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まず初めに踊るのは

学友リュシエラとの"同盟"関係。

始まった学園生活は波乱の予感…?

 学園に来てから一週間。

 シスルは、リュシエラに助けられながら、少しずつ学園生活に慣れ始めていた。


 午前の授業を終えた昼休み。

 今日も二人で昼食をとったあと、共通区の広場にあるベンチに並んで腰を下ろし、他愛のない話をしている。

 

「シスル、あなた――編入試験は受けたのよね?」


「はい。魔法基礎、実技、術式理論。

 そのほか、基本科目から三科目です」

「……三科目“も”?」


 リュシエラが胡乱げな視線を向けてくる。


「中等科への編入だから、だと思います」

「いやそんな……」


 リュシエラはベンチの背に体重を預け、大きく仰け反った。


「うへぇ……。

 初等科から入学しててよかったぁ」


 大げさに肩を落とすリュシエラに、シスルは小さく首を傾げた。


「そう言うリュシエラさんは、初等部から特待生で?」

「まぁね。

 学年十位以内を、ずっとキープしなきゃいけないの」

「……そちらの方が、“うへぇ”なのでは?」

「それもそうね」


 あっさりと返されて、二人は顔を見合わせ、思わず小さく笑った。

 

「でも、貴女だって苦労してるじゃない」


 リュシエラは、少しだけ声を張って続けた。


「だれがコネ入学よ!グレイ先生から聞いたわよ?

 シスルの入試成績、過去最高得点だったって!」


 第二王子に、これ以上の“貸し”を作りたくなかった――

 そんな打算があったなどとは、とても口にできない。


 編入試験の結果がどうであれ、編入するという事実そのものは、最初から決まっていたはずなのだから。


「……山が当たっただけですよ」

 そう言って、シスルは視線を落とした。


「山張って、どうにかなる難易度じゃないんだけどなぁ?」

 呆れ半分、感心半分といった声に、シスルは小さく息を呑んだ。


「……第二王子殿下に、ご挨拶申し上げます」

 反射的に背筋を正し、頭を下げる。


「相変わらず他人行儀だね」

 柔らかな声が、すぐ近くから降ってきた。


「学園の中では、身分は関係ないんだよ?」

 そう言って、第二王子――エルドリックは、どこか楽しげに微笑む。


「エルドリック殿下と知り合いなの!?」

 驚きを隠そうともせず、リュシエラが声を上げた。


「知り合いっていうか……顔見知り、です」

「あぁ、夜会か。私は行かないから……」


 ひとりで納得したように頷いたあと、リュシエラは改めてエルドリックに向き直った。


「この元気な子は確か――」


 王子の問いかけに被せるように、彼女は胸を張る。


「中等部Ⅲ組の学級委員長をやってます。

 リュシエラ・アッシュフォードです!」


「あぁ、特待生のアッシュフォード嬢か」


 エルドリックは感心したように目を細め、軽く頷いた。


「もう新しい友人が出来たんだね。

 少し、妬いてしまいそうだ」

 

「えっ、なにそれ?」


 思わず声を上げたのはリュシエラだった。

 驚き半分、警戒半分といった表情で、王子とシスルを交互に見比べる。


「シスル、もしかして……殿下と、かなり親しいの?」

「夜会でご挨拶をしただけです」と、シスルは静かに首を横に振る。

 

「ふぅん」

 

 リュシエラは納得したような、していないような声を漏らしたあと、ぱっと表情を切り替えた。


「まぁ、いいや。学園では身分は関係ないんでしょ?」

「その通り」

 エルドリックは即座に頷く。


「だから今は、ただの先輩だよ。

 困ったことがあったら、遠慮なく声をかけておいで」

「……ありがとうございます」


 そう答えながら、シスルは面倒なことにならないよう祈った。

 

 けれど同時に。

 学園生活は、彼女が思うよりも、ずっと騒がしくなりそうだとも思うのだった。



「あっ、いたいた! シルヴェスターさん!」


 談笑を続けていたシスルたちのもとへ、同じクラスの少女が息を切らして駆け寄ってきた。


「大変なの! なんだか、すごい騒ぎになってるよ!」

「騒ぎ、ですか……?」


 少女はこくりと頷き、周囲を気にするように声を潜める。


「シルヴェスターさんの部屋の前で。ほら、一人部屋の……」


 嫌な予感が、胸の奥をひやりと撫でた。

 

