聖女の遺物
王都ではすでに黒煙が上がっていた。
「やる気だね。」
アナーシャが呟いた。
「ノクサだけじゃない……」
ユーノが目を細める。
「ギャングだね。」
アナーシャは即座に言った。
遠くで爆発が起こった。
「派手な陽動だね。」
アナーシャは冷静に続けた。
「いや違う。」
連は言った。
「ノクサはそんなことはしない。」
連は確信を持っていた。
「国を潰すなら、まず守りを割らなきゃいけない。でもノクサはそんな回りくどいことはしない。」
ノクサなら正面から叩き潰す。
「なのにそんなことをするなら何か目的がある。」
「……抗えとのことだから強い人をあぶり出したいんじゃないかい?」
アナーシャが少し考えて言った。
遠くで鐘が鳴り響いた。
王都のあちこちで、光が打ち出された。
また一つ、爆煙が上がる。
今度は王都中央。
「あそこは騎士団本部、市民を狙ってるわけじゃない。」
ユーノが言う。
「“頑張って抗ってね”って……」
ユーノの声は震えていた。
「王国がどこまで抗えるか、試してるんだろうね。」
アナーシャがわずかに笑う。
「それだけじゃないね。」
「見てご覧。」
アナーシャの指の先で王城に結界が張られた。
「王国の結界だね。」
「市民が周りにいないのはすでに避難したんだろうね。」
「呼び寄せてみるかい?」
「その必要はないよ。」
背後にノクサがいた。
「『歴史』が出るなら本気で叩きつぶすよ?」
「記録できないのは困るな。」
アナーシャは苦笑した。
「私を止めるのはいいんだけどさ、二人で止めるのは無理ない?」
つまらなそうに言った。
「そんなこと……」
「そっちの子は泣いてたくらいしか印象がないんだけど?」
ノクサは途中で遮って言った。
「今は違う。」
ユーノは弓に手をかけ目を見ていった。
「ふーん。」
ノクサは興味がなさそうだった。
「『歴史』を連れてきたのは評価してもいいけどそんなんじゃ私の退屈は殺せないよ?」
連がタガーを構えた。
「やる?」
ノクサが言った瞬間ユーノが弓を放った。
矢は一直線にノクサへ向かった。
ノクサの瞳がわずかに細まった。
「へぇ……」
当たる直前矢は下に落ちた。
「少しはやるね。」
切りかかった連のタガーを指で弾きながら言った。
「それだけ?」
再び切りかかった連のタガーを指で挟んで止めて言った。
「工夫しなきゃ私に攻撃なんて当たらないよ。」
「私は教会を壊すのが一番の目的だし行くね?」
「次はもうちょっと強くなって置いてね。」
そう言い残してノクサは跳んだ。
人が跳べる高さでは無かった。
「……教会?」
ユーノが呟いた。
ノクサの姿は、すでに空の向こうへ消えていた。
「教会って……狙いは王城じゃないのか?」
連が顔を上げる。
都市中央の塔の上部が吹っ飛んだ。
「本命はあそこか……」
連は歯を食いしばった。
「教会は神じゃなくて聖女を祀っている。」
「そして教会には聖女の遺物が収納されている。」
ユーノが息を呑んだ。
「そんなにやばいのか?」
「聖女の功績はいくつもあるし遺物単体でもかなり強いからね。」
アナーシャはしばらく黙ってから言った。
でも、と続けた。
「聖女の最大の功績は理の討伐だろう。」
「理って何なんだよ?」
「一応生物という事になってるよ。」
「一応?」
「歴史上、討伐されたのはたった一体。」
「その一体すら、“完全に理解された”とは言い難い。」
「その理が教会に?」
ユーノが聞いた。
「いや、教会にあるのは聖女の遺物だけだ。」
ユーノは肩の力を抜いた。
「安心は出来ない、聖女の遺物を取られたら王国が滅びる。」
「……そこまでなのか?」
「遺物は王国の抑止力だからね。」
アナーシャは遠くの黒煙を見つめたまま続ける。
「それがあるだけで外敵は来ず、内戦も起こらない。」
遠くで塔が崩れ落ち、地面がわずかに揺れた。
「遺物は三つあってね。」
アナーシャは指を三つ立てた。
「指輪、杖、剣。」
「指輪は身体能力を限界以上に引き上げる。」
「杖は致命傷すら癒やす。」
「剣は代償に応じて威力が増す。」
「理を倒した最強の遺物だよ。」
アナーシャは静かに続けた。
「傷を負うたびに癒やし、」
「限界を超え、」
「ありとあらゆるものを代償に差し出した。」
「そうして理は沈んだ。」
王城の結界に、細い亀裂が走った。
「昔話してる場合じゃなさそうだね。」
アナーシャは小さく頷いた。
「時間がない、教会へ急ごう。」




