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【閑話】あの子の願い
——あの子は、最後まで森の名を呼ばなかった。
呼べば、帰りたくなってしまうからだと、笑った。
白い寝台。
人間の国の重たい空気。
魔素の薄い部屋。
「大丈夫よ、兄さま」
そう言って、細い手が伸びる。
その指先は、もう冷たかった。
エルフは死を急がない種族だ。
ゆっくり衰えることはあっても、
こんなに早く朽ちることはない。
——この国の空気は、重すぎる。
あの言葉が、今も耳に残っている。
そして。
「この子は……この国で生きるわ」
産まれたばかりの小さな命を抱いて、妹は微笑んだ。
「だから、奪わないで」
その願いを、守れているのか。
青年は窓辺に立つ。
夕陽が校庭を染める。
その中に、少女の横顔がある。
——同じ道は、歩ませない。
それが、
妹の願いを守ることなのか。
それとも、踏みにじることなのか。
まだ、わからない。




