王道クイズの番人と、俺専用の宝箱
「我は知恵の番人なり! この門を通りたくば、我が問いに答えよ! 正解なき者に、一歩の進みも許さぬ!」
ハラペコ村の北側にそびえ立つ巨大な石造りの門。本来はただの境界線のはずが、今や巨大な「顔」が浮かび上がり、不機嫌そうに鼻息を荒らげていた。
門の周囲には、外へ商売に出ようとして足止めを食らった村人たちが、おろおろと立ち尽くしている。
俺は門の前に辿り着くなり、その場にへたり込みそうになった。
「……はぁ、はぁ……。誰だよ、村の出口にこんな面倒くさいギミック仕込んだバカは……。ああ、俺だ。冒険の始まりには必ず『知恵の試練』が必要だって、当時の俺は信じて疑わなかったんだよ……」
「カイ! またブツブツと奇妙な独り言を! シャキッとしなさいな!」
メイド服姿のアリアが、背中の大剣をガシャリと鳴らして俺を叱咤する。
「見てください、あの門の魔圧。物理的な破壊は不可能ですわ。……ルル、貴女は『名探偵』を自称しているのでしょう? 何か名案はありませんの?」
「え、ええ……もちろんよ! 私にかかれば、こんな門のなぞなぞなんて赤子の手をひねるようなものなんだから!」
ルルは胸を張って言い放ったが、その顔は隠しようもなく赤く染まっていた。
嘘だ。彼女の「名探偵」という肩書きも、今の自信満々な態度も、すべてはハッタリ。俺が設定した『嘘つきは顔が少し赤くなる』というルールが、非情にも彼女のメッキを剥がしていく。
「……ふん、じゃあ聞いてあげるわよ! 門番さん、さっさと問題を出しなさいな!」
門の巨大な瞳がルルを射抜く。
「よかろう。では問う……。朝は四本足、昼は二本足、夕方は三本足で歩くものは、なーんだ!」
「…………は?」
ルルが固まった。アリアも首を傾げている。
「……朝に足が増えて、昼は減り、夕方にまた増える……? 魔物の類でしょうか? それとも、時間とともに進化する新種のゴーレム……?」
「そんなの簡単じゃない! 答えは……『足が生え変わる呪われた椅子』よ! どう、正解でしょ!?」
ルルがヤケクソ気味に叫ぶが、門は冷酷に鼻で笑った。
「不正解なり。知恵なき者に、通る資格なし!」
門の周囲にバチバチと電撃が走り、村人たちが悲鳴を上げて後ずさる。
俺は溜息をつき、一歩前に出た。
「……おい、ルル。名探偵ならもう少し捻れよ。……門番さん、答えは『人間』だ。赤ん坊の時はハイハイで四足、成長すれば二足、老いれば杖をついて三足。だろ?」
一瞬の沈黙。
門の巨大な顔が、驚愕に見開かれた。
「……な、何故それを……! 1,000年前の賢者ですら三日三晩悩んだという、我が究極の難問を、こうも易々と……!」
いや、究極でもなんでもない。1,000年前の俺の感覚では、これが一番「王道」で「ベタ」なクイズだっただけだ。
「……正解なり。知恵ある者よ、通るがよい」
ゴゴゴ、という重低音とともに、巨大な石門がゆっくりと左右に開いていく。
村人たちから歓声が上がる中、ルルが悔しそうに俺の袖を引っ張った。
「ちょっと! なんであんたが知ってるのよ! ……別に、助けてもらったなんて思ってないんだからね! たまたま、私が答えようとした瞬間にあんたが横取りしただけなんだから!」
顔を真っ赤にして地団駄を踏むルル。その様子を見ながら、俺はふと門の脇に置かれた小さな石碑に目を止めた。そこには、俺にしか読めない1,000年前の文字で、こう刻まれていた。
『設定:知恵の門。正解者は創造主の祝福を得る』
その瞬間、俺の手のひらに熱い感覚が走った。
「……うわっ、なんだこれ!?」
見ると、俺の手紋が黄金色に輝き、門の奥から小さな、しかし精巧な装飾が施された宝箱が浮き上がってきた。
「カイ! それは……伝説の『開かずの宝箱』ではありませんか!?」
アリアが驚愕の声を上げる。
「この国の王家ですら、1,000年間一度も開けることができなかったという……!」
俺は、なんとなく予感がして、その宝箱に右手をかざした。
カチリ、と軽やかな音が響く。
世界中で俺にしか開けられないように設定した、あの「手紋専用宝箱」だ。
期待に胸を膨らませて蓋を開けた俺の目に飛び込んできたのは、一通の古びた封筒だった。
そこには、見覚えのある……あまりにも見覚えがありすぎる、中学二年生の俺の筆跡でこう書かれていた。
『未来の俺へ。たぶん今ごろ、一文無しで困ってるだろうから、とっておきの裏技を教えてやるよ』
「…………嫌な予感しかしない」
俺は震える手で、その手紙を開封した。




