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「……見えた。見えたぞ、アリア、ルル! あれが……俺の求めていた地上の楽園、温泉宿場町『ユノハナ・オアシス』だ!」
砂漠の熱風に煽られ、膝の笑いが限界を突破してカクカクと奇妙なリズムを刻んでいた俺の目に、救いの光が飛び込んできた。岩山の裂け目から立ち上る、真っ白で濃密な湯煙。砂漠の乾燥しきった空気とは裏腹に、そこだけはしっとりと湿り気を帯び、石造りの情緒ある建物が軒を連ねている。
「温泉……! 素晴らしいですわ、カイ! 砂漠の砂でメイド服……いえ、聖装騎士の鎧の隙間がザラザラして、肌が痒くて仕方がありませんでしたの。早くこの身を清め、洗濯も済ませたいですわ!」
アリアが、普段の凛々しさをどこかに置き去りにして、子供のように瞳を輝かせている。金色の髪も砂を被って少しくすんでいるが、温泉という言葉を聞いただけで、彼女の周囲に聖属性のキラキラしたエフェクトが舞っているようにすら見える。
「ふん、名探偵の私にはわかるわ! あの温泉、ただの癒やしスポットじゃないわよ。……あそこ、何か『ねっとりした魔力』が渦巻いてない? 気味が悪いわよ」
ルルが、鼻先をひくつかせながら疑い深い視線を送る。
彼女の直感は、名探偵の看板に偽りなく正解だ。1,000年前の俺が、ただの健全な温泉をそこに配置するはずがない。
「……ああ。そこには『Q22:温泉に入ると本音しか喋れなくなる』っていうバフ……というか、呪いに近い設定があるんだ。1,000年前の俺が、『混浴でのラッキースケベと、その後の本音告白はファンタジーの義務。隠し事はログしろ』とか何とか言って、強制的に本音を喋らせるフィールドをかけた場所だ」
「「…………はぁ!?」」
二人の絶叫が重なった。
「な、なんですのその破廉恥極まりないバグは! 騎士の私に、口に出してはいけないような乙女の秘密を暴露させる気ですの!? 私は……私は、本当は……っ」
「ちょっと、あんた! 今すぐその設定を消しなさいよ! 顔が赤くなるどころの騒ぎじゃないわよ、それ! 社会的に死ぬわよ!」
ルルの顔は、設定が発動する前からすでに沸騰しそうなほど真っ赤だ。
「知らなかったのかよ……無理だよ。この街の温泉は、地面から湧き出す『設定液』そのものなんだ。中和するには、一度浸かって毒出し(本音の全出力)をするしかない。……まぁ、俺だって、自分の黒歴史をこれ以上語りたくはないんだけどさ……」
俺たちは、そんな押し問答をしながらも、肉体の疲労には勝てず街の入り口をくぐった。
だが、そこで最大の壁が立ちはだかる。
「いらっしゃいませー! 日帰り入浴は、お一人様『二兆ゴールド』になりまーす!」
受付の看板娘が、眩しい笑顔で絶望を突きつけてきた。
「…………はい?」
「あ、今ならキャンペーン中で、三名様セットなら五兆ゴールドにおまけしちゃいますよっ☆」
「……20円。俺の手元には、20円(10円玉+女王の領収書)しかないんだ。……おい、アリア。君のその、聖装騎士の『高潔なオーラ』で、なんとかタダにしてもらえないか?」
「無茶を言わないでくださいまし! 騎士は法を犯しませんわ! ……というか、二兆ゴールドって、この世界の経済はどうなっていますの!? パン一個三兆ゴールドの時より酷くなってませんこと!?」
「…おまえ今までどうやって生きてきたんだよ…」
アリアが頭を抱えて座り込む。そう、世界のインフレは、俺がデバッグをサボっている間にさらに加速していたのだ。
「……よし、こうなったら最終手段だ。……ルル、お前のその『嘘をつくと顔が赤くなる』呪いを利用して、街の賭場で軍資金を稼ぐぞ」
「……はぁ!? なんで私がそんなギャンブルの道具に!? 恥ずかしい本音を晒すくらいなら、砂漠の砂で体をゴシゴシ洗ったほうがマシよ!」
俺の「20円」から始まる、温泉入湯権をかけたデッドヒート。
「……待ってろよ、露天風呂。俺が、この世界の狂ったインフレ設定を、根底から叩き潰してやる……!」
厨二病の管理者の瞳に、かつてないせこい決意の炎が宿った。




