俺の夢は未来を語り
今回は独自の視線で書かせていただきました。書いてて自分がドキドキするというまさかの展開(笑)。
まあでも、サスペンスというにはなんか違うし、でもコメディでもホラーでもない……。
あまり期待せずにお読みください。
落ちている。
小さかった町並みは、次第に見慣れた大きさになってゆく。――が、天地は逆転していた。見慣れたはずの『黄金書店』の文字も、天を衝かんばかりの高層ビル群も。地面はどんどん迫っていた。
ぐしゃり。
鈍い音が響いた。
そこまで行って、俺は目を見開いた。またか。思わずそう呟く。
もう何度この夢を見ただろう。少なくとも百回――いや、二百回は優に超えている。とにかく、数百回目の悪夢から覚めた俺は、むっくりと布団から起き上がった。
夢の中の俺は、本当に俺なのか分からない。顔が黒く隠されているせいだ。もしかしたら前世のおれかもしれない、いやきっとそうなのだろう――この想像も、数十回目だった。
しかし俺――前世の俺が落ちたのは事故ではない。事件だった。
犯人は『あいつ』だ。俺は知っていた。でも、そいつの名を俺は知らない。知っているのは、前世の俺を殺したのがそいつだということだけだった。
学校――。
俺は高校で、いつも通りに授業を受けた。そして昼飯。食堂へ向かう。その時。
俺は見つけてしまったのだ。『あいつ』を。
同じ高校だったんだ、『あいつ』は。初めて知った。俺の足は自然とそちらへ向かう。
「おっと」
事故を装ってぶつかってやった。さあ、どういう反応をする?
「あ、ワリ……いやすいません」
『あいつ』は言った。急に敬語になったのは、俺が三年生の上履きを履いていたからだろう。見たところこいつは二年だ。
「いや、こちらこそ」俺は言って、片手を上げた。相手はとても人殺しには見えない。
本当にこいつか? そう思って俺は、もう一度奴をじっくり見てみた。
うん、こいつだ。間違いない。俺は確信した。すると同時に、ある感情が膨れ上がっていくのを感じた。
俺はそれを悟られないよう、足早にその場を離れた。
殺してやる。
俺の中で膨らんだそのどす黒い感情は、とどまることを知らなかった。殺してやる。
あるいは今日、あの夢を見ていなかったら、こうは思わなかったかもしれない。しかし俺は、あいつを殺してやりたかった。
翌日俺は、友人という友人をあたり、あいつの情報をかき集めた。名前や所属する部活だ。あいつは、バスケットボール部に所属していた。
俺はあいつと『友達』になった。バスケ部に俺が入ったからだ。
俺はある日、あいつのことをビルの屋上に呼び出した。前世の俺が落ちた、あのビルだ。どうせなら同じ場所で――と思ったのである。
人を殺した場所に来ても、あいつは顔色一つ変えなかった。それが余計に俺の殺意を駆り立てる。
俺はあいつと話しながら、背後に回った。フェンスは脆そうだ。押せば簡単に落ちるだろう。
俺は腹を括り、両手を勢い良く伸ばした。――が、その手が奴に触れることはなかった。奴が急に動いたせいだ。
奴は何を思ったのか、前につんのめった形の俺のことを押してきた。俺の身体はフェンスを突き破り、重力に従って真っ逆さまに落下した。
見慣れた光景だった。
そう――俺はあの夢を見たとき、すぐに気が付くべきだったのだ。あれは前世の記憶などではなく――これから起こることだったのだと。
ぐしゃり。
鈍い音が響いた。
今回の作品は、素晴らしきミステリ作家道尾秀介さまをちょっと参考にしています。
道尾さますごいですね。僕には書けません。これが精一杯でした……。