 すぐさま向かったのは、生活区の女子寮。

 自室の前には、すでに小さな人だかりができていた。


「ほら、あの子でしょ?」

「来たわよ、血生臭いのが」

「次は、ああなるって言いたいのかしら」


 ひそひそと交わされる声が、棘を含んで耳に刺さる。

 断片的な言葉ばかりで、肝心の状況は掴めない。


「……何が、あったんですか?」


 シスルが問いかけると、近くにいた管理人が困ったように眉を寄せた。


「窓が割れていましてね。

 中から異臭がすると、通報があったんです」


 管理人が鍵を差し込み、慎重に扉を押し開く。


 幸い、部屋の中は荒らされた様子もなく、家具も整然としたまま。

 ただ――部屋に一つだけある窓が割られ、ガラスが床に飛び散り、その中心に見慣れないものが落ちていた。


 血の滲んだ、麻袋。


「……っ」


 思わず、息を呑む。


「中身は?」

 誰かが、好奇心に勝てず問いかけた。


「動物の血ですね。危険なものではないようです」

 管理人はそう説明したが、ざわめきは収まらない。


 その中で、シスルは静かに部屋へ足を踏み入れた。


「ちょ、ちょっと……!」


 リュシエラが止めるのも構わず、床に落ちていた麻袋を掴み上げる。


「ひっ……!」


 どこかで短い悲鳴が漏れたが、シスルは気にも留めなかった。結び口を解き、袋を開く。


 中に入っていたのは――

 血に濡れた、鶏冠を飾る鶏の頭だった。


 生々しい匂いが、ふわりと広がる。


「……なるほど」

 シスルは小さく、そう呟いた。


 それは脅しであり、見せしめである。

 とても分かりやすい悪意だった。


 周囲の視線が、一斉に彼女へ集まる。

 だが、シスルは表情を変えない。


 ただ静かに袋を閉じ、管理人へと差し出した。


「処理を、お願いします」


 その声音は、震えてもいなければ、強がってもいなかった。


 ――どうやら、この学園は。

 静かに過ごすことを、簡単には許してくれないらしい。


 そんな予感を裏づけるように、次の騒ぎは中庭で起きた。

 


 第二王子――エルドリックは、女子寮の前でシスル達を待っていた。

 もちろん、その周囲には嬉々として集まった女子生徒たちが群がっている。


「殿下! 中庭の件はおききになりまして?」

「私恐ろしくって、殿下なら――」


 甘い声が飛び交う中、エルドリックは愛想よく手を振りながらも、それらをさらりと受け流す。

 そして、迷いなく視線を定めた先へと歩み寄ってきた。


 ――シスルのもとへ。


「ちょっといいかい」


 軽い口調とは裏腹に、その黄褐色の瞳は冗談を含んでいない。


「中庭で、少し妙なものが見つかってね」

 声を落とし、周囲に聞こえないように、続ける。


「君の部屋の騒ぎとも、関係があるかもしれない」


 ざわり、と空気が揺れた。

 周囲の生徒たちは、王子が“誰と話しているのか”を察し、好奇と嫉妬の混じった視線を向けてくる。


「そうですか」

 シスルは短く息を吐いた。


「怖がってる?」

 からかうように尋ねつつも、その声色は探るようだ。


「いいえ」

 即答だった。


「ただ――随分と、手の回る方がいらっしゃるのだな、と」


 エルドリックは一瞬だけ目を瞬かせ、次いで楽しそうに笑った。


「強がりでも、虚勢でもない。

 なるほど……やっぱり面白いね、君は」


 そして、悪戯っぽく肩をすくめる。


「嫌な役回りだけど、放っておくわけにもいかない。

 一緒に来てくれるかな、シスル嬢?」


 それは問いかけの形をしていたが、断れる選択肢はない。シスルは一瞬だけ周囲を見渡し、すぐに視線を戻した。


「……ご案内いただけますか。殿下」


 その一言で、周囲のざわめきが一段大きくなる。

 ――騒ぎは、まだ終わりそうになかった。

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