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短編小説

雪だるまのぼく、人間の君。

作者: うわの空
掲載日:2012/09/11


 君がこっちに引っ越してきたのは、小学一年生の冬。

 雪が積もってるのを見て、「まっしろだね! すごい!」と言ってはしゃいだ。

 それから雪だるまを、――ぼくを作り始めた。


 君よりも大きくなったぼくは、庭の隅っこに飾られた。

 ぼくの頭にバケツを被せたのはお父さん、手袋をつけてくれたのはお母さん、

 そして、顔を作ってくれたのは君。

 ちょっと目の位置がずれてたり、笑ってるようなそうでもないような表情になったのは御愛嬌だ。



 新しい学校に通い始めた君は、授業が終わるとすぐに家に帰ってきた。

 そして、毎日ぼくに話しかけた。「がっこうで、ともだちができない」のだと。

 僕は雪だるまだから、話せないし動けない。

 けれど君はぼくの事を、――ぼくだけが友達なのだと言う。


 ぼくは、季節が変わったら自分がどうなるのか、知っていた。

 だから早く、君には友達を作ってほしかった。



 家ではあれだけ活発なのに、学校では無口になるらしい。

 学校では上手く話せないのだと、ぼくに向かって言う。

「大丈夫だよ」って言って、君の頭を撫でてあげたかった。

 けれどぼくは、口も腕もあるのに何もできない。


 そう。ぼくは君の友達だけど、何もしてあげられないんだ。

 



 ほんの少しだけ日差しが暖かくなってきた頃、学校から帰ってきた君は笑顔で言った。

「がっこうで、おともだちができたんだ」って。

 それが遅かったのか早かったのか、ぼくには分からない。

 けれど、『間に合って』よかったと思った。 



 新しい友達が、どんどん増え始めた。

 家に帰ってくるなり、「ともだちとあそんでくる!」と言い残して出掛けることが多くなった。

 当たり前だけれど、ぼくと遊ぶ機会は減っていく。

 やがて、ぼくの姿を見るために庭にやってくることもなくなった。


 でも、それが正しいんだ。君にはまだ、これからがあるもの。

 だから気付かないで、と思う。


 ぼくの身体が、少しずつ小さくなっていっていること。


 気付かないで。 




 春。ぼくにとっては、とても暑い季節。

 ぼくの周りの雪はどんどん溶け始めていたし、ぼく自身もかなり小さくなっていた。

 このまま誰にも気付かれずに消えてしまう……というのがぼくの運命だ。

 だってぼくは、人間じゃないから。


 そんなことを考えていたら、君がやってきた。

 こちらに向かって走ってくる君の姿を見て、

『ずいぶん大きくなったなあ』なんて思ったけれど、それはぼくが小さくなったからだろう。

 

 君の手には、小さなボウル。その中には、溶けかけているうえに泥で茶色くなった雪。



「ごめんね、ごめんね、気付かなくてごめんね」

 君は泣きながら両手で雪をすくって、ぼくの身体にそれを塗りつけ始めた。

 ボウルの中の雪がなくなっては、周りの雪をかき集める。

 バケツはなかったの? と思ったけれど、よく考えたらバケツは僕の頭の上だ。



「ごめんね、ごめん……」

 暖かな日差しの中で、君は必死になってぼくの身体に雪を塗った。

 ぼくの身体を少しでも大きくするために。



「いなくならないで」



 ――ああ。君は気付いていないんだ。

 けれどもし、ぼくが話せたとしても、その事実を言うつもりはなかった。


 君が雪を手ですくって、塗りつけようとする。

 そのたびに。



 君の手が温かいから、ぼくの身体は溶けてしまうんだって。



 言うつもりはなかった。

 むしろ、それでもいいと思った。



 君の手の温かさで溶けてしまえるのなら、それでもいいって思ったんだ。





 ねえ、泣かないで。君には友達が沢山できたんでしょう?

 ぼくがいなくなっても、君はもう大丈夫だから。

 だから、泣かないで。


 ねえ、また冬になったら雪が積もるよ。

 そしたらまた、ぼくを作って。



 その時はまた、一緒に笑おう?



 

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんて心優しい少年…(T_T) [一言] 雪だるま視点というのは斬新ですね~ 君の手の温もりでなら溶けてしまってもいいという 雪だるまの言葉が切ないです。 生まれた時点で自分の運命を知っ…
[一言] なんて良い雪だるまなんだっ!!(泣) わ、私も作ろうかなっ(ワクワク) ちらっ!ちらちらっ!  (窓の方を) あーはい。待ちますよ。冬まで待ちます。  きっとあれですね! 男の子が優し…
[良い点] いい話だなぁ。 [一言] 心がほっこりした。 人間を思う雪だるま、雪だるまを思う人間。互いが互いを心配する様子が良かった。
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