表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

黒歴史の具現体と、絶叫する管理者の審判

「……なっ、なんですの、この禍々しい姿の魔物たちは……!? 悪魔ですら、これほど不気味な形はしていませんわ!」

アリアの悲鳴に近い鋭い声が、氷の宝物庫に木霊した。

開かれた禁書――1000年前に俺が描き殴った『設定ノート』から溢れ出した黒い霧が、物理法則を無視して受肉していく。そこに現れたのは、生物としての造形を放棄した、いびつな「未完成」の怪異たちだった。

一言で言えば、それは「ボツ設定の掃き溜め」だ。

右腕だけが画面に収まらないほど肥大化した『終焉を喰らう黒龍ラフ案』。

全身に無意味な包帯と錆びた鎖を巻き付け、「孤独こそ我が友」と刻まれたプレートを首から下げた『堕天使ルシフェル(厨二全開版)』。

どれもこれも、中学時代の俺が「これ、最強にかっこよくね?」と深夜のテンションで描き込み、翌朝の登校中に「……死にたい」と悶絶しながら×印をつけた、恥の結晶たちだ。

「……ギギ、ギ……設定……ガ……足リナ……イ……。名前……モ……決マッテ……ナイ……」

魔物たちが、名前すら与えられなかった1000年分の恨みをぶつけるように、ズルズルと氷の床を這い寄ってくる。

「カイ! 呆然としている場合ではありませんわ! この者たち、攻撃が全く通りませんの! 私の剣が、まるで幻影を斬っているかのように手応えがありませんわ!」

アリアの大剣が堕天使の首を鮮やかに跳ね飛ばすが、切断面は黒いノイズとなって霧散し、コンマ数秒で再生する。

名探偵のルルも、震える足で俺の背中にしがみつきながら叫んだ。

「ひ、ひえぇ……! 当たり前よ、アリア! こいつら、この世界の『物理法則』の外側にいるのよ! あんたのその、恥ずかしい『厨二病』の思考そのものが、バグとして実体化してるんだから!」

ルルの顔は、恐怖と、先ほど読まされた『俺の嫁』設定への羞恥心で、もはやリンゴを通り越して真っ黒に焦げそうなほど赤い。

「……あ、ああ。わかってる。わかってるさ……。こいつらは、俺の『黒歴史』だ。俺が、俺自身の手で葬らなきゃいけない……過去の俺が産み落とした、最悪の亡霊なんだよ……!」

俺は、ふらつく足で一歩前に出た。

膝はガクガクだ。胃のあたりは、過去の自分を物理的に殴り殺したい衝動でキリキリと痛む。

だが、アリアの際どすぎる「初期案ハイレグ鎧」設定や、ルルの「本音漏洩」設定を、これ以上この世界に野放しにしておくわけにはいかない。

俺は右手を高く掲げた。

魔力を練るのではない。この世界を構成する「文字データ」を、管理者として、作者として、直接上書き・削除デリートするイメージを脳内に叩き込む。

「……やめてくれ。そんな悲しそうな、あるいは『アイタタタ……』って顔で俺を見るな。……聞け、ボツ設定ども。お前たちにふさわしい場所は、豪華な宝物庫じゃない。……記憶の底の、シュレッダーの中だ!」

俺の周囲に、これまでとは比較にならないほどの重厚で禍々しい漆黒の魔法陣が展開された。

BGMは、1000年前の俺が登下校中に脳内でリピートしていた、やたらとパイプオルガンの重低音が効いた「闇落ちした救世主」のテーマ。

「【全設定消去オール・デバッグ・デリート・神の修正ペン(ホワイト・アウト)】!!」

俺が絶叫すると、魔法陣から「巨大な修正テープ」のような、すべてを塗りつぶす白い光の波動が放たれた。

それは魔物たちの身体を構成する『恥ずかしい記述テキスト』を直接書き換え、無へと還していく管理者コマンドだ。

「ギ、ギギ……設定……変更……!? 嘘ダ……俺ノ右腕ニハ……暗黒銀河ガ……宿ッテ……」

「宿ってねーよ! ただのインクの無駄遣いなんだよ、お前は!」

俺は涙目で、過去の自分への罵倒を込めて叫んだ。

白い光がすべてを飲み込み、宝物庫を埋め尽くしていた「黒歴史のバグ」たちは、一瞬にして光の粒子となって消滅した。

後に残ったのは、静まり返った氷の部屋と、表紙が白紙に戻った一冊のノート……。そして、精根尽き果てて膝をつく俺だけだった。

「……ふぅ。……終わった。俺の過去が、ようやく一つ成仏した……」

俺は、魔力というより、精神的な尊厳をすべて使い果たして地面に伏した。

「……お見事でしたわ、カイ。最後の一撃、少々……いえ、かなり『厨二病』が再発しているようなポーズでしたが、私たちを救ってくれたのは事実ですわね」

アリアが剣を収め、どこか呆れたような、それでいて深い信頼の混じった眼差しで俺に手を差し伸べた。

「……ふん。まぁ、助けてくれたことには感謝してあげなくもないわよ。……でも、さっきのノートの続き、あれだけは今すぐ、この世界から徹底的に抹消しなさいよね! わかった!?」

ルルが、耳まで真っ赤にしながら俺の胸ぐらを掴んで、ガクガクの俺を激しく揺さぶる。

「わ、わかってるよ……。もう書かない。……というか、もうペンなんて一生持ちたくない……」

俺たちの背後で、氷の階段を降りてくる冷徹な足音が響いた。

雪の女王・エルサが、満足げな、しかしどこか悪戯っぽい笑みを浮かべてそこに立っていた。

「……見事だ、人間。己の『業』を正視し、打ち勝ったか。……これで貴様に、その推薦状を持つ資格があることが証明されたな。……ゆくがよい。魔法学園は、この砂漠を抜けた先、中央大陸の入り口にある。そこで貴様のその『歪な力』を、正しく磨くがいい」

俺は、女王から手渡された、冷たく輝く氷の推薦状を握りしめた。

全財産は、いまだに20円(10円玉+領収書)。

しかし、俺の隣には、恥ずかしい設定画の被害者であるアリアとルルがいる。

「……行こう。一文無しで、膝もガクガクだけど。……まずは、次の街で美味いもん食って、……それから、温泉だ!!」

「温泉? 温泉ですの!? 素晴らしいですわ! 砂漠の砂を落として、メイド服を洗濯するチャンスですわね!」

「……温泉回……。嫌な予感がするわ。名探偵の私にはわかるわ、またあんたの厨二病設定が発動して、ろくなことにならないわよ……」

ルルの予言めいた呟きをよそに、俺たちはついに砂漠の氷城を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