防御力は露出に比例する
「……おい、アリア。さっきから思ってたんだが、その格好……いくらなんでも目に毒すぎないか?」
ハラペコ村の片隅、夜の静寂の中でパチパチとはぜる焚き火を囲みながら、俺はアリアの姿を凝視せずにはいられなかった。
先ほどまでの黒鎧兵との激闘の結果、彼女の鎧は見るも無残な状態になっていた。肩当ては弾け飛び、腹周りの鉄板はひしゃげて脱落し、今や彼女の身を包んでいるのは、布面積の極端に少ない水着のようなインナーと、申し訳程度の籠手や具足だけだ。
「し、仕方がありませんわ! この国の……いえ、この世界の騎士の常識を疑うのですか? 古来より伝わる鉄則では、『防具は薄ければ薄いほど、神の加護が宿り強固になる』と決まっておりますのよ!」
アリアは、夜目にもわかるほど顔を真っ赤にしながら、ボロボロになったマントを必死に手繰り寄せて肌を隠そうとしている。しかし、彼女が身をよじればよじるほど、皮肉なことにその「防御の加護」による眩い光が、彼女の肢体をより強調するように淡く輝きを放つのだった。
……思い出した。中二病真っ盛りだったあの頃、深夜アニメのヒロインが際どい格好で戦う姿を見て、「これこそが究極の合理性だ!」と興奮しながら設定シートを埋めた記憶が蘇る。当時は「王道」だと思っていたが、現実の、しかも三次元の美少女が目の前でそれを体現しているとなると、話は別だ。創造主である俺自身が、気まずさで目を逸らしたくなる。
「……ふん、あんたみたいな平民には刺激が強すぎたんじゃないの?」
隣で魔物の肉を無作法に突きながら、ツインテールの少女――ルルが、ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「そんなにジロジロ見て、アリアに惚れちゃったわけ? まぁ、あんたみたいな『嘘を暴くだけが取り柄の魔導師』には、お高い騎士様はお似合いかもしれないけどね! 私なら絶対に御免だわ!」
彼女はぷいっと横を向いたが、焚き火の光に照らされたその頬は、言葉の鋭さとは裏腹にリンゴのように赤く染まっている。
自覚はないようだが、彼女は間違いなく俺が設定した「素直になれない枠」……いわゆるツンデレだ。毒を吐けば吐くほど、その裏にある本心が透けて見えるような、危うい愛らしさがある。
「惚れるとか以前の問題だ。この格好で村を歩いたら、治安維持の前に俺の理性が持たない……いや、アリアが通報されるだろ。……魔法でなんとか修復できないか?」
俺は、頭の中に澱のように溜まっている知識を検索した。
設定そのものを根本から書き換えることはできないが、その「ルール」を維持したまま、見た目だけを上書きする手段ならあるはずだ。
意識を集中すると、不思議なことに、唱えるべき呪文と魔力の練り方が、まるで1000年前から知っていたかのように自然と脳裏に浮かんできた。
「【外装幻惑】……!」
俺がアリアに向かって掌をかざした瞬間、深夜の村とは思えないほどのド派手な閃光が炸裂した。どこからともなく、勇壮なファンファーレと聖歌がミックスされたようなBGMが爆音で鳴り響き、周囲の木々を揺らす。
演出が過剰すぎて目が痛い。さすが俺のこだわりが詰まった魔法発動シーンだ。
光が収まり、爆音が静まった後、そこに立っていたのは「慎ましやかなロングスカートのメイド服」を纏ったアリアだった。
「なっ……!? 体感の防御力は全く損なわれていないのに、肌が、肌が完全に隠れていますわ! むしろ、先ほどの鎧よりも動きやすく、それでいて鉄壁の守りを感じます!」
「……成功か。これなら、どこに出しても恥ずかしくないな」
俺はホッと胸を撫で下ろしたが、すかさずルルが立ち上がって俺に詰め寄ってきた。
「ちょっとあんた! なんでそんな、裾にフリルが付いた変な服にしたわけ!? 趣味が偏りすぎじゃない! 気持ち悪いわよ、このエセ魔導師!」
「……いや、これは俺の故郷に伝わる、選ばれし者だけが許される『聖なる装束』なんだよ(大嘘)」
実際は「メイドは正義」という俺の個人的な美学を無理やり押し付けた結果なのだが、そんな真実を言えば、今度は俺がアリアの剣で真っ二つにされるだろう。
その時だ。村の北側から、地響きのような不気味な声が響き渡った。
「我を通りたくば、知恵を示せ! さもなくば、この村は永遠に閉ざされた檻とならん!」
村の自警団の男が、血相を変えてこちらへ走ってくるのが見えた。
「大変だ! 北の『喋る門』が、また例の病を発症しやがった! 誰かが正しい『答え』を言わねえ限り、一歩も外に出してくれねえんだ!」
俺はステーキの最後の一切れを口に放り込み、重い腰を上げた。
なぞなぞ。クイズ。知恵の証明。
……ああ、あったな。門を通るには必ず謎解きが必要だなんて、冒険の定番中の定番だと信じて疑わなかった頃の俺の仕業だ。
「アリア、ルル。行くぞ。……歩きたくないけど、ここに閉じ込められるのはもっと勘弁だ」
俺の膝は、恐怖と運動不足ですでにガクガクと震え始めていたが、創造主としての責任――あるいは後始末――をつけるため、俺は一歩を踏み出した。




