王都へ向かう途中
友々と申します
よろしくお願いします
周囲を木々と、首がなかったり丸焦げになったオオカミの死体に囲まれている。血と生肉の焼ける嫌な匂いとすり潰された青臭い草の匂いが入り混じる中、最後の一匹になったオオカミがこちらに向かって助走をし加速をつけ飛びかかってくる。
その突撃をひょいと躱し隙だらけの首を手に持ったショートソードで切り裂いてやる。ズブリと何度も経験した感触が手に伝わり仕留めたことを確信し息を吐く。
「油断してはダメですわ」
氷でできた槍が俺のすぐ横まで来ていたオオカミの頭を貫く。
訂正、もう一匹いたみたいだ。
「あなたらしくないわねグレイ。いったいどうしたの?」
俺よりも背の高い赤の混じった茶髪の女、ルイーゼがロングソードに着いた血を振り払いながら聞いてくる。
「いや。久しぶりに王都の近くに帰って来たと思うと気持ちが逸ってさ」
「だいたい4,5年ってとこか、王都も久しぶりだな」
ところどころに金属で補強がされている神官服をまとった男、キースがそんなことを言いながら仕留めたオオカミの死体を解体する準備を始める。
「あー、解体しなくてもいいんじゃない、見たところただのオオカミみたいだから大して金にはならないだろうし」
「ならせめてアンデッド化しないように焼いておくべきだろーな」
「そうですわね、キースさん離れてくださるかしら?」
そういって自分と同じくらいの長さの杖を持ったステラは杖を一振りしあたりに散らばっているオオカミの死体に火をつけた。
「氷も炎も使いこなせるステラさんってほんとにすごいですよねー」
のほほんとした雰囲気をまとっているメリルが感心しながらそんなことを言っているが
「あなたにそんなことを言われても嫌味にしか聞こえませんわ。妖精にお願いすればほとんどの属性を使えるでしょう?」
「私って妖精に好かれてますからね、当然ですよー」
「……そうですわね」
オオカミが燃え尽きたのを確認できたので
「ちょっと離れたところで休憩しようか」
そういってちょっと離れたところにある開けた場所に向けて移動し始めた。
とりあえずサッと周囲を見渡し特に危険がないことを確認し、背負っていた荷物を下ろす。
それに倣って皆も荷物をおろし各々休憩の体勢に入る。
俺たちは冒険者として駆け出しから駆け出し卒業くらいまでは王都で活動していた。やはり王都というだけあって人口はこの国では一番でそれだけ仕事にあぶれるということはなかった。そしてある程度力をつけた俺たちは王都にいるよりも世界各地を見たいという意見がパーティの中でいくつかあり、各地を回りさまざまな経験を積んだ。気が付いたときには俺たち「浮雲」はそれなりに名の通った冒険者になっていて、そろそろ拠点を決めて活動しようと思い久々に王都に帰る最中である。
「あぁん、いいですわ。その角度、その角度ですわぁ」
「おい。そろそろうるせぇ黙って休んでろよド変態」
「もっと、もっと罵ってほしいですわぁ、いやむしろその角を突きさしてほしいですわぁ」
ステラが生活魔法の念写でキースの姿を写し取りまくっている。またか、また暴走しているのか。
ステラは変態である。それもドがつく方である。
この世界の人間は角が生えているものがいたり羽があったり、動物の耳、しっぽを持った者がいたりする。昔々は獣人、魔人、森人などに分かれていたのだが、種別間の差別、溝をなくそうと努力した先人たちがおりどんどん混血が進んで今では区別をつけることはもはやできない。
ならキースは何なのか、彼は先祖がえりである。突如なんの先祖返りもない親たちから獣耳をもった子供が生まれてくるのである。先祖返りのパターンはさまざまで見た目はもちろん、太古の種族の特性を一部宿す者もいる。
そしてステラはその先祖返りにのみあらわれる通常の人間にはない部位に欲情する。その狂いっぷりは半端ではなく、これがステラでなかったら逮捕されてるのではないだろうか。
「おいグレイ、なんとなく見てないで助けろよ!!」
「あー、はいはいっと」
とりあえずキースの角に夢中で肩よりちょっと長い金髪を振り乱しているステラの後ろに回り込み一切こちらに気を向けないステラの首に手刀をいれる。
「はぁ、はぁ、いつみてもあきませっ……」
いつも通り地面に寝かせておくことにする。
「グレイさんもなんかすっかり手馴れてしまいましたねー」
「はあ、人を暗殺者か何かみたいに言わないでくれよ」
「あはは、それで?何分で目覚めるの?」
「1クロ砂時計の砂が5回落ち切るくらい(5分)だ」
「即答してんじゃねーか、てかそこまで調節できるようなやつ国に仕官してるようなのでもいないんじゃねーの?」
「ステラ限定だ、つかお前が自分でなんとかしろよ……」
「いや、俺がそんなことやってみろすぐに起き上ってもう一発求めてくるに決まってんだろ」
「ステラさんなら普通にありそうですからねー」
「ふくく、ステラだしね」
このパーティで先祖返りもちはキースとメリルの二人だ。
キースは魔人系の先祖返りで角と尻尾をもっている。魔力も平均よりもおおくこれもおそらくは先祖返りの影響だと本人は言っていた。
メリルのほうはステラのターゲットにはなることはない。メリルの先祖返りの影響は長寿と妖精に好かれやすいところに出ていて、おそらく森人の先祖返りだと思われる。耳に影響は出ていないためステラにターゲットされていないのである。
また森人の寿命の先祖返りは厄介で、本来森人は2000年ほど生きたといわれているのだが先祖返りの影響は個人差が大きいため寿命の延び方がわからないため成長の具合をみてだいたいの予測をつけるらしい。今はだいたいひゃく「なにか失礼な事をかんがえていませんか?」どうやらこれ以上は危なそうだ。
「ううぅ、グレイあなたまた「よーし、休憩はおわりね、そろそろ出発よ」」
ルイーゼが面倒なことになる前にみんに声をかけ準備を始めた。ステラも冒険に支障が出るようなことはしない程度には分別は持っているらしくしぶしぶ自分の荷物を手に取り始めた。やっぱり切り替えはしっかりしている。そうでなければ今まで彼女は生きてこれなかったのだから当然だ。
また王都に向けて歩みを進める。そろそろ交易の馬車もよく通る大きな街道に合流できるだろう。
ーーー
今日何台目かもう数えていないが馬車が俺たちを抜き去っていく。どうやら今回の馬車はぱっと見ただけでわかるほど金がかかっていそうで今日見た中でも一番二番の豪華さだった。
「あの馬車すごく高そうだな」
「豪華、というより上品というべきかしら?」
「きっと使ってる素材がかなり高いんですよー、装飾は最低限なのに地味には全く見えないのはすごいとは思いますねー」
「あんなの一生かけても買えねぇんだろうな」
そんなたわいもない話をしながら周りを草原に囲まれた道を進んでいく。
もうオオカミに襲われた森の木々は遠くに見え、それが王都へ近づいていることを実感させる。
「そろそろ王都が見えてくる頃よ」
そんなことをルイーズが言い、つい俺は道の先に目を凝らすがまだ王都は見えないようだ。
「そんなに焦らなくてもすぐにみえてきますよー、どうせこの時間なら、夜は無理をしないとするとどうせ着くのは明日になるはずですしねー」
メリルの言う通り、太陽はもう沈み始めており、草原の海を紅に染めている。
「ああ、王都、王都と言えばたくさんの人、そして角、羽、しっぽ、耳、王都が待ち遠しいですわぁ」
「おい王都についていきなり騒ぎを起こすのだけはやめてくれよ」
「あらぁ、大丈夫ですわよ、私は分別のつけられる女ですのよ、だいたいあんなことするのはあなたの角だけですわ。」
「あーあこんなことをいってくるのがステラじゃなかったらなぁ、角じゃなかったらなぁ、全っ然うれしくねぇ」
「なによ、失礼ですわね。仮にもこんな美人に向けて放っていいセリフではないですわね」
ステラはこんなことを言っているがそんなに背が高いタイプではなくどちらかと言えば小柄、顔立ちも整っているがこちらも可愛い系で間違っても美人と形容できるような女じゃない。
ついでに見事なまな板をお持ちだ。
「ステラさん、小さいですからねー、もう十九歳ですしそれほど伸びしろもないですよねー」
メリルが腕を組み、メリルのご立派なものが強調される。うん、これ無意識でやっているんだよなあ。あーほらほらステラがなんかぶつぶつ言ってるよ。たぶん炎系の魔法かな。お、完成したみたいだ。ステラとメリル以外の俺たち三人はもうすでに距離をとっている。
ゴォォォォォォ
「燃え尽きるといいですわぁ」
ステラは一仕事終えたような満足感あふれる顔で自らが作り出した炎の渦を眺めている。
「おーおー派手にやっちゃって、今日は周りに何もない草原だからいつもよりでけぇな」
しばらく待っていると渦が小さくなっていき涼しい顔をしたメリルが出てきた。その藤色の髪にはコゲひとつない。頭ひとつ分小さいステラを見下ろす様な体勢で余裕の言葉を吐く。
「危なかったですよーもうちょっとで髪の毛が焦げちゃうところでしたー」
「まあ今日はこのくらいで勘弁しておいてあげますわ」
ステラは息を乱しながらそんなことを言いながらまるで何もなかったのように歩き始める。それは皆も同じで、もう慣れたものである。メリルに悪意はないのだが多々こういったことが今までにもよくあったのだ。
「毎度毎度メリルも懲りないわね」
「いったい何のことですー?」
あ、またファイアーボールが飛んできた。そのままメリルはよけるそぶりも見せず直撃したかに見えるのだがよく見ていれば直前に掻き消えたのがわかるだろう。
「炎の妖精さんありがとうございますー」
あいかわらずメリルもいつものホワッとした態度を崩さない。俺らも慌てたりしない。
王都に足を向ける俺たち。もうそろそろ野営場所に着くだろう。明日は王都だ。