「昨日の事だ。俺らがパーティー組んだばかりのころは盗賊を一々埋めてたグレイが今では進んで……なぁ?」

「目の前であんな事があれば誰でもこうなるよ」


 返事をする代わりにキースがもう一本小枝を放り込んだ。


「あの時に俺は知ったんだ、『ああ、盗賊こいつらは害虫なんだ』って、俺が情けをかけたらかけただけ他の人を不幸にするんだ、そう思った」


 答えに詰まったキースは更にもう一本小枝を放り込む。火が大きくなり広場の隅に巣食っていた闇を追い出し、盗賊たちが再び現れた。


 キースはそれっきり何も言わず、再び微かな音に満ちた静寂が戻って来た。


 その後盗賊の死体は再び闇に飲まれることなく、空が白み始め森に光が差し込む。太陽が昇り始めた頃ディスがいるであろう馬車がごそごそし始めた。


 日の出とともに起床か。商人の朝が早いのはどこも同じなのだろう。


「おはようございます」


 馬車から出てきたディスは焚火のそばにいる俺たちに挨拶をし、俺たちのいる場所を通り過ぎて森の茂みに向かっていく。


「おい、あんたどこ行くんだよ。ここから離れるんなら俺がついていくぞ?」

「そこで用を足してくるだけなのでご心配なさらず」

「そ、そうか。すまない、なんかあったら叫べよ」


 こちらに振り返ったディスはなんとなくバツが悪そうにしているキースを一瞥し茂みの中に消えていった。


「ッ! 紛らわしいんだよ」


 軽く舌打ちをして小声で毒づくキース、いや今のはお前の早とちりだろ。やはりキースはあの商人が嫌いらしい。


 ディスが戻ってくる頃にはテントの方も中で物音がし始めた。もうすぐみな起きてくるだろう。



 ―――――



「おおっ!ディスさん、待ってましたよ」



 おそらくディスはこの村にいつも商品を持ってきているのか、村民と顔見知りのようだ。村の中に入り、中央のちょっと広いところに馬車を止め商品の確認をしているとこちらに気が付いた村の住民達がディスに声をかけて、皆に知らせてくると言ってどこかへ走っていく。この分だとすぐにこの村の住民全てに情報が行き渡るだろう。


「みなさん、護衛ありがとうございました、帰り道の護衛もこのようにお願いしますね。予定通りこの村に四日間滞在しますので、宿を取ることをお勧めします。この村唯一の宿はあれです」


 ディスが指した方向には確かに普通の民家にしては大きい建物があり、あれがおそらく来客用の宿なのだろう。


 この村はミオたちがいた村と違い、随分と小ぢんまりとした印象を受ける。森が近くにあるため、農業よりも狩猟の方が盛んなのだろうか。


「何もないわね」


 思わず、といった風にルイーゼが声を漏らす。確かについそう言いたくなってしまう気持ちはわかる。田舎の寒村といった雰囲気があるのだ、ここには。活気がないというか、けして人が極端に少ないわけではないが人の存在感が薄い。


 宿屋のドアを押し開ける。古い見た目に割にスムーズに軋むこともなく扉が奥に開く。


 意外としっかり整備はしてあるみたいだ。


「いらっしゃい、この村唯一の宿屋へ。ディスさんの護衛の冒険者達だね? ここに泊まるのは三泊でいいかい?」


 宿の扉をくぐるとテーブルに座って何か繕いものをしていた恰幅のいいおばさんが声をかけてきた。


「そうですわ、三泊ですわよ」


 俺たちが言おうとしていたことを先に言われ怪訝な顔をして一瞬固まっていた俺たちの中で僅かに早く回復したステラが代表して答える。


「なんでって顔をしてるねぇ、簡単さね、ディスさんの滞在期間はいつも四日間だからだよ」


 そんなにあのディスって人とこの村の付き合いは長いのか。あの人は行商という不安定な商売の中で出来るだけ安定を求めた結果がこの地域密着型行商なのだろうが。


「で、幾らだ?」

「そうさねぇ、ディスさんの護衛という事で安くしておくよ」


 そして宿の女将に三日分の金を先払いし、俺たちはそれぞれの部屋に荷物を置き、貴重品だけは身に着けてまた一階に集まった。


「みんなはどうする?」

「俺は昼寝でもする。今日の朝は早かったからな、ちょっと眠みー」

「まだ誰にも発見されていない原石を探しに行きますわぁ」


 昼寝か、俺もそうしようかな。ステラは何を言っても無駄なので何も言わない。


「私は近くで狩りでもしてくるわ。女将さん、ここって持ち込みで料理作ってもらえるのかしらね?」

「問題ないさね、食べきれない分は少しくらいなら買取もやってるよ」


 ルイーゼ一人で狩りに行くのだろうか? 今日の晩御飯はミンチだな。


「グレイはどうするのよ」

「俺も寝る、眠たいし」

「じゃあ私はキースさんとグレイさんが間違いを起こさないかドキドキしながら見てることにしますー」

「「起こすわけないだろ(ねーだろ)! ! !」」


 思わずキースとハモりながら全力で否定する。あいかわらずメリルはとぼけた顔でとんでもないことを言い出す、それは心臓に悪いのでやめてもらいたいものだ。


「じゃあ解散ね」


 ルイーゼの声を合図に俺とキースは二階に上がっていく。そして部屋に入って木の板に藁を詰め布で覆った簡素な布団を乗せただけのベッドに横になり、乾いた藁の匂いに包まれて俺は意識を手放した。



 ―――――



 今は午後の3時、宿屋の一階で宴会だ。ディスがここに泊まるという事で、今日はここでみんなで飲もう、という事になったらしい。


 そしてこの場には目立った料理が一つある。大テーブルを二つつなげてもはみ出んとする鹿の丸焼きで、真っ二つに斬れているのはご愛嬌だろう。これはルイーゼが仕留めてきたものらしく、剣の力で遠距離からバッサリいったらしい。なんとも豪快で大雑把な狩りである。


 と、ここでまた誰か入って来た。そちらに目を向けるとそこには腰のまがったおじいさんがいて、誰かを探すように中を見渡し、こちらと目が合った所で目を留めた。


 目当ては俺たちか。おそらくこの中で見慣れない者を探し、そこから多分一番酔ってなさそうな奴に目を着けたって所だろうか。


 やはりこちらに向かってきた、なんの用なのだろうか。


「こんばんは、わしはこの村で村長をしておる者で、キクリと申します」

「丁寧にどうも、ディスさんの護衛で来ました、グレイと言います」

「ほう、おまえさん、若いのに礼儀をわかっとるのう」


 このおじいさん、珍しく敬語に嫌悪感はないようだ。若いころは都会に出ていたりしたのだろうか?


「おまえさんら、しばらく暇じゃろ? わしの頼み事を聞いてはくれんかの? 当然報酬は出すぞい」


 急にフランクになったな、やっぱりちょっと恥ずかしかったのかもしれない。頼み事か、どうせ暇だし出来そうな依頼ならやってみてもいいかもしれないな。


「先にお話を聞かせてもらえますか? そうでないと判断のしようがないので」

「おお、じゃあ話すぞい」


 そういって軽く咳払いをしてから話し始めた。


「この村には墓地があるんじゃが……、そこが最近たびたび夜に荒らされるようになっての。おそらくなんらかのアンデッドだと思うのじゃが、これの解決を依頼したいのじゃ」

「墓地が荒らされる、ね。なにか他に情報はありますか?」

「そうじゃのう、死体が食い散らかされておったことから実体をもった存在が原因で、墓地に見張りを立てたとしても見張りに気づかれることなく、墓を荒らせる存在じゃ」


死体を食い散らかすか。墓を掘り返して死体を食べる者としては屍喰鬼とも呼ばれるグールなんかが最も多いのだが、人型で人間ベースの個体も存在するもののその知能は極めて低く、とても隠密行動できるとは思えない。


しかしおじいさんの言った、死体を食い散らかすと言うのは知能の低いグールに見られる特徴の一つでもある。仮にグールではなかったとしても知能が低いのならばアンデッドとしても低級だろう、これなら受けてしまっても問題はないかもしれないな。


はてさてこの依頼どうしようかな。





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