先輩は実は凄い人だった件
ある日の放課後。
部室には、珍しく人が少なかった。
美鈴先輩と二人きりだ。
お茶を淹れてくれる人もなく、俺は一人ポツンと、丸テーブルに座っていた。
「今日は、みんな居ませんね」
「うん、そうだね」
美鈴先輩はいつも座っているソファに座りながら珍しくノートパソコンを熱心にやっている。
「…あの〜、楽しいですか?」
「うん、楽しいよ」
かちかちとマウスのクリック音だけが部室に響く。
美鈴先輩はいつも何かしらのゲームをしている。
「何やってるんですか?」
「オセロだよ」
「相手は?」
「CPだよ、最初はLevel1から始まるんだけどね、もうLevel99まで来てしまったよ」
美鈴先輩は、こともなげにそう言った。
「……はい?」
しばらく固まってしまったあとで、俺はようやく我に戻った。
「どうしたんだい?」
美鈴先輩はすでに三十センチばかり近づいて画面を覗き込む。
「Level99って相当強いですよね?!」
「うん。まあまあだね」
俺は二の句が継げなくなった。
「ふぅ〜」
美鈴先輩は息を吐いた。
ふとノートパソコンを覗き込むと画面にはYOU WINと映し出されていた。
「勝っちゃったんですか?!」
「見ての通りだけど」
俺は言葉を失った。
「君もやってみる?」
「え?!いや、俺、オセロ弱いんですよね…」
「いい本があるよ。この機会に戦略なんかも覚えてみないか」
美鈴先輩の指が俺の背後を指し示す。
いろいろなラノベや漫画がズラリと並んでいる中、端の方にオセロ入門書なんかが置かれた棚がそこにはあった。
「いえ……遠慮しておきます。」