機械都市ガモン
機械都市ガモン。
100年前の同時多発の大爆発で滅びた地球の片隅に、生き残った人々が作り上げた機械の町。
嫌なことや苦しいことを忘れさせてくれる理想郷。
の、はずだった。
オレはヒカリコーポレーションを出た。
高層ビルが立ち並び、そのあいだを縫うようにして高速道路が続いている。夜の街は光り輝いていた。
機械都市は時に、宝石の街、黄金の都と称される。その所以だ。
オレは手元の腕時計を見る。そこには今日の日付、時間、ニュース、ここから一番近いテレポートステーションなど、細かに記されている。
しまった。もう9時を過ぎている。
帰ったら、妻のさざみに謝っておかなければ。
小腹がすいたので最寄りのファーストフード店に入った。
いつもと同じ画面に、いつもと同じ彼女が映っていた。
「ご注文はなんでしょうか?」一文字一句間違わず、彼女は言ってのけた。
「今日もかわいいね」オレは画面の中のウェイトレスに皮肉たっぷりに言った。
腹を満たした後、オレは、人よりロボットが多く徘徊する大通りに出た。ここには、様々な店がある。食品売り場からレストランまで。
しかし、店員は一人もいない。物静かな店のパソコンを操作してお金を払うだけ。
それが現実。
オレはハンカチがないことに気づいた。
ふと、したを見ると、清掃ロボットがオレのハンカチを吸い込もうとしていた。
ゴミと認識したらしい。
このロボットは旧型だ。2、3年前に開発されたものだろう。
当時は人々をあっと言わせたが、今のロボットはもっと高機能だ。
オレはロボットを一旦停止にさせ、吸い込もうとしていたハンカチを取り返す。
いっそ、このままにしておこうかとも思った。
この街の住人は徹底的に管理されている。毎月健康診断をうけて、健康管理をされる。
何時何分どこにいるのかも、体内に埋め込まれてチップによってわかる。
街のいたるところに監視カメラが設置されていたり、メールや通話の内容はすべてホストコンピューターに送られていたりと、個人のプライバシーは完全に無視されている。
住民が反発しているのも事実だ。
だけど、この制度を実行してからというもの、犯罪件数は毎年減り続けている。
そんなわけで、この街では悪いことはできない。どんな小さなことでも、機械は見逃さない。
俺の同僚も、勤務中に彼女と密会しているのがばれて、クビになった。
大通りを抜けて、郊外にあるテレポートステーションに向かった。
郊外には全く人通りがない。さびれた機械が無造作に捨ててある。
油の異臭がただより、ひとが住む環境ではない。しかし、行き場をなくしたホームレスたちは、この場所で生活をしている。
機械都市ガモンの闇の部分だ。
オレの予想通り、テレポートステーションには誰もいなかった。
週末の今日、大通りのテレポートステーションはかなり混んでいるのだ。家につくのが1時間後というのはザラにある。ここを選んでよかった。
昔あったという公衆電話ボックスに似た建造物の中に入り、空中に浮かび上がったキーボードに座標を入力する。体が光に包まれ、あっという間に自分のマンションの前までたどり着いた。
家の中には誰もいなかった。
妻のさざみがこんな時間にいないということは今までなかった。
すこし焦ってリビングに行くと、薄明かりに照らされたテーブルの上に、メッセージボールが置かれていた。ボタンを押すとメッセージが浮かび上がった。
「しばらくのあいだ、家を出ます」
ワープロで打たれた無機質な文字。
それを見てもオレは驚かなかった。理由は多分、今朝の喧嘩だろう。
原因はつまらないものだった。今日のオレは少しイライラしていた。
腕時計に六読さざみ、と入力した。
彼女の居場所はすぐに見つけ出すことができる。
ミカミアパートの201号室に彼女はいるようだ。ここから遠くない。
そこには一人暮らしの男が住んでいると表示されていた。
浮気か。
まあ、しかたない。
オレはさざみを連れ出さない。
彼女の顔を見るのが怖いから。
次の日の土曜日。
首都にある機械都市記念館で機械都市開国100年のセレモニーが行われた。ほぼ全員の住人が出席した。
もちろんオレも。
受付の機械に、在住証明証を通し、人の波に身を投じた。
住人の全員が来るといっても、4分の1は代理主席。プロジェクターで映されているだけだ。家のテレビでゆっくり見ているのだろう。
オレは、それがどうしても好きになれなかった。
オレは受け取ったカードに記してあった番号の席に座った。
ステージの上に、恰幅のいい大統領が現れた。悪いが、いつ見ても熊のようだ。
「私は今日、国民の皆さんとこの日を迎えられることを大変嬉しく思います。この100年間、様々な困難を乗り越え、協力して、ここまでやってくることができました」
拍手の嵐が起こる。
ふん。自分はただ眺めているだけだったじゃないか。
綺麗事なんか、いらない。
拍手は、銃声によってかき消された。
あたりが静まり返った。そのあとに、どよめきが起こる。
現実を受け入れるのに時間がかかった。
ステージの上で、大統領が血を流して倒れていた。大統領は銃によって暗殺されたのだ。
多分、即死だ。
いろいろな場所から悲鳴が聞こえる。警備ロボットは耳障りなサイレンを鳴らしていた。
救急班が大統領を担架に乗せて運んだ。
セレモニーはすぐに中止になった。
急に雨が降り出してきた。雨がステージの上の血を洗い流す。
オレの気分も洗い流してくれればいいのに。
腕時計の雨避けシステムは使わなかった。
家に帰ってテレビをつけると、案の定暗殺のニュースをどのチャンネルでも報道していた。
未だに犯人は見つかっていないらしい。
一体、こんなことをしたのは誰だろう。
その日は、そのまま寝てしまった。
次の日、テレビをつけると、宇宙人の顔が画面いっぱいに映っていた。テロップも何もなかった。
オレは驚き隠せなかった。
オレの目は多分、泳いでいただろう。
その宇宙人はこう言った。
「私たちは100年前に、この星を滅ぼしました。しかし、こんな片隅で生き残っているとは」
何を言っているんだ?
謎の大爆発はあの宇宙人の仕業だというのか?
「昨日大統領を殺したのも私です。あんな戯言を言っているのが許せませんでした」
オレは、かたずを飲んで画面を見つめていた。この宇宙人は何が言いたのか?
「もう一度、完膚無きまでにこの星を滅ぼします」
遠くから爆音が聞こえた。
窓を覗き込むと、テレビ塔が炎上していた。
青空は、何万もの艦隊によって埋め尽くされていた。
初めてのSFです!
いつか書きたかった。超嬉しいです。
この話は、機械都市という単語からふくらませてできました。
つくってて楽しかった。
感想、アドバイスお待ちしています。