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20円の豪運と、赤面名探偵のポーカーフェイス

「……おい、カイ。正気なの? 私を……この名探偵の私を、あんな胡散臭い『鉄火場』に連れて行くなんて! 探偵は事件を解決するものであって、スリルを味わうものじゃないわよ!」

温泉街の隅、古びた石造りのカジノの入り口で、ルルが俺の袖を掴んで必死に抵抗していた。彼女の顔は、未知の世界への恐怖と、さっきの「俺の嫁」設定の余韻で、相変わらず複雑なマゼンタ色に染まっている。

「いいか、ルル。俺たちの全財産は20円だ。この世界のパン一個が三兆ゴールドな以上、真面目にバイトしても温泉に入れるのは1000年後になる。……だが、ギャンブルなら一瞬でバグが起きる」

「カイ! 騎士として博打を肯定はしませんが……。このまま砂漠の砂にまみれて野垂れ死ぬのも、騎士道に反しますわね。……分かりました。私が監視役として同行しますわ!」

アリアが、メイド服のスカートの裾をビシッと整え、凛々しい(しかしどこかズレた)決意を固めた。

カジノの中は、熱気と葉巻の煙、そして「一攫千金」を夢見る者たちの執念で満ちていた。

俺たちが向かったのは、一番奥のポーカーテーブル。そこに座っていたのは、全身を黒いマントで包み、不気味なピエロの仮面を被った男だった。

「……ヒヒッ、いらっしゃい。……ほう、軍資金は10円玉一枚と、女王の領収書か。……いいだろう、その『ゴミ』を、世界の半分と等価値にレートしてやろうじゃないか」

ピエロのディーラーが、細長い指でカードをシャッフルする。その動きはあまりにも速く、残像すら見えない。

「……カイ、あいつ……普通じゃないわ。名探偵の私にはわかる……あいつ自身が『バグの塊』よ!」

ルルが俺の背中に隠れ、ガタガタと震えながら囁く。

「……ああ、知ってるさ。あいつは**『Q15:ギャンブルの神様は、必ずイカサマをする』**という俺の設定が具現化した存在だ。……だが、こっちには『歩く嘘発見器』のお前がいるんだよ」

ゲームが始まった。

ルールは簡単。配られたカードが「役」になっているか、それとも「ハズレ」か。

俺はルルの耳元で囁く。

「……いいか、ルル。俺が『このカードは最強だ』と言ったら、お前は『そうね、最強だわ』と同調しろ。お前の顔が赤くなれば、それは俺のカードがゴミだっていう証拠だ。逆に、顔が赤くならなければ……それは真実。俺の勝ちだ」

「……最っ低! 自分の厨二病設定を、女の子の羞恥心で補うなんて……あんた、本当に神様なの!? 鬼畜様の間違いじゃないの!?」

「うるさい、温泉のためだ! 行くぞ……第一戦!」

俺は手元のカードを一度も見ずに、テーブルに叩きつけた。

「……これは、最強のロイヤルストレートフラッシュだ!!」

「……そ、そうね! それは間違いなく、世界で一番強いカードだわ……っ!」

ルルが必死に叫ぶ。……瞬間、彼女の顔が、火柱が上がるような勢いで真っ赤に染まった。

「……ヒヒッ、ブラフ(嘘)だな。客人の負けだ」

ディーラーが勝ち誇ったように俺の10円玉を回収しようとした。……だが、俺はニヤリと笑い、管理者権限デバッグを脳内で発動させる。

「……いや、違うな。ルルの顔が赤くなったのは、俺が『最強』だと言ったからじゃない。……俺がこの後、彼女に『混浴で背中を流してくれ』とお願いする未来を予感して、本音(Q22)が漏れそうになったからだ!」

「「…………なっ!?」」

アリアとルルの声が、カジノ中に響き渡った。

「【因果逆転・設定変更リライト・バリュー】! このカードの数値は、今この瞬間、俺の都合の良いように『書き換わった』!」

俺がカードをめくると、そこには数字すら書いていない、真っ白なカードがあった。しかし、ディーラーの目には、それがこの世の何よりも尊い「勝利の記述」に見えたはずだ。

「……ば、馬鹿な!? カードのインクが……俺のイカサマを上書きして消えている……!?」

「……20円の倍率は無限大だ。……さあ、二兆ゴールド、耳を揃えて払ってもらおうか!」

俺の叫びと共に、カジノの床から黄金のコインが噴水のように溢れ出した。

しかし、勝利の余韻に浸る暇はない。

顔を真っ赤にしたアリアが、大剣を抜き放って俺の首筋に突きつけていた。

「……カイ。今、さらりと『混浴で背中を流せ』と言いましたわね? ……温泉に入る前に、その不潔な思想を、ここで叩き斬って差し上げますわ!」

「……死ぬ! 温泉入る前に死ぬって!」

俺たちは黄金の山を抱え、怒り狂う姫騎士から逃げるように、念願の温泉宿へと走り出した。

残高、二兆ゴールド(と、命の危機)。

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