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禁断の宝物庫と、赤面する創造主の「ラフスケッチ」

「……よし、アリア、ルル。足音を殺せ。ここは女王様のプライベートゾーンだ。見つかったら俺たちは、物理的に『かき氷』のシロップ役にされるぞ」

俺は、冷気が渦巻く城の最深部、青白く光る巨大な氷の扉の前に立っていた。

膝は相変わらず笑っているが、今は恐怖というより「何が出てくるか分からない」という創造主としての戦慄に震えていた。1000年前、俺がこの城の地下に何を設定したか……思い出そうとすればするほど、脳の奥が拒絶反応を起こして疼く。

「カイ、本当に大丈夫なのですの? 恩人とはいえ、淑女の宝物庫に無断で入るなど、騎士道にもメイド道(?)にも反しますわ……。……と言いつつ、この扉の奥から感じる圧倒的な魔力、放っておくわけにはいきませんわね」

アリアが大剣の柄に手をかけ、真剣な面持ちで周囲を警戒する。彼女のメイド服のフリルが、冷気を受けて微かに震えていた。その姿は、どこか神秘的で、それでいて「早く中を確認して安心したい」という彼女らしい実直さに溢れている。

「ふふん、名探偵の私にはわかるわ! 女王様は今、城の屋上で吹雪のメンテナンス中。あと三十分は戻ってこないわよ。……さあ、カイ! あんたのその『厨二病』の特権で、この扉をパパッと開けなさいな!」

ルルが自信満々に胸を張る。案の定、彼女の頬は「悪いことをしている自覚」でほんのりと赤らんでいるが、瞳は好奇心でキラキラと輝いていた。

俺は扉に右手をかざした。

1000年前の俺なら、こういう重要拠点のセキュリティには必ず「自分にしか分からない共通点」を持たせているはずだ。

「……キーワードは、『俺の考える最強のヒロイン』の、スリーサイズか……?」

「……カイ? 今、何かとても破廉恥で、万死に値する言葉が聞こえた気がしますわ」

アリアの瞳が、急速に絶対零度へと冷却されていく。

「ち、違う! 比喩だ! ……【全知全能の管理者システム・アドミン、アクセス許可】!」

俺が叫ぶと、氷の扉に複雑な幾何学模様の回路が浮かび上がり、重厚な音を立てて左右に開いた。

冷気と共に溢れ出した光の先にあったのは、金銀財宝……ではなく、たった一冊の、古びた、しかし異様な存在感を放つ「分厚いノート」だった。

「……これ、は……?」

ルルが恐るおそる手を伸ばし、その表紙をめくる。

「ひっ……! やめろ、ルル! それは……それは開けちゃいけないパンドラの箱だ!」

俺の制止も虚しく、ページが開かれた。

そこには、中学生時代の俺が、数学の教科書の裏に描き殴った「設定画」が、1000年の時を経て魔導書として具現化していた。

『設定:聖騎士アリア(初期案)。防御力を極限まで高めるため、装甲は胸部と急所のみに集中。露出した肌は魔力伝導率を高め、敵を魅了する……』

隣には、今の凛々しいアリアからは想像もつかないほど、際どすぎる「ハイレグ装甲」に身を包んだ女性のラフスケッチが、ご丁寧にカラーで描かれている。

「…………カイ?」

アリアの声が、地割れのような重低音で響いた。

彼女の手元で、愛剣がミシミシと音を立てている。

「待て! 違うんだ! それは1000年前の流行りというか、若気の至りというか……! ほら、今の君はちゃんとしたメイド服だろう!?ん ね????(?)」

「……名探偵の私が補足してあげるわ、アリア。次のページを見て。……『ツンデレ探偵ルル。嘘をつくと顔が赤くなる呪いをかけられ、主人公に本音がバレるたびに悶絶する。可愛い。俺の嫁』……。……これ、私のこと、よね……?」

ルルの顔が、これまでの人生で見たことがないほど、もはや「顔が赤い」というレベルを超えて「全身から蒸気が吹き出す」ほどに真っ赤に染まっていた。

「……消えたい。今すぐ、この世界の設定ごと、俺を消去してくれ……!!」

俺はその場に両膝をつき、頭を抱えて絶叫した。

資産が10円になった時以上の社会的死が、今、俺を襲っていた。

その時だ。

宝物庫の奥から、さらなる「バグ」が発生した。

俺たちの羞恥心に呼応するように、禁書から黒い霧が噴き出し、描き殴られたボツ設定の魔物たちが実体化し始めたのだ。

「……カイ、貴方の黒歴史の清算は、この魔物たちを片付けてから、じっくり……じっくりと、地獄の果てまで付き合っていただきますわよ」

アリアが、これまでにない殺気を孕んだ笑顔で剣を構える。

日常回のはずが、俺の過去(厨二病)が生み出した怪物たちとの、生存(と名誉)をかけた戦いが始まろうとしていた。

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