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【閑話】風呂事情
どこかでなされていた二人の会話です。
「シスルはどうして大浴場を使わないの?」
「え?」
「だって使ってないでしょ? 全然会わないもの」
いつかは聞かれると思っていた質問だった。
シスルは、あらかじめ用意していた理由を口にする。
「傷跡があって……胸に。手術の。見られたくないの」
「貴女が戦ってきた証でしょ。
恥ずかしいことじゃないわ」
思いがけない言葉に、シスルは少し呆気に取られる。リュシエラの瞳は、真剣そのものだった。
「ありがとう……でも、その、怖がらせたくないし」
「私たちだけでも、だめ?」
なおも引き下がらない彼女に、シスルはわずかに視線を逸らし――決定打を告げる。
「……ごめんなさい。父にきつく言われているから」
「そう。なら仕方ないわね。
大きな浴場の良さは、また別の機会に教えるわ」
「……ありがとう、リュシエラ」
「シスルも。理由を話してくれてありがとう」




