プロローグ
「おい、AX…!
ラストだから力一杯暴れてけぇっ!!!」
この言葉と同時に曲がスタートする。
二時間も歌っているので体力はもうないし、喉も痛くなってきた。
それでも観客の中には疲れきった顔をしながらもジャンプし続けてる人もいれば、声を枯らして一緒に歌っている人もいる。
それを見ると、最後までこのライヴを見せてやりたい、
精一杯のパフォーマンスをしてあげたい。
自分がぶっ倒れようが、このライヴを成功させたい。
今自分がボーカルを務めているバンド「maybeme 」の3rdアルバムのリリース記念として行われている全国を回るライブツアー、
そしてここがファイナルのSHIBUYA AXだ。
この場所に来るまでにどれだけ苦労をしたことか。
何度解散まで持ち込まれただろうか。
何度ブーイングを貰っただろうか。
何度諦めようと思ったか。
インディーズの時には客にゴミを投げつられたこともあった。
でも何度も練習して、何度も作り直して、何度も聞き直して、何度もステージで披露してきて、認められるようになってきて、客も少しずつ増えていって…
努力が報われることほど嬉しいことはない。
曲も終わり、舞台袖に引っ込むが毎度お馴染みのアンコールが聞こえてくる。
「どーする?帰ろうか?」
「んなこと言いながら出るつもりでしょw」
「ぶっちゃけ結構しんどいw」
「まぁまぁ、
これでほんとのほんとにラストだ。
最後まで俺らの力、見せつけてやろう。
んじゃ、せーの。」
「「「「1、2、3、GO!!!!!」」」」
そしてアンコールに用意していた曲も終盤に近づく。
俺らはいつも曲が終わるときにはドラムの方に集合し、楽器を掻き鳴らし、最後に一斉にミュートさせて終わる。
服は汗でびしょ濡れ、喉も痛い。
他のメンバーもそれぞれ何か抱えてるだろう。
終わった後には皆で銭湯にでも行こうか。
そんなことを考えてるうちにドラムの方に集まる。そして目を瞑り、下を向き最後の瞬間を待つ。
ドラムが最後の音を鳴らし終える。
そしてここで観客の歓声が聞こえて
(こ………ない?)
(なんだ?なんでこんなに静かなんだ?
何か問題が起きたか?いや、それなら悲鳴が聞こえてくるし...)
色んな思考が頭を巡る内にふと目を開く。
そこには合ったのは真っ黒なステージの床ではなく、
芝生だった。
「なんじゃこりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」