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女王の寝起きと、名探偵の「真っ赤な」推理

氷の城の内部は、外の酷暑を完全に遮断した、静寂と冷気の聖域だった。

俺は、氷で作られたベッドの上でゆっくりと瞼を開ける。

「……ん、……ふぁ。冷たい。……けど、最高だ」

本来、氷のベッドなんて修行以外の何物でもないはずだ。だが、俺が昨晩ヤケクソで放ったデバッグ・コマンドのおかげで、このベッドの表面温度は「ひんやりと心地よい20度」に固定され、硬度は「高級ホテルの低反発マット」並みに調整されている。1000年前の俺よ、設定ミスで砂漠に城を飛ばした罪は、この寝心地で相殺してやる。

俺が欠伸をしながら、贅沢な二度寝を決め込もうとしたその時。

バサァッ!

「……いつまで寝ているのですの、この不規則な創造主(自称)様は!」

勢いよく、氷の薄膜でできた掛け布団を剥ぎ取られた。

目の前には、朝からピシッとメイド服……もとい聖装騎士の鎧を纏ったアリアが立っていた。

朝の光が氷の壁に反射し、彼女の金髪をより一層眩しく輝かせている。その手には、湯気を立てる木製のスープ皿。

「アリア、朝から元気だな……。というか、そのスープ、どこから持ってきたんだ? ここ、氷の城だぞ。食材なんて……」

「女王様が『勝手に厨房を使うがいい。ただし、私の氷像を傷つけるな』と仰ってくださいましたの。……カイ、貴方が昨日、あまりにも情けない顔で『お腹空いた、膝が笑って一歩も歩けない』と泣き言を言うものですから……私が作りましたのよ。毒味は済んでいますわ」

アリアが、少しだけ視線を逸らしながらスープを差し出す。彼女の白い頬が、スープの湯気のせいか、それとも別の理由か、ほんのりと桃色に染まっている。

「……泣き言は言ったけど、泣いてはないぞ。……いただきます」

俺がスープを一口啜ると、五臓六腑に染み渡るような深いコクと、肉の旨味が口いっぱいに広がった。

具材の肉は、昨日倒した「アイアン・ヘッジホッグ」の霜降り部位だ。

本来なら調理が難しい魔物の肉だが、「Q4:魔物は倒すと料理になる」という俺のクソ設定……いや、神設定のおかげで、素人のアリアが適当に煮込んだだけでも、王宮のシェフが膝をつくレベルの絶品に仕上がっている。

「……ふん。朝から仲がよろしいことで。名探偵の私にはわかるわよ、アリア。あんた、本当はカイにスープを食べさせたくて、朝の四時から厨房で氷の包丁と格闘してたでしょ!」

部屋の隅で、氷の彫像を興味深げに眺めていたルルが、ニヤニヤしながらこちらを振り向いた。

彼女のストレートな指摘に、アリアの肩がビクッと跳ねる。

「……なっ!? ル、ルル! 何を根拠にそんなデタラメを! 私はただ、主(あるじ)の健康管理として、騎士の義務を果たしたまでですわ!」

「あー、顔が真っ赤だぞ、アリア。……それよりルル、お前も顔が赤いぞ。さては『自分だけ仲間外れは寂しいから、私もスープ作りを手伝ったことにしたい』っていう本音が漏れてるな?」

俺がそう告げた瞬間、ルルの顔が沸騰したヤカンのように真っ赤に染まった。

「Q38:嘘つきは顔が少し赤くなる」……。

この設定がある限り、この娘は一生ポーカーフェイスができない。ツンデレにはあまりにも残酷な世界だ。

「うるさいわね!厨二病のあんたは黙って完食しなさいよ! ……だいたい、名探偵の私が調査したところによると、この城の最深部には女王様が1000年前から守り続けている『禁断の宝物庫』があるらしいわよ」

ルルが話題を逸らすように、少し声を潜めて告げた。

「……宝物庫?」

俺はスープを飲み干し、身を乗り出した。

一文無しの俺にとって、その響きは「20円」という惨めな残高を救う唯一の希望に聞こえた。

「ええ。そこには、世界の成り立ちが記された『禁書』が収められているそうですわ。……女王様は『もしあの平民が、本当に世界の理に干渉できるのなら、その中身を確かめてみるがいい』と、皮肉めいた伝言を残されました」

アリアが表情を引き締める。

禁書。1000年前の俺。……嫌な予感しかしない。

それはきっと、俺が中学生の時に自由帳に書き殴った「プロットノート」か、あるいは「黒歴史のアイディア帳」が具現化したものだろう。

「……よし、出発の前に、ちょっとだけその『禁書』とやらを確認しに行くか。学園への推薦状をもらった礼に、中身の矛盾矛盾(バグ)を直してやるよ」

俺は、ガクガクする膝を叩いて立ち上がった。

女王の城での滞在は、単なる休息から、俺の「黒歴史」という名のパンドラの箱を開ける儀式へと変わり始めていた。

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